4 公園
父、母と遊んでいる露木啓治がいる。啓治の両脇にいる二人はさわやかな笑みを啓治に投げかけている。
そんな中、あたりが一瞬にして闇に包まれた。かろうじて啓治には両親の姿が見えた。助けて、と父に請う。父の表情が曇ったかと思うと、背を向けて闇の奥へと歩き出した。啓治は必死で父を追ったが、とうとう父は見えなくなってしまった。
今度は振り返って、母に、怖いよ、と助けを求めてみた。よく見ると母の隣には見知らぬ男がいて、啓治のことを笑ってやはり、背を向けて闇の奥へと歩き出した。啓治は泣きそうになりながらも彼らを追ったが、追いつくことはできなかった。
それと入れ替わりに、友人の三人が歩み寄ってきた。啓治は友達なら大丈夫だと思って笑顔を見せた。しかし、三人はナイフを構えて突っ込んできた。
ヤメテクレ。シニタクナイ。
音のない光が彼らを灰にした。その灰は異形の塊となって啓治に襲い掛かってきた。
「大丈夫か?」
ひげが伸び放題の男が露木啓治の顔を覗き込んでいた。
自分が公園で寝てしまったことを啓治は思い出した。上半身だけを起こして、大丈夫だ、といおうとしたその直後、猛烈なめまいが彼を襲った。
起き上がった途端によろけた啓治を見て男は言った。
「あぁ、熱があるな、こりゃ。」
啓治はその言葉を聞くか聞かないかのうちに、また倒れこんだ。
寒い、いや、昨日の寒さと比べると、断然こちらのほうが暖かい。
目覚めると、啓治はビニールテントの中に寝かされていることに気づいた。啓治が起き上がったちょうどそのとき、テントの入り口にあたる垂れの部分から男が入ってきた。
顔はひげと伸びきった髪の毛で隠れている。手には千円札を一枚握り締めている。着ている服は黒ずんで、地色が何色だったかが想像できない。
目を覚ました啓治を見て男は聞いた。
「まだ、頭が暑いか?お前、もう二日も寝っぱなしだったんだぞ。」
普通なら、こんな怪しい男からは逃げるべきなのだろうが、啓治はこの男は悪い人ではないと思っていた。二日寝込んでいたということは、この男が看病してくれたに違いない。
よほど、善良でない限り、ベンチで死にかけている子供なんか拾って帰らないだろう。なにより、啓治はこの男にどこか懐かしいものを感じていた。ひげ面のなかに垣間見えるふやけた笑顔が印象的だった。
「うん、大丈夫。看病してくれてありがとう。僕はこれで失礼します。」
啓治は迷惑をかけたくなかったので早く出て行こうとした。その男は手で啓治を制して言った。
「どうせ、家出だろ?俺んちはこんなんだが、寝床ぐらいは貸してやるぜ。」
啓治は男のいたずらっぽい笑みに心を許して、泊めてもらうことにした。
啓治は外の空気が吸いたいと言ってテントから出た。外はもう夕方過ぎだった。そのテントは啓治が倒れた公園の隅に建てられていた。ある程度察しはついていたが、どうやら彼はホームレスのようだ。辺りを見回すと、同じようなテントが点々と設置されている。この公園はホームレスのたまり場なのだろう。外の空気を胸いっぱいに吸った。なんとも親切な人に出会えたものだ。
啓治はテントに戻った。すると男はコンビニの弁当を食べろといって、差し出してきた食べ物を見ると、胃が痛くなるほどおなかが減っていることに気づいた。
啓治は遠慮なくがっついた。弁当のふたの賞味期限が過ぎていたが、そんなこと気にならなかった。男は、コンビニから期限切れの弁当を特別なコネで貰っているのだと、自慢げに言っていた。
啓治の弁当が空になったころ、男は啓治の名前を聞いてきた。啓治は名前を隠す必要はないと思ったので正直に言った。
「露木啓治といいます。」
啓治の目に不思議な光景が飛び込んできた。男が啓治の名前を聞いたとき、一瞬顔をしかめたのだった。
男は啓治が不思議そうに自分を見ていることに気づき、言った。
「いやぁ、な。どこかで聞いたことあるような気がしただけだ。よく考えると、実際、俺には知り合いなんていないからな。」
また、独特の笑みをまた見せた。
啓治はその後も、自分が家出をしてきたことと、これからどうすればいいか迷っていることを打ち明けた。もちろん、人を灰にしてしまったなどとは口が裂けても言えなかった。
今度は入れ替わるようにして、男が身の上話を始めた。
彼は、数ヶ月前からホームレスになったらしい。最初はなれるのに大変だったと笑い飛ばしていた。床屋に行く金もないからこんな風になってしまったと、汚れた長髪をいじりながら説明してくれた。今は、空き缶を集めて売っているらしい。先ほど彼が握っていた千円札はその報酬だったらしい。
彼の話を聞いているうちに、外は暗くなっていた。
啓治は床に就いた。
夜空の星は昨晩よりも明るく輝いていた。
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