ギルド『片翼の満月』の本部に入る
「目的地のギルド本部までは、徒歩で三十分。馬に乗った速度だと五分程度といったところです……」
「地図を出す魔法、もしかして距離感も図れるのか?」
「は、はい……。四天王がいるダンジョンも、これを使用して最短ルートを辿りました」
「ふむ。俺が言うのもなんだが……。ナギ、もっと自信を持ったらどうだ?」
「すみません……」
しんみりするナギは、勇者パーティーでの冒険を何度も思い返していそうだった。
俺は何か声をかけてあげたいとは思うのだけど、適切だと思う言葉が出ない。
「この先は左右にしか行けないが、どっちに進めば良いんだ?」
「次の道を左に。その後は道なりで大丈夫です」
「そうか……」
違う、そうじゃないだろ。ナギにはもっと俺の優しい言葉をかけてあげるべきなんだよ。
そうこう考えているうちに五分ほどが経過して、ギルド本部とみられる建物の前に来てしまった。
ギルド『片翼の満月』の本部は白銀の鉄線柵に囲まれており、部外者が容易に入れなさそうな構造になっていた。
けど、それは見た目上の問題だ。
ここは割と自由に入ることができそうだった。
冒険者と依頼者、あとは研究員だと思われる白衣を着た人もいて、とても賑わっていたのである。
「へぇ……ここのギルド本部はお屋敷という感じなのね。受付カウンターとやらはどこかな?」
俺から飛び降りたヨミルは、ギルド本部の中に早速入ろうとしていた。
ヨミルが先行して動いたので、俺は警戒しなくても良いか。
ヨミルが入れたということは、ギルド本部には魔族を弾き返すような仕掛けが存在していないことを意味する。なので、俺はただヨミルを見失わないようについていくだけだ。
ナギは……俺の後ろにしっかりついてきていた。
本当に何か言葉をかけてあげたかったけど、そこまでの心配は要らなかったのかもしれない。
「ギルド、片翼の満月へようこそ。あら……?」
建物から入ってすぐのところに、眼鏡をかけている白衣の女性がひとり居た。
その女性は、こちらの姿をみると黙り込んでしまった。
視線は当然、ナギに向いてくる。
勇者パーティーの一員は、よく顔が知れ渡っているということか。
「えっと、貴方は勇者パーティーの……」
「ちょっとすみません。クエストカウンターはどちらにありますか?」
堂々と胸を張るヨミルが横入りすると、眼鏡をかけた白衣の女性は戸惑いの顔を見せる。
「ナギ、あの方は誰なんだ?」
「あれはモニュラさんです。ギルドマスター代理人を務めることがあるのですが、弱点がお化けなせいでギルドの夜間業務が停止することで有名でして……。クエストカウンターにはボクが案内する」
「ナギの口からよくそんなもの言えるなぁ……」
「冒険者としては一応、ボクと同期ですからね。パーティーを組む際のモニュラさんは、ヒーラーの役目を担いますので」
「ヒーラー、か……」
モニュラという女性の顔を見てから、急に淡々とした面影をみせるナギは心底呆れていそうだった。
まるで別人のような態度、とまではいかないものの、ナギからはあまり良い印象を持ってないのだろうか。
後ろめたい過去とか、なければ良いのだが……。
「ヨミル! ナギが案内してくれるって」
「大杉君……? クエストカウンターは、そっちにあるのね?」
慌てたヨミルは軽く走って、俺に追いつく。
「このギルド、とても賑やかそうね」
「そうだな。ヨミルは見ていて楽しいのか」
「私が知っている二百五十四年前にあったギルドも、こんな感じだったらよかったのでしょうけど」
「ヨミル……。やっぱり、今と違うところがあるのか?」
「魔族がリーダーだった当初は普段から荒れていましたよ。魔族は普段から争いを好む性質にあるから、どうしても治安維持が難しくてね……」
ヨミルが、軽くため息をついた。
この世界の二百五十四年前って想像すら出来ないのだが……ヨミル自身にも、何かしら苦労していたことがあったのだろう。
「それはそうと、ナギさんは何かを察したみたいかな?」
「うん……?」
俺が首を傾げようとした瞬間、真顔でナギが振り向いてきた。
「あの人です。モニュラさんが、ボクの回復魔法を奪っていました……」
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