四天王を召喚した妖精
「四天王の召喚主さん、そろそろ出てきたらどうかな?」
『魔王が気づいているみたいとなると……逃げないのも手か』
透明化の魔法を解除。
大杉たちの前に現出したのは、小柄な妖精だった。
その妖精は、つばがついているピエロのような桃色帽子を被り、帽子と同じ色味のローブを身につけていた女の子。
緑の長い髪を揺らして、妖精の白い羽を背中から生やして空中に浮かび続ける。
彼女の両手は空いていた。武器とみられる装備品は隠し持っているのか、あるいは……。
「貴方は何者なのかしら?」
「わたしは、ルチカ・フレシオン。教導のリーダーをやっていて――」
ルチカは喋りながら両手を左右に伸ばして、黒い魔法陣を展開していた。
「奥にいる勇者パーティーの一員には、滅んでもらう必要があります」
黒い魔方陣から球体のようなものが発射されると、ヨミルを避けるようにして弧を描き、ナギのいるところに目掛けて飛んできた。
「どこを狙って……あっ、ナギちゃん!」
大きな声を出したヨミルは冷や汗をかく。
大杉とナギが立っている左右から、黒い魔法がすぐ近くにまで迫ってきた。
このままでは、死ぬ。
そう確信した大杉は、ナギの胸元を強く押して突き飛ばした。
「ぐあああああああっ!」
激しい激痛で、手足の感覚が麻痺する。
それ以上にヤバいのは……頭が地面に転げ落ちていくであろう俺の視線で……。
「お、大杉さん……!」
ナギの掠り声を耳にした大杉は、すぐに意識が途絶えた。
――気が付いた時には、俺はお墓の前に立っていた。
生い茂る短めの雑草が静かにゆらゆら揺れていて、お墓に添えられた一輪の花はどこか新しさを感じ取れた。
俺はお辞儀すらせず、ただお墓に目線を向けていた。
そのお墓に刻まれているのは……。
大杉修二郎。
大杉京子。
大杉結花。
あのトラックに敷かれた、俺の家族の名前で間違いなかった。
「うあああああああっ……!」
俺は泣き叫んだ。
悔しさよりも、憎しみよりも、悲しさが勝った瞬間だった。
「お父さま、お母さま、姉さん……。俺は何も出来ていなくて……!」
地球に戻ってきた自覚が徐々に芽生えてきているが、こんなところに俺の居場所なんてない。
添えられた花は、親戚の者が置いたと考えるのが妥当。
俺はここで何もしていない。だからこそ、何かをしてやりたい。
そう思ったところで、状況は何も変わらない。
実行力もない。足がすくんで動かない。
異世界転移?
魔族召喚の儀?
いやいや。
異世界で、俺は殺されたんだ。
ルチカという妖精に。
もしかすると、ナギを守れたかもしれない。
それで現実世界に引き戻されたと考えるべきだが。
現状を把握した俺は、地球でやり残したことなんてないのに……。
これから俺は、どう生きて行けば良いんだ?
「大杉、さん……」
そっと手を触れてきたのは、暖かなぬくもりだった。
振り返ると、半透明なナギの姿が見えていた。
「ナギ……? 俺は……」
「大杉さんは、泣かないでください……。体のことは心配しなくても、ボクが直しますから……」
「でも、俺は……死んで……」
「その……大杉さんの家族のことも見えてしまっているのですが、大丈夫です……。ボクは大杉さんと、もっと冒険が……したいです……ので……」
「そ、そうか。ナギ、ありがとう」
「いえ……」
「あっ、二人でズルいわね!」
薄っすらと、ヨミルの手も出てきた。
「ヘルライダー大杉君! 早く戻って来なさいな」
半透明なヨミルの顔を見ると、涙なんて流している場合じゃないのは確かだった。
俺の居場所は、ある。
「その、ごめん」
「……?」
「ほら、ナギちゃんが困っているわ。ヘルライダー大杉君が謝る必要は、これっぽっちもないからね」
「そうなのか?」
「とりあえず例の妖精さんはダンジョン奥地に逃げていったから、私たちの心配は不要よ」
「うん……??」
敵を退けたってこと?
詳しくは、後ほど問いかけるとして。
「俺はどうやって、もう一度異世界転移するんだ?」
「そこは……ボクの、回復魔法です……!」
ナギが癒しのエネルギーを俺に注いでいた。
異世界転移するのではなく、蘇生魔法という類のもので呼び戻すというか。
「俺は……!」
一瞬だけ視界が白くなったあと、大杉は仰向けの状態になっていた。
そこにナギが上から覗き込む。
「無理させて、ごめん」
「むぅ……?」
困惑したナギが頭を引っ込める。
ひとまず、ヘルライダー大杉は復活した。
大杉は頭からゆっくりと起こすと、ヨミルと視線が合った。
「とにかく無事でよかったね」
「そうだな。この後はどうするんだ?」
「三十六階層に設置してあると思われるクリスタルに触れて、一度地上に戻りましょう。ここから先のダンジョンの探索は、ギルドと合流して話し合う必要がありそうだわ」
「ヨミル、そうなのか?」
「まぁ、歩きながらいろいろとね。私も考えなしには動かないし」
「魔王ご本人の動きを見ていると、そうは思えないが……」
「気のせい、気のせい!」
ヨミルは次の階層に向けて歩きはじめる。
そのヨミルについて行くように歩き始めた大杉は、ナギに尋ねた。
「ルチカという敵が言っていた、教導ってなんだ?」
「教導ですか……。それは、レジスタンスと相反する組織と……呼ぶべきものです……」
少しばかりしんみりしているナギは、瞬きを二回ほどする。
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