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7 ゆり

 谷岡香織は自分の説を通すために、聞き込みを続けていた。そのうち、彼女の聞き込みの範囲は、学校周辺の住宅にとどまらず、あの中学校の生徒の家を回るようになっていた。

 時には、刑事が聞き込みに来る、とうわさが回り、インターホン越しに、結構です、と門前払いされることもしばしばあった。

 だが、そんななか、一軒の家に当たった。

 出てきた女性は酔っていた。顔はやつれていたが、もともとは美人だったろう、と香織は思った。何とか家に上がりこみ、質問を始めた。

 お宅のお子さんは――香織は常に携帯している資料を見る。その中の「露木 啓治」の情報が書かれた部分を探し当てて言った。

「あの事件の後学校を休んでいますね」

露木夫人はその質問を聞いたとき明らかにビクついた。酔っているせいかどうかはわからないが、しばらく考えてから言った。

 「そりゃ、そうですよ。三人も灰になったんだから。他の家の子供だって休んでるでしょ?」

確かにそうだ。あの後、生徒の親たちのなかには子供の身を案じて学校を休ませた人が多くいた。これまでに聞き込んだ人の中にも心配だったから休ませた、という話も出てきていた。だが、卒業式近くになると親も安心したのか学校に来るようになっていた。

 しかし、露木啓治は違う。

「露木さん。そちらのお子さんはそれ以来、学校に行ってませんよね?今、彼の年齢ならば高校生のはずです。学校に行かれているんですか?」

 露木夫人の顔は先ほどのビクつきと比べ物にならないほど変化を見せた。そして、彼女は、たまりにたまった何かを吐き出すように泣き出した。

 香織はその何かをすくいとった。彼女のなにかのすべてを受け止めることはできないが、彼女の助けになりたかった。

 彼女は香織に話した。露木啓治がお金をとって家出をしたが、警察にも学校にも報告しなかったこと。露木啓治の父は会社の権力によって、家を出て行ってしまったこと。再婚相手の露木氏には愛人がいるらしいこと。スナックの経営が行き詰っていること。

 香織はできる限り彼女のためにすくいとってあげた。

 最後に露木夫人は息子に会いたいと言った。

 香織は彼女を励まし、息子さんを探します、と約束して家を辞した。


 香織は捜索願を出すために所に戻った。

 ロビーにいた先輩刑事に香織宛の電話があったことが知らされた。

 誰だろう?香織は自分の机のある部屋に移動する途中に考えた。向こう側は名前を名乗らなかったらしい。電話番号だけ言ってかけなおしてください、といって切ったそうだ。

 先輩の言うとおり、机の上に電話番号の書いた紙が置いてあった。

 香織は机に据えてある電話にその番号を打つ。

 「谷岡香織ですが」

 「あぁ、笠井ゆりです。久しぶり、香織ちゃん」

 ――ゆりちゃん――


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