第十幕:神々の限界と虚な夢物語
やあ、君。ボクらは、真夜中のウルクの城壁のてっぺんの歩廊にいる。ここが、よく、この時代の世界を見渡せるんだ。
城壁の下にはティグリス川がゆったりと流れる。神々からの異変の時に、この川は不気味な音を立ててたんだ。
その奥の対岸には、草がボーボー生えてる。葦原だ。ずっと奥へと続いてた。
視界をあげると、藍色の空と大地がにじむ。空には星々が、そばかすみたいに貼り付いてた。
ボクらと同じものを見ているのが、
ギルガメッシュだ。
彼は白い布に包んだ我が子エンキドゥを抱きしめていた。
布地で、エンキドゥを包む時、
彼は驚いた。
なぜかって?
あんなにも、強い男が、
こんなにも軽くなるなんて、
想像してなかったからだ。
彼はもう一度だけ、
エンキドゥを抱きしめる。
白い布越しから、
かすかに動くことがあれば
ーー彼は希望的な考えをしてた。
彼に会えたら、
父と息子の会話ができるだろうか?
彼はつぶやいてた。
彼は昔みたいに、物語を自分に言い聞かせていた。
こんな風にさ。
彼の息子が生き返る話だ。
やあ、父さん。
神々から許しをもらえた。
ボクは神になったんだ。
今は幸せだよ。
英雄ルガルバンダに会えた。
彼はボクを父さんの子だと知ってた。
女神ニンスン、母さんが認めたんだ。
すこし複雑な関係なんだよ。
だけど、ボクは幸せだ。
「ああ、エンキドゥ、
オレも行けるか?
今すぐ命を捨てたら、
オレも、お前の側にーー」
でも、物語は、いつも、
ここで、途切れる。
また繰り返し話す。
目を閉じた。
だけど、
エンキドゥみたいに泣けない。
川の流れがゆっくりと進む。
彼はエンキドゥをまた抱きしめた。
「エンキドゥ。
我が友よ。
ーー我が子よ。」
彼の言葉が虚空に飲み込まれる。
「オレは生きねばならない。
生き抜かねばならない。
オレは王だ。
ウルクの王だ。
死ぬのは論外だ。
まっぴらだ。
時の流れは川のようだ。
だが、ーー川の流れは止められる。
オレには考えがある。
だが、ーー時の流れは止められない。
ーー生きる流れ、
ーー死の流れ
まったく想像ができない。
これがオレの人間としての限界か?
限界なのか?
神なら分かるのか?
いいや、神も分からない。
この流れを神々が操れるなら、
そういう物語がある。
だがーーオレの知る限り、
そんな都合の良い話なんてない。
神にも限界がある。
限界がないように、
見せているだけだ。
」
彼は流れを見つめる。
「オレは何者なんだ?
どこから来て、
どこへ行くのだろう?」
彼は再び腕の中の友を呼ぶ。
「エンキドゥ。君が、答えてくれたらいいんだがーー」
(こうして、物語は一旦幕を閉じる。)




