憂鬱なヨミル
「それにしても、ねぇ……」
魔王城の広間でくつろぎたがるヨミルは、どこか不機嫌そうな顔つきになっていた。
肝心の四天王のひとつに接触してみたものの、その四天王自身が魔族召喚の儀によって召喚された個体であることが判明した。
魔王城の外に出てギルドを巻き込み、レジスタンス、教導という敵対組織に出会ってしまった。
状況は振り出しどころか、マイナスになっている可能性も否定できない。
「ヨミルさん……少し心配です……」
ヨミルの憂鬱な様子を少し遠いところから見守るナギは、自身の胸元に両手を添えていた。
「まぁ、あれか」
大杉はナギの左肩に手を置く。
「俺が新たに得た情報としては、四天王が作りものだったくらいなんだが……」
「その……ボクも気づくべきでした……。勇者パーティーが前回出くわした、地の四天王と……口調が違うことに……」
「個体が違ったとしてもだ、俺たちが遭遇したのは四天王で間違いないのでは?」
「大杉さん……。たしかにそうですけど……今回は……」
「どうした?」
「ヨミルさんは……魔王城がラストダンジョンと呼ばれてしまう理由を探して……その結果……不満を抱えてしまい……」
「俺たちまで不満を抱えるくらいなら、次にどうした良いか考えるか」
「大杉さん……?」
「そうだな。例えば、いまナギが魔王城を自由に探索できる状態だとして、何に興味が湧く?」
「興味が……湧く、ですか……?」
ナギはその場でくるりと回り、再びヨミルに視点を向けた。
ナギは勇者パーティーの生き残りなので、自分が急に殺されたりしないか心配していたのだ。
「大丈夫……ですかね、いまは……」
この場には、ヘルライダー大杉以外の雑魚モンスターはいない。
ナギの視界に入ってこないのだ。
もしヨミルが味方だと認識しているのだとしたら、勇者パーティーの生き残りであっても魔王城の中を安全に探索できるのかもしれない。
そう思ったナギは、静かに息を呑んでヨミルに期待する。
「ボクが少し……気になることは、ご先祖様のこととかで……」
「ナギの知らない家系についてか」
「はい……ヨミルさんは、情報を隠してしまいましたけれど……」
ヨミルのことをじっと見続けるナギは、何かを期待していた。
ナギが期待していることを語れるのは、現状ヨミルだけなのだろう。
そのヨミルが、頭を悩ませ続けている。
大杉としては、雑魚モンスターとしてヨミルに指示があるまで待機することしか出来ない。
「その……大杉さんが、興味あるとか……好きなものとか……」
「俺が興味あるものか。漫画とかアニメ、ゲームなどが」
「……??」
「ごめん。魔法とかにも興味があるかも、魔力を感じない体質であまりピンと掴めないのだけど」
「魔法……ですか……。魔法は、魔導書なんかを読まれると……理解力が深まるとは、思いますけど……」
「魔導書か……。ギルドに置いてあったりするのか」
「魔導書があるのは図書館ですけど……そこは魔族出禁の施設です……。魔族は魔法を使いたがる傾向があって……図書館の壁が壊れちゃうとかで……」
「そうか、それは残念だな……魔導書を置いてある場所って他にないか?」
「他に……魔王城に、あったりしないのでしょうか……」
「魔王城を調べるのか、うーん」
ほんの一瞬だけ躊躇った大杉は、すぐにヨミルの元に近づいていった。
「ヨミル、魔導書ってないか?」
「それなら地下の書物庫にあるけど。……ヘルライダー大杉君、いきなりどうしたの?」
「俺、魔法を覚えたい!」
単刀直入に答えると、ヨミルに鼻から笑われた。
「ヘルライダーって雑魚モンスターは魔法の適正がない寄りなんだけどね、大杉君は面白いねぇ!」
「あれ、ヘルライダーって魔法使えない?」
「ヘルライダーは雑魚でもラストダンジョンのモンスターだからね、体内に魔力を溜め込むことが出来るようになれば一応可能ですよ。それにしても……そっかぁ、大杉君が魔法かぁ……」
「本当に俺、変なこと言ってない?」
「大丈夫よ、ヘルライダー大杉君が魔法の勉強に付き合ってあげる。それに書物庫に付いては盲点だったわ」
「書物庫がどうかしたのか?」
「あそこは、魔導書の他に歴史にまつわるものも保管してあるからね。魔王城がラストダンジョンと呼ばれるようになったら手掛かりがあるかもしれないということ」
「ヨミル、今後の方針が固まったか」
「ひとまずは、そうね……。それじゃあ、明日の朝になったら書物庫へ行きましょう。ヘルライダー大杉君だけでなく、ナギちゃんも連れてね」
心を軽やかにするヨミルは、大杉とナギを連れて魔王城の中を移動する。
魔王城の一階には、寝室やキッチンが完備されている生活スペースも存在していた。
もっとも、キッチンは長年使用されておらず、ホコリまみれですぐに使える状況ではなかったのだが……ギルドからたくさん頂いていた、きのみスティックで飢えをしのげた。
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