てぃあーず・あばうと・8
昨日、駅で何年かぶりでアナタを見ました。
アナタは、あたしが判らなかったみたいだったけど……あたしには、すぐにアナタだと判った。
スーツ姿のアナタはすっかり変わっていて、
キッチリ分けた髪の毛、
昔は整髪剤なんて大嫌いだって言ってたのに。
お腹も何だかぷっくりしてて、
変な色の変なストラップの付いた携帯で誰かと話してた……。
でも、アナタはアナタでした。
あたしがアナタに声を掛けなかったのは、おんなじホームの上にいたのに、まるで何だか違う宇宙にいるみたいだったからです。
遠い遠いところから、アナタの姿を覗いているみたいだったからです。
あたしも……すっかり変わったよ。全然変わっちゃった。
昔好きだったカフェ・オレが、今では飲めなくなりました。
あんなに好きだったCDも、もう何年も聴いていません。
赤いスカート、似合わなくなった。
グリーンのマフラーはなくしちゃった。
あの頃のあたしが、もういないように、
あの頃のアナタは、もうどこにもいないんだね。
あたし、勝手に勘違いしてた。
あたしはどんどん変わっていくけど……アナタはアナタで、ずっとそのままどこかで暮らしているみたいな気がしてた。
いつでも会いに行けば……昔のままのアナタに会えるって信じてた。
でも……違った。
あたしの知ってるアナタは、もういない。
勇気をくれてたアナタは、もういない。
今、あたしが話し掛けている『アナタ』はいない。
今、あたしが話し掛けている『あたし』だっていない。
もういない……いないんだ。
そう気付いたら、悲しくて、悲しくて、
あたしは枕をギュッと抱いて、悲しい気持ちで眠りについた。
夢の中に……昔のままのアナタが出て来たよ。
昔のままのアナタが、昔のままのあたしに言ってくれる……。
『なんにも変わっちゃいないじゃないか。
お前はずっとお前のまんま。
なんにも変わっちゃいないじゃないか』って……。
そう……あたし、心の中のどこかは昔と変わっていない。
アナタもきっと、心の中のどこかは昔と同じはず。
だけど……だけど。
眼を覚ますと、アナタはいない。
あたしの涙が……枕を濡らしていた。
あれから……8年。
1・2・3・4・5・6・7・8……!
……8つばかりの涙が零れる。
15年くらい前に書いた物を、7年前に直して、今日また直しました。