第一幕:考えなしの友の誓い
やあ、君。今回の物語は、ファウストが天に召された後の話だ。
彼の壊れた魂は、
次の誰かに受け継がれた。
もしかして、君の時代にも彼の魂を持つ者がいるかもしれない。
ボクが誰かって?
語り部ファウストさ。
ヨハン・ゲオルク・ファウスト。
君と共に物語を見つめる者であり、
君の友だ。
今度のファウストの魂を引き継ぐ者がいるところを説明しよう。紀元前2700年頃、古代メソポタミア地方の南部に位置するシュメール。その中で、最も力を持った都市国家がウルクだ。
この辺りの風土は乾燥していた。
君が流行病で熱を出した時くらい。
それよりも、もっと高いかも。
ティグリスとユーフラテスの川の泥で、街が作られた。高い城壁を越えた先、大きな宮殿の奥深くの広間には、陽光が白い石の床に映った。
その中央に彼らは立っていた。
男が二人、王座の前で向かい合っていた。
男の一人が堂々と話し始めた。
「エンキドゥ。君がいたら、オレはある計画が実行できる。きいてくれないか?」
彼の名はギルガメシュ・F・ウルク。
この時代のウルクの王だ。
父が、今は亡き英雄ルガルバンダ。
母は不死の神の一人、女神のニンスンだ。
これにより、彼は三分の二が神であり、三分の一が人であった。
それなのに、彼は死ぬ定めを背負っていたんだ。
この時代は、物語と現実の境界線は曖昧で、どんな存在もいた。
神さまがいても、おかしくない。
彼は肩まで伸びた黒い髪は獅子の如く、金の眼光は鋭く、友に微笑む。
この猛々しい男の中に、
ファウストの壊れた魂がいた。
まるで、ラピスラズリの書版が青銅の箱におさめられているように。
ーーFとはファウストだ。
この秘密の名はボクらだけが、
知っている。
彼には友がいた。向かい合ってた男だ。
彼の友は美丈夫だ。ギルガメッシュ王とは違い、柔らかい印象だ。彼を初めて見た者は、彼こそがギルガメッシュ王だと思ったに違いない。
彼と違うのは、身長が少し低かった。
そして、ほんの少し華奢だった。
二人はもともと敵同士だった。
ギルガメッシュは、生まれながらにして王であったが、血の暴走に導かれ、非道な生き方をした。か 彼は孤独だった。長い間、彼と並ぶ者は一人としてなかった。
エンキドゥは、元は森の中でケモノと同じ生き方をしていた。
彼を人間社会へと連れてきたのは、人間の女シャムハトであった。彼女は女神ニンスンに仕える神官の立場にあった。その彼女により、彼は人となれた。
人になったエンキドゥは、ギルガメッシュの悪行を聞き、彼を命がけで止めた。この事により、二人は友情を結んだんだ。でも、もっと深い秘密がある...。
彼はこう答えた。
「もちろんだとも、ボクの友、ギルガメッシュよ。君が望むなら、地の果てまでいく。誓うよ」
誓いなんて、気軽にしてしまうのは、命取りだ。エンキドゥは、まだケモノの習性が残ってたせいで、人の誓いの重さを知らなかった。
その言葉が終わると、彼らはがっしりと片手を組みあった。そして、見つめあう。二人の視線の先には未来があった。輝ける未来が、ね。
だが、ギルガメッシュ王の言葉がエンキドゥを悲しみと怯えに叩き込んだ。
「フンババを退治し、森を完全に掌握する」
神の恐ろしさを、ギルガメッシュは理解できない。三分の二の血のせいか。
三分の一の血のせいか。
ボクにはわからない。
エンキドゥの額に、油汗が浮かんだ。
彼の目には、もう未来なんて映ってなかった。
(こうして、第一幕はエンキドゥの顔で、幕を閉じる)




