第二幕:レバノン杉と森の番人フンババ
やあ、君。
友情のために、気軽に誓うのは危険だ。言葉は軽やかだ。
だけど実際の重みを理解せず、
都合の良いことばかり言うと、
破滅を呼び寄せるんだ。
そして、若く強きエンキドゥも例外じゃなかった。
第一幕では、ギルガメッシュの友情に浮かれて、エンキドゥは誓ってしまった。神殺しに協力することに、さ。
この事は、エンキドゥの未来に暗い影を落とすことになる。
彼は怯え、森での事を思い出しては、更に怯えた。
「考えなおせ、ギルガメッシュ。君は、ヤツの恐ろしさを知らない。」
彼は歌い出す。
おお、ウルクの王よ
お前の友の警告を聞け
そこは森の中。
太陽の光さえ届かぬ場所あり。
陽光さえ届かぬ
異界の如き場だ
おお、ウルクの王よ
お前の友の警告を聞け
そこは神の領域だ
畏れをもて
未来のために
道を逸らせ
そこに毒の息を吐く獅子がいる
人の身で
獣の身で
近づくことは叶わぬ
7つの威光を彼は持ち
7つの恐怖で我々を阻む
7つの叫びが森を震わす
我々の友情のために
この道は破滅しかない
それでもーー ボクの友よ、
お前が行くなら
我も続こう
誓いが我々を永遠に結ぶから
彼は歌をやめた。
ギルガメッシュの様子を見たからだ。
ギルガメッシュ王は、不敵に笑っていた。それどころか
ーーやる気に満ちていた。
エンキドゥは、そんな友を見て、微笑んで、下を向いた。
「ボクは君についていく。誓ったからーー」
ギルガメッシュ王は、友の弱気な姿を哀れと思った。
彼には思慮分別があったが、
限界もあった。
それが今、最悪な方向へと彼を導く。
「怯える事はない。生きて触れるものは、きっと滅ぼすことができる。
それを試す機会だ。
報酬はレバノン杉という素材だ。
君は知らないだろうが、
これがあれば泥レンガ以外で、建築に役立つ。わかるかい?
オレはレバノン杉の木で、川に挑むつもりだ。川の氾濫を抑えるには、
木は必要なんだ。
多くのウルクの民が救われる。」
ギルガメッシュ王は、この土地の抱えた問題をエンキドゥに説明した。
泥は、乾燥した大地で家にはなるが、
川の氾濫や雨により、
それらは溶ける。
石は高価だし、民には手が届かない。
この文化の、この国は、まさに泥の国だった。
神々が独占する木が、素材が、
ギルガメッシュには非常に欲しかった。
それがあれば、彼の名は更に高まる。
ギルガメッシュの欲望は、独りよがりではなかった。
この話を聞いても、エンキドゥの顔は晴れる事はなかった。
(こうして、第二幕はレバノン杉により幕を閉じる。)




