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第四章 「少女士官達の大志」

挿絵の画像を作成する際には、「Ainova AI」と「Gemini AI」を使用させて頂きました。

 こうした具合に巴図魯(バトゥル)としての公務に私が力を入れているのは、英里奈ちゃんと交わした約束が一役買っているんだよね。

 あれは確か、日本人初の巴図魯の叙勲という歴史的栄誉を讃える報道やら関連する公務やらが一旦一段落した頃だったかな。

 一緒にシフトに入っている日で休憩時間が被っているタイミングを見計らい、私は支局の休憩室で訓練生時代からの親友である生駒英里奈少佐と私的な会談を行ったの。

挿絵(By みてみん)

 何しろ英里奈ちゃんは生まれついての伯爵令嬢だから、上流階級社会での身の振り方も熟知しているんじゃないかってね。

「いつもありがとう、英里奈ちゃん。伯爵家の跡取り娘である英里奈ちゃんが『後援の三傑』として私を支えてくれてるの、本当に心強いんだ。」

「何を仰るのです、千里さん。他ならぬ(わたくし)と千里さんの仲では御座いませんか。」

 ワイングラスを傾ける所作一つ取っても、その気品と優雅さには一分の隙もない。

 両親や使用人からの厳格極まりない躾はあるにせよ、生まれ持った高貴な血筋は間違いなく英里奈ちゃんの気品の源泉になっているのだろう。

 武勲で準貴族に成り上がった私との決定的な違いは、ここにある。

 だからこそ、今後の事を相談する相手に選んだのだけれどね。

「今回の叙勲は、私にとって非常に名誉な事であり喜ばしい事でもあるんだ。今までの頑張りが目に見える形で評価された訳だから、キチンと報われた感じがするんだよね。それと同時に、これからは一挙手一投足や身の振り方にも今以上に気を配る必要があると思うの。『徒然草』の吉田兼好曰く、『何事にも先達はあらまほしき事なり』。新興貴族となった私としては、伯爵家に生まれ育った英里奈ちゃんを先達として仰ぎたい所なんだよね。」

「そう仰って頂き喜ばしい限りで御座いますよ、千里さん。高貴な地位に有頂天になる事なく、今後の去就に気配りなされる冷静さ。実に良い心掛けで御座います。」

 白い細面に上品な微笑を浮かべたのも束の間、英里奈ちゃんはスッと真顔になって私を見つめたんだ。

「巴図魯の官爵を叙勲された千里さんには、二つの道が開かれています。一つ目は、巴図魯はあくまでも名誉称号という位置付けに留め、それ以外は平凡に過ごされる道。二つ目は、中華王朝の準貴族である巴図魯の地位を足掛かりにして更なる飛躍を遂げ、歴史に残る大事業を執り行われる道。その(いず)れかを選ばれるかは、千里さん次第で御座います。」

「や…やっぱり、そうなっちゃうか…」

 巴図魯を単なる名誉称号にして酒に酔った勢いで時々自慢するだけに留めるなら、かなり気楽だろうね。

 だけど私は…

「せっかくここまで来れたんだし、単なる名誉称号で終わらせるのは惜しいと思うんだ。私にしか出来ない事が、いつかきっと出来る時が来ると思うの。『公の論理』に基づいて生きられる『公人』としての自負があり、日本人として初めて巴図魯になった私だからこそ出来る何かが…それが何かはまだ私には分からないけど。」

「ならば千里さん、その何かを(わたくし)と共に掴み取りませんか?千里さんが仰られたように、(わたくし)には伯爵家という富貴の身分が御座います。社交界での世渡りや礼儀作法…そうした諸々を千里さんに伝授する事も、日本の華族社会に御紹介する事も喜んでさせて頂きましょう。千里さんがお望みならば。」

 ここまで言い切るだなんて、まるで荘襄王(そうじょうおう)を支援した呂不韋(りょふい)みたいだよね。

 だけどそれを指摘したら、英里奈ちゃんは「我が意を得たり」とばかりに首肯したんだ。

「成る程、呂不韋で御座いますか。然らば(わたくし)は呂不韋に倣うなれば『今仲父(いまちゅうほ)』、そして千里さんは(わたくし)にとって荘襄王の如き奇貨で御座いますね。」

「奇貨か…そう御評価頂けて光栄だよ。英里奈ちゃんの御期待に沿えるように、私も頑張らなくちゃね。頑張るためには、モチベーションとなる大志が欲しい所だよ。クラーク博士だって、『大志を持て』って言ってる訳だし…」

 札幌市の羊ヶ丘展望台にある銅像の真似をしながら、私はふと考えを巡らせたんだ。

 私だからこそ持てる大志は、私ならではの経験から生まれるんじゃないかってね。

「分かった気がするよ、英里奈ちゃん。私が持つべき大志…それは安全保障体制の盤石化に伴う公安職全体の職場環境向上にあるんじゃないかって!分かるでしょ、英里奈ちゃん?私達が中1だった頃の夏、私の身に何があったのかを?」

「中1だった頃の夏…はっ!それは千里さんが瀕死の重傷を負われた時の!?」

 飲み込みが早くて本当に助かるよ。

 英里奈ちゃんの上品な細面を蒼白にさせてしまったのは、私としても申し訳ない限りだけど。

「高性能衝撃集中爆弾の直撃により瀕死の重傷を負い、中学時代の大半である2年半を昏睡状態で過ごす。私と同じ目に遭う人がこれ以上現れるのは忍びないからね。それには戦術レベルの対応じやなく、国家や組織を繋ぐ高レベルな相互安全保障体制の緊密化という戦略的な対応が手っ取り早いよ。孫子だって言ってるじゃない、『戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり』ってね。反政府勢力を干上がらせたり早期に発見出来るような、より強固な安全保障体制…一介の特命遊撃士だった頃は単なる誇大妄想に過ぎなかったけど、巴図魯の官爵を叙勲した今なら現実味を持って語れる気がするんだ。」

「成る程、千里さん御自身の苦い御経験を他の誰にも追体験させまいと…千里さんのその高潔な大志、是非とも支援させて頂きましょう。」

 その日から私と英里奈ちゃんの間柄は、大志を同じくする盟約関係の意味合いも帯びるようになったんだ。

 そして巴図魯の官位もまた、単なる栄誉賞号ではなくて公安職として目指すべき高度な安全保障体制構築のための発言権の後ろ盾という意味合いも帯びてきたの。

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― 新着の感想 ―
ここから作中世界が大きく変わりそうな気がします。 それに反発せんとする一部の反社会的組織が最後の大暴れを見せ始めるとかもあるかもだけど、千里少佐自身のこれからの生活が一変しそうです。 なんいせよ歴史…
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