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ラストダンジョンに登場する雑魚モンスター『ヘルライダー』になっていた。魔王のお手伝いをすることになった  作者: 愛原ひかな
第1章

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魔王城の書物庫を調べよう


 翌朝になると――。


 ヨミルの約束通り、大杉とナギは魔王城の地下にある書物庫へと案内される。


「押しても、開きません……」

「ナギ、そうだな。俺が押してみても、駄目か」


 ナギと大杉が順番に押しても、書物庫の厳重な扉は開かなかった。

 重たいということではない、何か特別な仕掛によって拒まれている感覚がした。


「ふむ、防犯機能が働いているということは……盗人は訪れていないということね」


 何故かヨミルは安心しきっていた。


「ヨミルさん……開きません……」


「ヨミル、この先には本があるだけなんだろ。早くなんとかしてくれ」


「お二人さんが困ってるね。そろそろ開けますか」


 ナギと大杉が少し離れると、ヨミルが扉の表面に触れた。

 すると、拒まれていた感覚は噓のように消える。


 扉が勢いよく開いていったのだ。


「ようやくか。……で、ここが書物庫……静かにしないとな」


 図書館で植え付けられた基本的なマナーを思い返す大杉は、少しばかり緊張する。


 ヨミルは大量の魔導書の前に騒いでほしそうにしているが、紳士的な態度をとらせてほしいところだ。

 書物庫の中に入ると、本棚が三列ほどあって、本棚に置かれているすべての本が赤いカバーで保護されていた。


 試しに大杉は、入り口付近にある本をひとつ手に取ってみる。すると、それが一瞬にして魔導書であることを理解したのだが、肝心のタイトルは赤いカバーによって判別できなかった。


 中身を読むまでどんな内容か分からない。

 まるで闇鍋のようだ。


「こっちは……歴史ですね……」


 ナギは適当に取った本の中身がとても気になったのか、そのまま本をひとつ持ったまま書物庫の奥に入っていく。


 書物庫の奥には大きな黒いテーブルがふたつほどあるので、読みたい本はそこでまとめておけば良いのかもしれない。


「というか、キッチンはホコリまみれだったのに書物庫は床とか綺麗なんだが……」


 大杉は思ったことを、ヨミルにぶつけた。


「それは掃除が行き届いているからに過ぎなくて?」


「たしかに、その通りなんだが……ヨミルは二百五十年以上も眠っていたんだろ。誰が掃除をしているんだ……?」


「ヘルライダー大杉君も存在は知っているはずだけどね」


「俺が知っている……?」


 大杉は首を傾けそうになる。


 俺は会ったことはあるのか?

 ……答えはすぐに出てこない。


「大杉君はわからないのね、魔獣ヒュドラトよ?」


「あぁ……!」


 大杉は納得した。


 本音をいえば納得はしていないが、魔王城に潜んでいる魔獣が長年ものあいだ、魔王城の掃除をしていてもおかしくはなさそうなのは確かだった。


 魔獣ヒュドラト。

 大杉はまだその姿を見たことないが、ヒュドラみたいな見た目をしているのではないかと妄想する。


 おまけに戦闘力もありそうだし。

 ナギが耳にしたら卒倒しそうだけど。


「えっと、大杉君は何か見つけたかしら。魔法に関する書物がたくさんあるけど」

「そうだな……多すぎてよく分かっていなくて」

「それなら私が探しましょう。例えば……」


 ヨミルは本棚を見渡して、ひとつの本を手に取った。


「ヨミル、それには何が書かれているんだ?」


「体内に蓄えることのできる魔力の許容量を増やす、果実のことね」


「なんというか、マジックポイントの最大値を増やす。みたいな」


「大杉君、時々変なことをいうのね」


「俺のいた世界の文明だ。扱いとしては娯楽なんだけど」


「ふーん……」


 ヨミルは手に持っていた本を大杉に渡すと、次の本を探し出してきた。


「これなんてどうかしらね」


「ヨミル、次は何の内容の本なんだ?」


「そうね……これにはね、それぞれの持っている武器に対して一定時間、各属性の効果を付与する魔法についての記述があるわ」


「属性攻撃か。……そういえば、ヘルライダーって攻撃に闇属性が入っているのか?」


「ヘルライダーの物理攻撃は無属性よ? それで属性についてだったら……ヘルライダーはどっちかというと、闇属性が身体に染み込んでいる感覚と思っておけば良いかもね」


「なるほど、現状だと俺には耐性だけがある感じか。ベルナルドが言った、地水火風の四属性に少し優位っていうのに納得した」


「へぇ、納得するんだね。でもね、今後も戦っていく上で攻撃力が乏しく感じるなら、付与魔法くらいは覚えてみるのもありかもね」


「付与魔法を覚える、か……。俺が闇属性の攻撃を……できるように……」


「そうね、まずは闇属性の攻撃手段を覚えていくのが先ね。それから、状態異常を付与するほうが良いかしら」


「状態異常も付与することが出来るのか」


「毒にしたり、石に変えたり、視界を奪ったりね。練習して上達したらできるかもしれないし、雑魚モンスターのヘルライダー大杉君には難しいかもしれない」


「想像はしやすいが、実戦とか考えると難しそうだな……」


「練習あるのみね。さっき私が教えた果実と併用していけば、魔法は上達すると思うわね」


「わかった。ヨミルの教えを糧にして、より強い雑魚モンスターとして成長したいな……」


「ただ、大杉君はくれぐれも無茶しないように」


「……どういう意味だ?」


「まぁ、あれね。私も大杉君の涙を見ちゃったから」


「あぁ……」


 大杉はため息をつく。

 あのトラックのことはもう仕方ないと分かりきっているつもりだが、やっぱり悔しい。


 今後、いくら魔法の上達をしたところで、大杉拓実の家族が帰ってくることはない。


 漫画やアニメ、ゲームを通じて魔法には夢があるという言葉をよく耳にしてきた大杉に厳しい現実を突き詰めているのではないか、心苦しくはならないか。


 大杉のメンタル面について、ヨミルは心配していた。


「俺は大丈夫だ」


 小声でヨミルに伝えると、ヨミルは頷く。


「それなら良かった。魔法の基礎については私、魔王として教えれることはいっぱいありますので、期待しておいてください」


「ああ、そうしておく」


 大杉はヨミルにお辞儀をした後、本が読みたくなったので、ナギの元へ行こうとした。

 でも、大杉の足が止まっていた。


 本棚の下段を見つめるヨミルの様子が、少し変だったのだ。



「やっぱり、これだけは緑なのね」


 ヨミルは、赤いカバーまみれの本棚から、ひとつだけ違う色味の本を発見していた。


「緑カバーの本って、何だったかしら」


 ヨミルは器用な手先で、パラパラと音をたてて本をめくる。


 隣にいた大杉がみた感じだと、本の中身は歴史の本みたいだが……。


 ひらひらと落ちるのは、白い封筒。

 緑のカバーがつけられている本から落ちていった。


「見覚えがない……なんでしょうか」


 ヨミルがそれを拾い、封筒の中身を確かめる。


 封筒の中身には、一枚の白い紙が入っていた。

 その白い紙に文字が書かれている。


 大杉は横から覗き込んだ。


 魔王城がラストダンジョンと呼ばれる意味を知りたくば、アナスタシアの墓石を探せ。


 聖女リーファ・アナスタシアより――。



 アナスタシア……?


 それに聖女って……どういうことだ?

 

 大杉は到底理解できないことであった。

 だが、ヨミルにはしっかりと伝わっていたご様子。


「やってくれたわね、ナギちゃんそっくりなご先祖さん……!」


 ヨミルは、続けて口を滑らせる。


「リーファの遺言状は確かに受け取りました。ここがラストダンジョンと呼ばれるようになった意味を、魔王の私がこの手で必ず掴んでみせますよー!」


 ヨミルは叫ぶ。


 ヨミルの意気込みを表す言葉が、書物庫の全域に響き渡っていった。


お読みいただき、ありがとうございます。

これにて第1章完結です!!


面白いと思いましたら、感想やブックマークをよろしくお願いします。

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