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13.真実。

 "鋼甲虫こうかっちゅう"

 それは、巨大人形兵器を搭載した巨大な空中戦艦の名前である。

 カブトガニをモデルとして作られた鋼甲虫は、ジパンクーネの象徴とも言える戦艦であった。

 他国にも同じように空中戦艦が存在したが、移動速度、移動距離、回避性能、主砲の威力、遊び心を取り入れた奇抜なフォルム。

 何を置いても他国の戦艦を出し抜いていた。子供達は空を飛ぶ戦艦を見て夢を抱き、心を躍らせていた。

 しかし、その憧れの象徴も、コスト面で消えた巨大人形兵器と同じ運命を辿り、何時しかジパンクーネの空から消えたのである。

 しかし、その人気だけは消える事はなく、模型や絵本となり、何時の時代も子供達に大絶賛されたのである。


「その鋼甲虫に……俺は乗ってんだなぁ! く~! もう処刑されても本望だぜ!」


 恭二もそんな子供の一人である。彼は今、その憧れの戦艦に乗って興奮していた。

 そこは休憩スペースである。窓に張り付いて外を見る恭二は少年のように目を輝かせている。

 そんな様子を後ろで見ていたリーネは、備え付けのコーヒーメーカーのボタンを押した。


「あら。処刑だなんて勿体ないことしないわよ。楽しんでいるようね。飲みなさい」

「あ、どうも。確かこの戦艦をメンテナンスしてた……リスさん?」

「リーネよ。学園の生徒でもないのに敬語は必要ないわよ」

「そうか? じゃあ遠慮なくそうさせてもらう」

「そうそう。好きにしなさい。これから嫌でも私と沢山話をする事になるでしょうからね」

「話しか……吸ってもかまわねぇか?」


 タバコを咥えながら恭二は確認を取る。

 リーネは頷くと、並べられた椅子に座り、隣を指差す。

 恭二は意図を察し、ジッポでタバコに火をつけると、頭を右手でポリポリ掻きながら座る。


「んで? 適合者ってなんだ?」

「話が早いわね。あなた。巨大人型兵器を知っているかしら?」

「これでもジパンクーネ人だぞ、知ってるに決まってる」

「それもそうね……純粋なジパンクーネ人の恭二が羨ましいわ」

「羨ましい?」

「私は見ての通り純粋なジパンクーネ人じゃないわ。ギーリスカント人の母とジパンクーネ人の父を持つハーフなの」

「その髪の色ギーリスカント人の……あんま外の国の事は知らないけど……?」


 恭二はふと疑問を頭に浮かべた。思い出したのは雨美の言葉である。

 四大名家シャルアート家のご息女様。確かにそう説明されていた。


「どうしてまた。他国の人間がジパンクーネの四大名家になったんだ?」

「シャルアート家は国を追放された没落貴族だったのよ」

「没落貴族……」

「ジパンクーネとアーメリンズの平和同盟の調印式の日。現場の護衛を任されていたのが私の曾祖母だったわ」


 シャルアートは目を伏せて続ける。


「ジパンクーネの大統領を死なせてしまった。中立国だったギーリスカントは負い目を感じたんでしょうね。別に責任を追及された訳でもないのに、一族全員をジパンクーネへ受け渡したの」

「……酷いな」

「曾祖母は国を愛していたわ。自分一人の命で一族は許してくれと遺書を残して自害したそうよ。国を信じてね」

「決定は覆らなかったんだな?」

「ええ。私のママはまだ小さかったけど、ジパンクーネに行けば処刑されると聞かされて、恐怖で綺麗だった髪を掻き毟って、今でも酷い有様よ」


 目頭に涙を浮かべて、リーネは続ける。


「でもね。私達を迎えたジパンクーネ人はそんな事しなかった。シロアモーメンのせいで国を追われた一族を逆に可哀想にと言って、暖かく迎えてくれたのよ」

「普通に考えればそれが当たり前だ」

「そうね。ギーリスカント人は常に周りに良い顔をして媚を売ってきた人種よ。そのせいで心まで臆病になってしまっていたのね」

「それで一族はどうなったんだ?」

「布嗚家の分家にして貰えたのよ。それで名家の仲間入りをして、ここまで上り詰めたのよ」

「そ、そんな事が可能なのか?」

「布嗚家の分家の中から一人選を選んでシャルアート家へ婿養子に迎えたの。布嗚 弦次げんじ……私のパパよ」

「てことはあの男おん……副艦長とリーネは」

「ええ。透と私は少しだけ血が繋がっているわ。シャルアート家の人間は布嗚家に返しきれい大きな恩がある。だから私達は生涯尽くすと誓ったわ」

「恩返しってやつか、好きだぜそういうの」

「ありがとう。私がプーリッツ学園の校長になったのも……あらいけない。話が逸れていたわね」


 リーネは椅子から立ち上がると、本題に戻りましょうとウィンクして、右手の人差し指を恭二に向けてる。


「あなたは今日から中型人形兵器、紅鬼べにきのパイロットよ!」

「…………はぁ?」


 恭二は生まれて初めてのぽっかーんとした顔で、首を90度曲げて返事をした。

 

 ………………。

 ……………。

 …………。

 ……。 


「うぉおおおおおおおおおおおお!? 俺は飛んでるぜー!」

「あははっ、凄い興奮してるね」

「そりゃそうだろ! こんなの模型や資料でしか実物みたことねぇよ!」

「学習用のナノマシンはちゃんと動いてるみたいだね」

「ああ! どうすれば操縦できるのか手に取るように分かるぜ!」


 恭二が握っているのは、赤鬼を模した中型人形兵器、紅鬼の操縦桿である。

 そのコクピットの中で、恭二と透が座っていた。透の現在位置は恭二の太股の上である。

 落ちないように恭二の首に両手を回しているその様子は、男にお姫様抱っこされている女そのままである。


「自由に飛び回れて凄く気分がいいけどよ。何でこうなった? いや、男と分かっちゃいるけど照れるんだが……補助席とかないのか?」

「一人乗りに設計してあるから。あ、また攻撃来るよ」

「来たか! うぉおおおおおおお! 回避するぜぇええええええ!」

「人型兵器に乗る人って皆一々叫んだりするのかな? 軽い興奮状態?」


 目前に見えるのは鬼と化した蕾である。彼女は光の円柱の上に立っていた。

 手にしているのは怨念を象ったような薙刀、桜一紋である。

 それはまるで泣き叫ぶ歪んだ人の顔のようにも見える。

 蕾は空中を飛びまわる紅鬼を見上げ、桜一紋の切っ先下げて後ろに振りかぶっている最中である。 

 泣き顔のような薙刀は、紅く光る円柱からSPを吸収すると、紅く輝いた。


「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 そして、悲しそうな叫びと共に、後方から斬り上げられた桜一紋から三日月に似た形の斬撃が飛ぶ。

 全方位モニターの正面に迫った斬撃を確認し、恭二は右手の操縦桿を右に傾け、左足のペダルを踏み込む。

 紅鬼の胴体が左に傾き、ペダルを踏み込んだことで背中のブースターが起動し、紅鬼は左にずれる事で斬撃を回避した。

 斬撃は厚い雲を真っ二つに割りながら空へと消える。


「あっぶねー! あんなもん当たったら一発だぞ!」

「上手い上手い。その調子で避け続けてね。無駄に撃たせれば蕾のSPが消費されるから」

「あの足元のが全部SPの塊なんだよな……本当にあの作戦で大丈夫なのか?」

「問題ないよ。勝負は一瞬だから気を抜かないでね」


 恭二が見るのは蕾が足場にしている円柱である。それ全てが、彼女が生み出したSPなのだ。

 円柱は所々丸い穴が空いている。鋼甲虫・巴の電光砲で貫いた痕である。


『船主電光砲充電率100%です! いつでも撃てます!』


 全方位モニターに後方で待機している鋼甲虫・巴のオペレーター、雨美の姿が浮かぶ。、


「蕾さんのSPはもう減少に向かっているかな……よし、予定より早いけど次の発射と同時に、作戦の通り頼むよ!」

『もし蕾に傷一でもつけたら許さないわ! 助けても許さないけどね! ……感謝はしてもいいわ』

「満さん感謝はするんだ。その顔、蕾がそっぽ向く時とそっくりだね」


 透がにっこり笑うと、モニターに映る満は明らかに嫌そうな顔をする。


『調子に乗らないでよ。蕾を助ける為に協力しているだけ何だから! ふんっ!』


 満は言うだけ言うと、そのままモニターから消える。

 

「複雑そうだな。女遊びも大概にしとけよ。女が女を泣かせるもんじゃない」

「それ、かなり違う。それに僕は……はぁ、まあいいや」


 妙な勘違いをしている恭二に溜息をつきながら、透は男であると訂正するのも疲れた様子である。

 そして、モニターに映る雲上に向かって視線を強くする。 


『電光砲カウントダウン開始します! 5、4、3、2、1……撃てぇえええええええええい!』

『船主電光砲! 発射!』


 サブオペレーターAが発射ボタンを押すと、鋼甲虫・巴の船主電光砲発射口が、青色の光の渦を構築する。

 巨大な渦が球状に固まった瞬間、電光砲は発射された。

 音を置き去りにした電光砲は、一筋の光の線を空中へと残しながら、赤い円柱のど真ん中を撃ち抜き、巨大な穴を開ける。


「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 今までにない振動で蕾の体が大きくバランスを崩す。

 桜一紋に集まっていたSPも円柱を貫かれたことで爆散した。


「今だ恭二!」


 透はすでに紅鬼の右手の掌にしゃがみ込むようにして乗っていた。

 その体を包み込んでいるのは球状の透明な膜である。

 英雄石から発せられるSPがシールドの役割を果しているのだ。


「おう! うおぉおおおお! 行ってきやがれ馬鹿女ーーーー!」

「僕は……男だーーーーーーー!」


 恭二の叫びと共に、透は野球ボールよろしく、蕾に向かって投げられた。

 透は蕾の体に向かって一筋の青い線になって飛ぶ。電光砲にも勝るとも劣らない速さである。


「つぼみぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」

「きゃぁああああああ!」


 右手を伸ばす透が彼女の名前を呼ぶ。

 次の瞬間、驚いたような目つきを見せた蕾は透にぶつかった衝撃で口元のプロテクターが破壊され悲鳴を上げた。

 そして、その体は円柱の外へ向かって弾き飛ばされた。


「蕾……! いけない!」


 地面に着地した透は蕾に向かって走る。弾き飛ばされた蕾は円柱の台から落ちようとしていたのだ。

 鬼の鎧は大きく破損している。このままでは蕾は生身で地面へと叩きつけられてしまう。


「嫌ぁあああああああ!」


 叫びを上げたのは満である。

 あの日見た光景が、モニターに映る蕾と透に重なった。

 

「退いて!」

「元総司令補佐!? 何を!? きゃぁ!」


 ザブオペレーターの女性兵を一人を突き飛ばすと、満は基盤を操作し始める。

 

「稔梨様を殺させない!」

「錯乱してる……取り押さえろ!」

「オトビィィイイイイイイイイイイ! シネェエエエエエエエエエエ!」

「電光砲が!? 透君逃げてぇえええええええええええ!」


 女性兵達が取り押さえよりも一瞬早く満によって発射された電光砲が、雨美の悲鳴と同時に透の体に迫る。


「な、にやってんだ……くそ……」

「恭二!」

「俺は気にするな! さっさと捕まえろぉおおおおおおお!」


 しかし、透に迫った電光砲を間一髪のところで、恭二が乗る紅鬼が盾となって止めた。

 透は半壊して宙に飛んだ紅鬼を横目に見ると、小さくありがとうと呟いて、再び前を向いた。

 見えるのは蕾の右手である。その体はもう半分が円柱の下へと落ちようとしていた。


「あ……そんな……」


 満は女性兵達に取り押さえられて、地面にうつ伏せに這いつくばって、その光景に目を見開く。

 円柱の端で、透の左手が蕾の右手をしっかりと掴んでいた。


「……そっか。あの時本当は稔梨姉さんを助けようとして……私の……馬鹿」


 満は両腕で顔を隠すと、後悔の声を出して静かに泣いた。


「はぁ……はぁ……。まったく、この鬼のお姫様は……ふふっ、しょうがないな」

「う、ん……お母さん……お帰り」


 幸せそうな寝言を言う蕾を見て、透はやれやれと首を左右に振った。


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