ギルド支部での情報収集
「これから、ボクが所属しているギルド『片翼の満月』の支部に寄りますよ……。魔王さん御一行が四天王に会いに行く予定でしたら、仮カードを出してもらった方が何かと動きやすそうで……その……」
酒場らしき建物の前で足を止めたナギは、何度も顔を擦っていた。
「ナギ、どうした?」
「ううっ……。勇者パーティーのこと、ボクはどう話をしたら……」
「例えばだけど、魔王城ではぐれたとかはどうなんだ?」
「はぐれた……死んだ、ボクのせいで……」
「駄目だな、これは」
「自己嫌悪に陥りやすい一面は面倒だわ……。あと、私のことはヨミルで良いからねっ!」
ヨミルは、ナギが身につけいるブカブカの白いフードを取り上げた。
『あれ、凄腕との評判のある勇者パーティーのひとりじゃね?』
『魔王城に行ったという噂が広まっていたけど、探索からもう帰って来てたのか! 完全攻略が早かったのか?』
『本物の勇者パーティーだ、すげー!』
ナギのことを絶賛する言葉が、街中に溢れかえる。
「すごい人気だな」
「そうね。これだけ騒がしくなれば、面倒ごとが増える前に私たちを目的地に案内してっ!」
「う、うん……」
ナギが扉を押して酒場らしき建物の中に入っていくと、俺とヨミルがその後をついて行く。
建物の中は、予想通り酒場になっていた。
ここが、ギルド『片翼の満月』の支部か。
思ったより、酒臭いな。
換気が店内全域に行き届いていなさそうなので、あまり長時間ここに居たくはない。
ただ、入り口からみて左手側に置かれていた、小さめの看板にはちょっとだけ見入ってしまいそうだった。
その看板には、とあるマークが入っている。
満月を連想できそうな黒い円があって、その内側に白い天使の羽模様が描かれていた。
これは恐らく、『片翼の神月』のことを示すマークなのだろう。
ナギが着ている服の左肩にも、同じマークがひとつある。
「こっちです……」
ナギは店の客となる冒険者に一切顔を向けず、横長の大きな木のテーブルに向かって真っ直ぐに進んていった。
テーブル越しには、耳の長い金髪の男がひとりいた。
その男はグラスを注ぎながら、酒の品質でも確かめているかのような目つきをしていた。
「おや、ナギっちですね」
ナギの入店に気づくと、耳の長い金髪の男が優しく微笑んだ。
「ナギ、あの方が店長か?」
「うん……そうだよ、あの方はハネスさん。このバーの経営者であり、ギルド支部の管理長でもあるの」
「一応、ギルドのお偉いさんってことか。気を引き締めておこう」
俺が視線を向けると、視線を合わせてきたハネスという男は長閑な表情をし続けていた。
「こんにちは、ハネスさん……。その、急用なんだけど、仮カードを発行してもらいたくて……」
「ナギっち、元気がないね。こういう時こそ酒でも飲むかい?」
「ボクに冗談はやめてください……」
「ハハハ、あの勇者パーティーのなかでも特にナギっちは優しいから、相談に乗れる相手が必要なことくらいは理解しているつもりですよ」
「うん……」
ナギは、ハネスから見てテーブル越しにあった椅子に座り込んだ。
「ナギっちのお連れさんもどうぞ、遠慮しなくて大丈夫ですからね?」
「俺はこのままでも平気ですが……」
「それなら、私が代わりに座ろうかなっ」
ナギの右側に、ヨミルが座った。
するとナギの背筋が伸びて、極度に緊張し始めた。
「ナギ、どうしたんだ?」
「あの……ボクに密着……うぅ……」
「ハハハ、ナギっちのお連れさんは密接になれるほどの仲でしたか。実に微笑ましいですね」
「ボクは別に、そういう関係じゃないけど……その……ゆ、ゆ、ゆ……」
ナギの口元が止まる。
これから、勇者パーティーについて喋ろうか悩んでいる様子だった。
俺個人としては、ナギが語ることに不安を覚える。
勇者パーティーのことを喋ることによって、不吉なことが起きる。
それはまるで、異世界転移する前の俺みたいな立場だ。
そんなことはさせたくない。
ナギがもっと嘆く姿をみるのは、とても嫌だったから、俺が喋るしかない。
「ナギに案内されてここに来た俺たちのことなんだが、何者か分かるか?」
「ナギっちのお連れさんが魔族なのは既に見えていますとも。ただそれだけしか分からないですね」
「では、ギルド支部長の貴方様に教えしましょうか。私の名は、ヨミル・クレネーラ」
ヨミルが口を開くと、ハネスの手の動きが止まって全身で震えた。
「そ、その名前は……数百年前に眠りについたとされる伝説の魔王……!」
「これでも私、二百五十四年も眠っていたから、現在の世間話とかまったく分からなくてね。仮カードとやらを作ってもらった方が良いのかな?」
「そういえば、ナギっちの目的は仮カードの作成でしたね。すぐに手配します。ところで、ナギっちの勇者パーティーはどうしたのですか?」
「ううっ……それは……」
「あの勇者パーティーは、私か壊滅させました。ちょっと個人的に調べたいことがあるので、ギルドに遺体の引き渡しは出来ません」
「それはそれは、いざ真相を知ると心が痛む……あの勇者パーティーは若き才能のある者で構成された、国内で一番期待できる星だったのですけれど」
ヨミルの名を聞いた瞬間から、ハネスには覚悟があったご様子。
勇者パーティーの壊滅と、魔王ヨミルの復活。
ギルドとしても、決して放置することは出来ない問題に直面してそうだ。
ただ、オドオドしながらも会話をしたナギの姿に安心したのか、ヨミルに対して怒りをぶつけることはなかった。
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愛原ひかなの代表作
「ダンジョンで遊ぼう!! ~VRゲームの世界ですが、冒険者にいきなり襲われるのは嫌なので楽しくダンジョンを作りたいと思います」
小説家になろうでも連載しておりますので、こちらも何卒よろしくお願いします




