9 過去
かなり、放置していました。
もう書き上げてあるので、定期的に更新します。
谷岡香織と笠井ゆりは仲のよい友達であった。香織は気が強く思ったことははっきり言う子だった。ゆりのほうはあまり、人付き合いはよくなく、何か影を抱えたような子であった。香織はゆりのそんなすこし影のあるところを魅力的に思い、親しく付き合っていたのだった。ゆりのほうもクラスの人気者の香織のほうから親しくしてきたので喜んで友達づきあいをはじめたのであった。
しかし、その関係は二人が中学三年生のころに崩れてしまった。
ゆりはあることを言おうか言わないか迷っているようだった。香織はよくクラスの中で使用する笑みでゆりを促した。すると、ゆりは決心して顔を明るくして話し出した。
「わたし、嫌いだな、と思う人はすぐにやっつけることができるんだ」
香織は彼女の言っていることが理解できなかった。
「それって、どういうこと?」
「あのね、私には雷が出せるんだ」
香織はいつもおとなしいゆりがそんなことを言い出したので笑ってしまった。
「ゆりちゃん。雷ってのは雲の中で静電気がどうこうなってできるんだよ。人が雷なんか出せるわけないでしょバカじゃない」
ゆりは黙り込んでしまった。でも、しばらく考えた後、ゆりはわかった、というような顔をして言った。
「香織ちゃんは嫌いな人いる?」
香織は右上に眼をやりながら思い出すしぐさをした。
「えっと、父さんと母さんかな?昨日ねぇ、大喧嘩したんだ。勉強しろ勉強しろってうるさくてねぇ。まったく死んじゃえばいいのに」その後、とりとめもない話をした後二人は別れた。香織はその後、親と会うのを避けて映画館で映画を見てから夜遅くに帰宅した。
香織が帰宅してから見たもの。それは灰であった。香織の父と母の成れの果てであった。その灰の前には笑顔のゆりが立っていた。
「香織ちゃん。もういないよ。香織ちゃんの父さん母さん」
香織はゆりの目の前に駆け寄り、灰とゆりの顔を見比べてから言った。
「ゆりちゃん。この灰は?」
「え?香織ちゃんが嫌いって言ってた父さん母さんだよ」
香織にはゆりにそのことを聞く前に灰が生みの親であることはわかっていた。ただ、信じたくなかっただけだ。涙は出なかった。ただ声が震えていた。おそらく、ゆりの前ではなきたくなかたのだろう。
「どうしてこんなことしたの?」
ゆりは香織の様子にたじろぎながらも答えた。
「だって、香織ちゃんが、死んでほしいって――」
「バカ!ゆりちゃんが死ねばいいのに!出て行って!」
それから香織はゆりちゃんとは会ってない。知らないうちにどこかへ引越ししたらしい。香織の両親は原因不明の事故死として片付けられた。香織はゆりちゃんのことを警察に話したが信じてもらえるはずもなかった。人間は雷なんか出せないんだよ、と言われた。後になってわかったのだが、ゆりちゃんの両親も灰になって見つかったそうだ。ゆりちゃんは祖母と二人で暮らしていたらしい。
「香織ちゃん?」
香織はわれに返る。電話を持ったまま放心状態にあったようだ。
「ゆり……ちゃん?」
「うん」
「どこにいるの?」
「う〜ん。それは秘密」
香織はゆりはなし方が変わっていないことに気づいた。声は多少落ち着いたようだが、話し方にはまだあどけなさが感じられる。
「香織ちゃん、警察になったんだよね?」
「どうして知ってるの?」
「私は香織ちゃんのことなら何でも知ってるから」
香織は背筋に冷たいものを感じた。
「そんなことはどうでもいいの」ゆりの声が強くなった。「今から、香織ちゃんに会いたいんだけど」
「どうして?どうして貴方なんかに会わないといけないの?」
知らず知らずのうちに声が大きくなっていた。同じ部屋にいた同僚たちがこちらを振り向いた。
「今回の事件、能力のある人がかかわってるでしょ」
「まさか……」
「香織ちゃん。それは違うよ。決して私じゃない。とにかく会ってほしいの。再来週の日曜日のお昼に駅前の喫茶店で」
それで電話は切れた。香織は頭を抱えた。何をたくらんでいるのだろう?でも、行くしかない。この事件を解決できるかどうかで私の一生が左右される、香織は思った。
その後、また人の灰が見つかったと連絡が入る。