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11.接吻。

 "Skirt Armor"

 通称SA計画と呼ばれたその実験は、まだジパンクーネが巨大人型兵器が支流だった頃、OPが開発される前に行われていた。

 巨大人型兵器をコンパクト化、機動力や殲滅力はそのままに小さな鎧に替えてスカートに再形成し、自由に装着出来るようにしたのである。

 当時、アーメリンズとの拮抗した戦争状態にあったジパンクーネは、この技術に国運を委ねていた。

 しかし、その強大過ぎるSAの力は、悲劇を生んでしまう結果になる。

 "脳波制御遠隔操作システム"

 脳の電気信号から命令を感じ取り、SAを部分的に動かすこの技術が全ての原因。

 このシステムには空を飛ぶのに必要なブースター等を、自分の体の一部のように操作する為の制御AI、人工知能が備わっていた。

 このAIが暴走したのである。電気信号を逆流させ、女性兵達の意識を強制的に刈り取ってしまったのだ。

 これにより女性兵は脳にダメージを受けて意識不明に陥ったのである。


 この悲惨な実験結果を重く見た当時の軍上層部は、実験を永久凍結する決定を下した。


「きゃぁあああああああ!」

「あぶねぇ!」

「え……?」

「ほら、ぼーとしてないで早く乗れ! シェルターへ非難するぞ!」

「……あ、ありがとう!」


 倒れてきた電柱から少女を救ったのは、この街でチンピラを束ねる男。周藤すどう 恭二きょうじである。

 彼は女に蔑まれて生きて来た。男をゴミのように扱う女が嫌いで女狩りをする毎日。

 捕まれば刑務所から永久に出られないであろう彼が、今は偶然全見かけた少女をバイクの後ろに乗せて走っている。

 眼鏡を掛けている臆病そうな顔の少女は、プーリッツ学園の白い制服を着ていた。


「あのー! どうして男なのに女の私を助けたんですかー!」

「あー! 知るかよー! 俺は女は嫌いだー! 殴りたいほどなー! けどよー!」


 瓦礫の山が散乱する道路を、バイクで右へ左へと疾走しながら、恭二は視線を上げた。

 そこに見えるのは空に浮かぶ鬼である。その鬼は赤い柱の閃光と共に、夜の空を切り裂いて姿を現した。

 そして、その手に持つ怨念を象ったような薙刀の一振りで、鬼は街を壊滅させたのだ。


「俺は男だからなー!」

「そ、それが理由ー!?」

「女を護る男の理由なんてそれで十分だろー!」

「か……かっこいい」

「なんだー! 風で聞えなかったぞー!」

「な、なんでもない!」


 恭二の乗るバイクはそのまま走り続け、巨大なドーム型シェルターへと到着した。

 ドームの前には軍服を着たスカート部隊の女性兵が数人立っていた。

 その前に一列に並ぶのは街の住人達である。


「個人情報を照会させてもらう! 順にスキャンボックスに手を置いてからシェルターへ速やかに移動しろ!」

「助かったぜ」

「おい。何をしている貴様?」


 最初に並んでいた男が、置かれた箱型のスキャン装置に手を当てると、女性兵は目を細める。


「女からに決まっているだろう、このゴミが!」

「ぐあっ!?」

「あの野郎!」

「だ、駄目よ! 逆らったらおじさんも酷い目に!」


 腹に膝蹴りを受けて地面に倒れた男を見て、恭二は思わずバイクから身を乗り出したが、後ろに座っていた少女が両手で止めた。

 しかし、女性兵には聞えていたのか、馬鹿にしたような顔で笑いながら恭二の前に歩いてきた。

 

「男の分際で私に何か文句でもあるのか?」

「なんだ。よく見たらションベン臭い餓鬼じゃねぇか」

「しょ、しょん……。 き、貴様ぁ~! 私はこれでも23だ!」

「俺は27だ。やっぱりションベン臭い餓鬼だな」

「27……ギリギリいける」

 

 バイクの後ろで少女が軽くガッツポーズを見せる。


「あん? なんか言ったか?」

「な、何でもない!」

「私を無視して何をいちゃついている! もう許さん!」


 女性兵はOP手に取ると、スロットにセットする。

 緑色のSPがタイト型スカートから空中に舞い、それは小型の機関銃に変化した。

 空中に浮かぶ機関銃を手に取った女性兵は、体を薄い緑色に発光させながら、面白そうに銃口を恭二に向ける。


「地面に這いつくばって、許してくださいと犬のように鳴けば見逃してやるぞ」

「てめぇ……殴る!」

「待ってください! この人は私が危ないところを助けてくれたんです!」


 バイクから飛び降り、恭二の前に出て、少女が両手を広げて庇う姿勢を見せる。 


「当たり前だ。男が女を護るのは当然の義務。女によってこの国は護られている。男は女によって生かされているも同然なのだからな……その制服、お前はプーリッツ学園の生徒か?」

「は、はい! プーリッツ学園一年C組、情報部専攻。雲上うんじょう 雨美あまみ訓練生です!」

「ならば私の命令は上官命令に値するのを知っているな? そこを退いてもらおうか」

「嫌です! 動きません!」

「お前……どうして俺を」


 雨美は女性兵の意図を察した。彼女は恭二を殺すつもりなのだ。

 どうにかして助けたい。雨美はそのまま彼の前から動こうとしなかった。

 黙って見ていた恭二も雨美の行動に驚いた様子で、握り締めていた拳を緩めた。


「その男はシェルターへの誘導を遅らせたのだ。これは善良な市民を危険に晒す重罪だ。この場で処刑する」

「うん。丁度いいや、君みたいな外道からなら吸っても問題ないね」

「!? 貴様何者だ! 何時の間に私の後ろに!」


 急に女性兵の後ろに現れたのは透である。制服はボロボロになっている。

 破れた制服から覗く白く美しい肌には、痛々しい擦り傷が見て取れる。

 振り向いて銃口を向けようとした女性兵のネクタイを左手で掴み、透は顔を近くに引き寄せた。

 透の方が背が高い為に、女性兵は少し爪先立ちになる。


「なっ……き、貴様、私を誰だと思って」

「僕は機嫌が悪いんだ。馬鹿げた事に使うエネルギーは君に必要ない。僕が全部吸い尽くしてあげるよ」

「んぐっ!?」


 女性兵は透の唇によって言葉を中断させられた。

 ビクンと体を震わせた女性兵の体を包んでいた緑色の光が徐々に薄れる。

 体を強化していたSPを透に吸われているのである。


「や、め、はむっ、ゆるひ、んむ……ん」


 唇を離して奪われてを繰り返し、女性兵はもう止めてと言うように、目に涙を浮かべて首を軽く左右に振る。

 しかし、透は彼女に冷たい視線を送り続けたまま、許す事無くSPを吸い続けた。

 女性兵は必死に逃げようとするが、後頭部を透の左手で押さえつけられ、顔を背ける事も許されなかった。

 やがて機関銃がカードへと変わり、全身の力を失った女性兵の手から地面に落ちる。


 スカート部隊の女性兵はSPで日頃から体を強化している。

 脱げば一時的にその能力は下がるが、体に残るSPまで一気に消える事はない。

 もしも全てのSPを失った場合、女性兵に待っているのは死である。


「酷い、よ、こん、なの……死に、たくない」


 威厳を失い純真な乙女の顔になった女性兵は、体を仰け反らせるようにして意識を手放した。

 その背中を左手で支え、透はその体を地面にそっと寝かせる。

 所々赤い擦り傷だらけだった透の体は、白く美しい肌を取り戻していた。


「最悪……そこまで父親譲りなのね。そこのあなた、赤い顔してないで、私の着替えをお願いできるかしら?」

「え? あ、元総司令補佐官の満様!? 失礼しました! 持ってまいります!」


 ジープのハンドルを握っている満を見ると、女兵士の一人が敬礼をして、慌てて支援物資車に走る。

 彼女の軍服も透と同じようにボロボロになっていた。


「す、凄かったね今の透君。今のも布嗚流の技なの?」

「ん……そうだよ。無事みたいだね。学校の寮も全壊したって聞いてたから心配してたんだよ」


 透は駆け寄ってきた雨実を見て、何時ものやさしい表情をする。

 彼女は入学式の日、透に体育館裏へ呼び出された、大きな丸眼鏡の女子だったのである。

 雨美は横たわる女性兵を見て、不安な顔をする。 


「殺しちゃったの……?」

「気絶してるだけだよ。息をする程度にはSP残しておいてあげたから」

「そ、そっか! よかった」


 雨美は心底安心した顔をすると、女性兵の頭を持ち上げて膝枕を始める。

 その目は優しさに満ちていた。


「お前、女同士で変な事してんじぇねぇよ」

「僕は男だよ……? 誰だっけ?」

「お前を襲ったチンピラのリーダーだよ! ついさっきなのに忘れたのかよ! て……」

「て?」

「男おおおおおおおおおお!?」


 その日、恭二は人生で一番の絶叫を上げた。

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