Pieces of tears
「夢で逢えたら」後日談
「・・・あれ、何で僕、泣いているんだろう・・・」
カーテンの隙間から、朝の光が差し込んでいる。雀の囀りもにぎやかに聞こえてくる。街は眠りから覚めて、慌しくも賑やかに動き出している。
いつもと変わらない朝が来たはずなのに、何故か頬はしっとりと濡れていて、僕はその原因にちっとも思い当たらなくて、困惑する。
首を傾げながらも、身を起こして冷たく濡れた頬を両手で、ぐいと拭う。
「何か、夢見てた気がするけど・・・なんだったっけ」
とてもいい夢だった気がする。内容は少しも覚えていなかったけれど、薄っすらと香る残り香のように、ふわふわして、温かい感触すら感じられるような・・・いつまでも包まれていたいとすら思うような。
この涙はもしかしたら、其処から引き剥がされた故のものだったのかもしれない。
「あ~あ、思い出せないのが、少し悔しいか、な」
思わず呟いてから、苦笑する。所詮“夢”の話なのに、すでに思い出せない、夢の中の話なのに思い出したがる自分が可笑しかったのだ。
「そろそろ起きないと、遅刻するかな」
ベッドサイドの時計を見ると、学校に行く準備をする時間になっていた。慌ててベッドを飛び降り、服を着替えようとして、気がついた。
「・・・これ、何だろう」
ベッドのシーツの上、きらりと光る何かが転がっていた。朝の光を柔らかにはじく、無色透明な、珠。
拾い上げると、それは手のひらに握りこめるくらいの大きさで・・・僕はまたも首を傾げた。
こんなもの、夕べ眠る前には無かった。もちろん、僕がベッドに持ち込むはずはないし。
う~んと首を捻っていると、下の階から母親の声が聞こえて、僕は瞬時に我に返る。
「うわ、もうこんな時間か!」
時間はいつの間にか経ち、このままだと遅刻ぎりぎりだ。
慌てて服を着替え、荷物を引っつかみ、慌しく階段を駆け下りた・・・。
透明な珠は咄嗟に、ズボンのポケットに入れて。
「行って来ます!」
いってらっしゃい、の母の声を背中で聞きながら、いつもと変わらない日常に、僕は踏み出したのだった。
夢の記憶のことなど、もうすっかり忘れて。
これはきっと、約束の証。
再び逢うための・・・そう、互いが願った、証。