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原罪の女王(クイーン・オブ・プライマル・シン)  作者: 原田広


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禁断の口づけ

ガラスの棺に横たわる白雪姫の肌は、永遠の眠りについたかのように白く、息をのむほどに美しかった。

夜は静寂に包まれていた。深い森の中、木々の影は長く伸び、月明かりさえも届かぬ暗闇が支配している。ガラスの棺に横たわる白雪姫の肌は、永遠の眠りについたかのように白く、息をのむほどに美しかった。

七人のこびとたちは、慣れない喪服に身を包み、涙を拭いながら姫を見守っていた。彼らの小さな嘆きの声は、この神聖な沈黙を破ることを恐れているかのようだった。

その時、馬の蹄の音が、硬い土を蹴る乾いたリズムを刻んで近づいてきた。

現れたのは、その国で最も高貴とされる王子であった。銀の装飾が施された黒い乗馬服をまとい、顔立ちは端正だが、どこか影を帯びた冷たさがあった。彼の瞳は、夜の色を映したかのように深く、そして、強い飢餓感を秘めているように見えた。

王子は棺の傍らにひざまずき、哀悼の念を示すかのように深く頭を垂れた。しかし、彼がその透き通るような白雪姫の唇に視線を向けた瞬間、その飢餓感は一瞬にして、抑えきれない渇望へと変わった。

「どうか、どうかお目覚めください」

王子は囁いた。その声は、深みのある、甘く耳に響く音色だったが、どこか生者ではない者特有の冷気を伴っていた。

そして、運命の瞬間が訪れる。王子はゆっくりと身をかがめ、姫の冷たい唇に自身の唇を重ねた。

それは愛の口づけではなかった。

冷たい肌と肌が触れ合った瞬間、王子の全身を、抗いがたい力と、長きにわたる飢えを満たす喜びが駆け抜けた。彼の体から、夜の静寂さえをも凌駕する、闇の魔力が姫の体へと流れ込む。

白雪姫の頬に、微かな血色が戻った。唇がかすかに震え、閉ざされていた睫毛がゆっくりと持ち上がる。

「……あ……」

姫の喉から漏れたのは、生命の喜びの声ではなかった。それは、深い森の底から引きずり出されたかのような、掠れた嘆息だった。彼女の瞳が開く。その瞳は、以前の清らかな光を失い、月光を反射して、紅玉のような鮮やかな赤に輝いていた。

王子は顔を上げた。勝利と、そして深い後悔の表情がないまぜになった複雑な笑みを浮かべ、姫を抱き起こした。

「お目覚めだ、姫よ。さあ、私と共に」

彼の唇の端には、祝福の口づけではなく、獲物の血を啜ったかのような、微かな赤が滲んでいた。

蘇った白雪姫は、彼の腕の中で、どこか虚ろな表情を浮かべたまま、静かに呟いた。

「……様……あなたの、匂いが……」

彼が与えたのは、永遠の愛ではなかった。それは、吸血鬼としての永遠の隷属と、血への尽きることのない渇望だった。

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