1.プロローグ 彼の名前は布嗚 透。
※残酷描写は念のためです。基本ソフトに行きたいと思います。
S歴2118年4月10日
世界は戦火の時代。
ジパンクーネ国、アーメリンズ国の連合軍。
対するはドイシュルゲート国、シロアモーメン国の連合軍。
九年にも及ぶ世界を二分した戦争は終息へと向かっていた。
「止めろ! 祖国で待つ家族はどうする!」
「ごめんなさい……私はもう生きてはいけないわ」
向かい合うのは男女二人はジパンクーネの軍人、男は軍服、女は下着姿である。
女の体には暴行を受けた痣が痛々しく残っている。後ろは崖。下に見えるのは荒れ狂う海である。
「お前を襲った連中は一人残らず俺が! だから早く治療を!」
「優しいのね。最後にお願い――」
彼女の最期の言葉は波の音に消えた。
男には聞えていたのか、その瞬間走り出し、ゆっくり後ろに倒れる女の手を掴もうと右手を伸ばす。
しかし右手は何も無い空を掴み。女は荒波の中へと落ちて消えた。
「くっ……バカヤロウォオオオオオオオオオオオオ!」
崖の上で、女の手を掴み取れなかった右手を握り締め、男が大きく叫んだ。
女が自殺した翌日、戦争はジパンクーネ、アーメリンズ連合軍の勝利で終わりを告げた。
時は流れ、S歴2122年4月10日。ジパンクーネ国。
ここはジパンクーネ四大名家の一角、布嗚の本家である。
アーメリンズの西洋式住宅が増える中で、ジパンクーネ古来より続く和風な住居。
その文化を思わせる住居の一室に一人の青年が居た。
敷布団で姿勢良く眠るのは、布嗚家の跡取りである青年、布嗚 透である。
「ん……朝か」
障子作りの丸い窓の隙間から差し込んだ朝日を目蓋に感じ、透は顔を背けて体を起こす。
その声はとても綺麗で澄んでいる。彼は女性と聞き違える程の美声の持ち主である。
透は掛け布団を左手で退けて立ち上がり、丸い障子作りの窓を開ける。
日差しが一気に部屋の中に入り、薄暗く目視出来なかった透の全身が露になる。
朝日を受けて光沢を見せる夜空にも似た黒髪。
短くまとめられた髪は前髪の右側だけが長く、右目を覆い隠している。
常に半開きの左目は悩ましい光を放ち、見た者の心を掴んで離さない。
スラリと背の高いスレンダーな体。寝浴衣の隙間から覗く肌は白く美しい。
布嗚 透。彼は美しい女性の容姿を持つ美青年である。
スルリと帯を解くと、透は浴衣を脱いで全裸になり、枕元に綺麗に畳まれて置かれた服を着込む。
黒のボクサーパンツから始まり、黒の丈の短いタンクトップ。黒い色の靴下。
黒の長ズボンを穿いて、灰色のカッターシャツに袖を通す。
黒を基調とした白が混じるブレザーのボタンを、一つ一つ綺麗な指先で留める。
こうして彼の着替えは終了となる。
それはプーリッツ学園高等部、男子生徒用の制服である。
着替えが終了して透は道場へと足を運び、木で出来た引き戸を開いた。
「おはよう」
「おはようございます若様!」
声を揃えて透に挨拶をするのは、布嗚家に使える使用人の女達である。
しかしこの使用人、今は透の身の回りの世話をする為に居る訳ではない。
ミニスカートのメイド服という異様な姿をした彼女達は、獲物を見つけた獣のような目をしている。
「みんな揃ってるね。さっそく今日の訓練を始めよう」
透の一言で視線を強めるメイド達、訓練開始の怒号は一斉に上がった。
「やぁああああああああ!」
メイド達は一斉に透へと飛び掛った。
その手には刀から銃に至るまで、ありとあらゆる武器が握り締められている。
「あははっ、今日もみんな元気だね。よろしくお願いします」
透は臆するどころか楽しそうに笑うと、彼女達を見たまま後ろ手で扉を閉めた。
扉の中の向こうで何が行われているのかは分からない。
しかし、声は聞こえてくる。それはメイド達の悲鳴である。
「私の刀を簡単に――ひゃぁあ! 止めて、お願い取らないでー!」
「そ、そんな、この銃弾の雨の中を――きゃぁああ! そんなに引っ張らないでー!」
「落ち着いて皆! これだけの数を相手にすれば必ず隙が――まったくないー! 取っちゃ嫌ぁぁあ!」
「あ、あ……ごめんなさい。抵抗しないから、せめて優し――ひぃぃぃ、そんな無理やりー!」
数分間メイド達の悲鳴が道場から聞え、その声はぴたりと止んだ。
聞えてくるのは、扉に向かって歩いてくる誰かの足音だけである。
「ふぅ……お疲れ様でした」
透は扉を開いて外に出ると、軽く会釈して扉を閉める。
その隙間から見えたのは、床に散乱するミニスカート。
そして、息を荒くして倒れるメイド達の姿であった。




