第三幕:敵をしれ
やあ、君。難しい事を解決するためには、何が必要かわかるかい?
まず問題に取り組む前に、分からないことを書いていくんだ。
第二幕では、フンババを仕留めるための重要性を、ギルガメッシュはエンキドゥに説明したんだ。
レバノン杉の木は、国に必要だった。
その為に障害となる森の門番フンババが邪魔だった。
そして、ギルガメッシュとエンキドゥは、フンババを倒すための計画を練るんだ。
ギルガメッシュは地面に、
フンババと文字を書き込んだ。
「エンキドゥ。森の神フンババを語れ。ヤツは、どういう存在だ?」
ギルガメッシュの問いに、エンキドゥは言葉を選んだ。
彼の顔は青白くなり、生きているか死んでいるのか、判断ができなくなった。
やがて、彼は口を開いた。
内容は、こうだ。
「フンババは、軍神エンリルに任命された森の守護者だ。森は広大だが、レバノン杉の密集地は限られている。
勝手に切って持っていく者がいれば、速やかな死が訪れる。だから人は、この森を避ける。
どんなに木が必要でも、だ。」
エンキドゥは目をつぶった。
「ボクがケモノであった頃、遠くの森へと四つ足で旅した。長い旅だった。そこにたどり着いた瞬間、胸からわきあがる想いを、どう言葉で表そう?」
エンキドゥは、形にするのを躊躇った。
「それは、確かに恐怖だ。進もうとすれば、鼻腔が縮まり、身がすくむ。
闇には慣れたボクですら、先に行くのが不安だった。
それでも、勇気と好奇心に誘われて前に行く。」
彼はギルガメッシュの為に語る。なるべく、彼が諦めてくれるように。
言葉を選び続けた。
「風の音が繰り返し、
耳と頬を撫でる。
ヤツは眠り、イビキをかいてた。
それは、獅子のようで、獅子ではない。だが、タテガミと顔は獅子だ。
血のように赤く、全身は毛むくじゃらだ。森のケモノとは違うのは、彼がボクらと同じ身体つきをしていた。
ーー肩幅はひろく、屈強で頑健だ。
身長もボクらの倍ぐらいはある。
そいつが身を縮こませて、眠ってる。
エンキドゥは一旦話をするのを休んだ。
「ーー正直、生きた心地がしなかった。
ああ、そいつの腕は丸太のように太い。手には、獅子が持つような牙が全ての指に揃ってた。
ボクは近くの木に寄りかかる。
だけど、ヤツの腕の中に思えた。
後退りしたよ。もう耐えられなかった。あとは、君と同じことしか分からない。」
ギルガメッシュはうなづく。
「ヤツに知性は?話すことはできたのか?」
「ギルガメッシュ。ボクの勇気は打ち砕かれたんだ。それ以上は、わからない。」
ギルガメッシュは、エンキドゥの話を繰り返し自分に話しているようだった。
彼の額には脂汗が浮いていた。
彼はギルガメッシュではなく、エンキドゥになっていた。
彼は四つ足で、
エンキドゥと同じ道を歩いてた。
「フンババは眠る。生理現象に逆らえない。つまり、生物としてのヤツは殺せる」
エンキドゥの身体は一瞬、痙攣した。
そんな事を話さなきゃ良かったと、彼は後悔したんだ。
ギルガメッシュは、
冷静に冷酷にフンババの分析を始める。
彼は時折、未来の栄光を、賞賛を見えているのか、ニヤニヤと笑う。
(こうして、第三幕は眠りしフンババで幕を閉じる。)




