12 雷放
空は今にも泣き出しそうだった。啓治はかつて、野田と住んでいた公園を訪れた。テントがあったところには何もなかった。どう考えても、野田は啓治の父親だった。偽名にだまされていたのだろうか。啓治は何故自分が気づけなかったかがわからなかった。もしかしたら彼は自分のことを気づいていたのかもしれない。そんな思いで、彼は空を見上げた。大粒の雨が落ちてきた。
ゆりと香織もそのとき公園にたどり着いた。ゆりは香りから離れ、啓治のもとへ歩み寄った。そして、啓治に話しかけた。香織はその様子をたったまま見ていた。
「露木啓治君だよね」
啓治は驚いて、自分よりも少し背の低いゆりを見た。香織も驚いていた。家出した露木啓治がここにいて、その子の名前をゆりが知っていることに驚いていた。
「どうして、僕の名前を?」
「私は、啓治君のことなら何でも知っているから」
ゆりは無邪気な顔で笑った。公園にいたホームレスはみな雨が降ってきたのでテントに戻っていた。香織と啓治とゆりの三人はずぶぬれだった。
「警察ですか?」
啓治は手のひらに光を蓄えながら、ゆりに尋ねた。ゆりは啓治の手を押さえていった。
「だめ、そんな力は使っちゃダメ。私もその力で、大切な人の大切な人を殺してしまったの。あれから私は反省しても仕切れなくて、一度死のうかとも思ったけど、それじゃあ、香織ちゃんに申し訳が立たないと思って、毎日、反省していたの。そうしたら知らないうちに雷が体から抜けてしまったの。きっとそれは怨みの力なの。とても悪い力なの。この世に生まれてはいけない力なの。私はこれからも死ぬまで香織ちゃんに反省して生きていく。私が生きることが私にできる誠意一杯のことだと思うの」
ゆりは涙を流していた。雨で顔もぬれていたが、香織にはゆりが泣いていることがわかった。おそらく、ゆりが泣くところをはじめてみただろう、と香織は思った。いままではあの力があったためにゆりは泣けなかったのだろうか?香織はゆりを許しはしないが、もう悪くは思わないつもりだった。
啓治はそんなゆりを見て、手の雷を空に打ち上げた。初めて彼の光は鳴った。彼の光は鳴いて、暗雲へと吸い込まれていった。啓治の目にも涙が溢れ出した。空からは雷の音がしだした。啓治はひざまずき、うずくまって泣き出した。啓治は力が目覚めたとき以来はじめて鳴いていることに気づいた。今は、体が軽かった。先の放電でおそらく力が抜けたのだろうと思った。ゆりは中腰になって啓治のことを暖かく包んだ。啓治は母のことを思い出した。昔はやさしかった母のことを思い出した。そして、家に帰りたいと思った。
ひとしきり、雨が降り続いた後、空は光を取り戻した。
滞ってしまいましたが、何とか終わらせることができました。
ありがとうございました。