プロローグ第一章 「アポカリプス掃討作戦」
至近距離で浴びた爆発の直撃と受け身も取れずに食らった墜落のダメージで傷付いた身体に、鉄筋コンクリートの瓦礫の重量が容赦なく襲い掛かる。
損傷した遊撃服の裂け目から覗く傷だらけの身体が更に破壊されていくのを実感しながら、私は身を挺して庇った愛銃が無事だった事に安堵したの。
「フフフ、イカれた邪教徒共の分際でなかなか凄いの作るじゃない…だけど連中も切羽詰まっているね。虎の子である高性能衝撃集中爆弾の試作品を、私みたいな一介の狙撃兵一人を殺す為だけに使うだなんて。」
まあ、それも無理はないかも知れないね。
何しろ自軍を遠距離から狙ってくる狙撃兵を真っ先に排除すべきなのは、戦場の鉄則だもの。
それに今回の「黙示協議会アポカリプス掃討作戦」で私が何をしていたかというと、専ら狙撃ポイントとして確保した教団施設ビルの高層階から武装教団員を射殺しまくる事なのだから。
そもそも私は掃討作戦以前からアポカリプスの構成員や幹部クラスを暗殺しまくっていたのだし、相当な恨みを買っていても不思議じゃないね。
狙撃ポイント諸共に大量破壊兵器で爆殺しようという強硬手段に出たのも、ある意味じゃ道理かも知れないなぁ…
「でも、それで仕留め損ねているんだからお笑い草じゃないの。」
そうして柄にもなくハードボイルドに笑ったけれども、楽観視出来ない状況だって事は私自身が重々承知していたんだ。
瓦礫に完全に押し潰された下半身は殆ど感覚が無いし、身体のアチコチに穿たれた貫通傷からは血液を始めとする色々な液体が流れ出ているんだもの。
「ああ…参ったなあ…これじゃ『赤眸の射星』じゃなくて『隻眼の射星』だよ。まあ、片目だけでも生き残ってくれて良しとしなくちゃ。」
爆風が直撃して焼け爛れた顔の左側は、どうやら眼球ごと駄目になったらしい。
もう何も見えないし、全くいう事を聞いてくれないの。
「ゴホッ、ブボッ…」
オマケに大事な臓器を幾つもやられたみたいで吐血も止まらないし、咳き込む度に大きな血塊が込み上げてくるし、もう本当に酷い物だよ。
生体強化ナノマシンと強化薬物の投与で耐久力の上がった身体と強化繊維製の遊撃服があっても、こうして生命を繋ぎ止めるのが精一杯。
しかしそれも、あんまり長くは保たなそうだよ。
件の大量破壊兵器は確かに物凄い威力だった。
だけど、これで黙示協議会アポカリプスは優位性を失ったも同然だよ。
何しろ試作品をぶっつけ本番で使った事で、こうして私という被験者を産んでしまったんだからね。
昔から「謀は密なるを良しとす」というけど、こういう新兵器の実験は秘密裏にやらなくちゃいけないってのに。
人類防衛機構の優秀な科学者達の事だから、私のデータを使って速やかに攻略法や対策を見つけてくれることは間違いない。
今回の大量破壊兵器の開発データが万一にも闇ルートで流出していたとしても、次回にはスピーディーに無力化出来るって寸法だよ。
そして連中のもう一つの過ちは、私を即死させられなかった事だね。
幸いにして通信機能やAIといった多機能ヘルメットの主要機能は生きているし、ペアリングさせて脳波コントロールしているドローンにも異常はないみたい。
それに身を挺して庇ったレーザーライフルは無傷だし、射撃に必要不可欠な手首から先も何とか健在だった。
ろくに移動出来ないのと残された命数が少ない事を除けば、狙撃の任務を遂行するのに何も問題はなかったよ。
「フフフ…私こと吹田千里大尉、最後の御奉公と行こうじゃないの!」
先程よりも一回り大きな血塊を吐き出しながら微笑を浮かべ、私は改めて状況を把握したの。
イヤホンから聞こえてくる通信によると我が軍が優勢の戦局だけど、生き残ったアポカリプスの幹部がドサクサ紛れで逃走を図ろうとしているみたい。
「生き残った幹部は…ドゥームズデイ博士か。コイツは大量破壊兵器の開発を担当していたマッドサイエンティストだから、あの高性能衝撃集中爆弾も恐らくは…」
観測手代わりのドローンに搭載されたカメラアイも、それを裏付けてくれたよ。
それを確認する赤眸も、今は片方しか残ってないけどね。
腰から下に左目、そして残りの人生。
それらの仇は、私自身の手で討たなくちゃね。
「良し…レーザーライフル、高出力モード…!」
そんな満身創痍の私とは好対照に、我が愛銃は普段通り正確に機能してくれた。
全く、何とも頼もしい限りだよ。
そしてその成果もまた、実に素晴らしい物だったんだ。
「なっ…?!ばっ、馬鹿な!奴は確かに死んで…」
高出力のレーザー光線が瓦礫をぶち破り、その先にいる標的をみるみる飲み込んでいく。
狼狽した時には、既に勝負ありだよ。
「ぐあああっ…!?」
「見たか、ドゥームズデイ博士!これが『赤眸の射星』の最後の一撃だよ…」
そうして怨敵であるアポカリプスの幹部クラスが上げる断末魔に満足しながら、私は降り注ぐ瓦礫に押し潰されていったんだ。
「グッ、ゴブッ…!」
今の落盤で折れた肋骨が肺に新しい穴を開けたらしく、一際大きな血塊が口から溢れ出す。
それを認識した次の瞬間には、私の身体は小刻みに痙攣し始めたんだ。
「フフフ、これで良い…私の、私達の勝ちだ…」
片目の失明により右半分だけになってしまった視界も、どんどん暗くなっていく。
どうやら私も、限界が近いみたい。
だけどブラックアウトしていく意識に浮かんだ最後の思考が、自軍の勝利に貢献出来たという充足感で良かったよ…




