11 再会・脱出
香織はゆりの指定したとおり、駅前の喫茶店に来ていた。約束では昼に会うことになっていたが、午前中から香織は来てしまっていた。会いたい、というわけではないが、どういうつもりなのか不思議でしょうがなかったのだ。
一時ごろになって彼女は現れた。何年ぶりだろうか。彼女の顔は変わっていなかった。悪い意味ではなくて、悪気のない潔白な顔。香織の両親を灰にしたときの、放った台詞のときもその顔だった。あまりに顔が変わっていないので、香織はあれから時が進んでないのではないかと錯覚を覚えた。
「香織ちゃん?」
香織は上の空になっていたことに気づいた。ゆりは香織の向かい側に座った。
「本当に久しぶりだね。いつになっても香織ちゃんはかわいいね」
ゆりはゆっくりとした語調で話しだしたので、香織はそれを制すように言った。
「そんなことはどうでもいいの。電話で話していたことを聞かせてくれる?犯人がわかるの?」
「ああ、そのこと?今から公園に行かない?」
「私はふざけているわけじゃないの」
「私もふざけてないよ。公園に行けばみんな終わるから」
香織はゆりの目が真剣であることに気づいた。
「わかったわ」
二人は喫茶店を後にした。
啓治は屋敷を出て走っていた。犬が庭の隅から息を荒くして走ってくるのが見えた。啓治は指先から光を放ち、犬を灰にした。そして、近くの公園に逃げ込み、呼吸が落ち着くのを待った。誰も追ってこないのを確認すると、空を見上げた。抜けるような晴天だった。雲がひとつもなく、突然重力が反転して、空の底へと落ちていっても不思議ではないような気になった。気持ちも落ち着いたので、辺りを見回した。公園は比較的大きいもので、ここにもホームレスが住み着いているようだった。テントがいくつか張ってあった。それを見た瞬間、何かが啓治の中で重なった。つい先ほど久雄が言い残した言葉を思い出したのだ。
――なに?やつは自殺していないはずだ。部下に監視させているが、どこかの公園でホームレスをし――
啓治は駅へ向かい、電車に乗り込んだ。啓治が見えなかったほうの空には雲が立ち込めていた。