『悪魔2』
はじめに、この物語はフィクションであり実在の人物や団体などとは関係ありません。ご理解いただいた上でお読みください。
【甲辺風山殺人事件 】
【事件概要】
1995年10月23日、神戸市風山天明寺の雑木林(山中)で、登山に出かけた大学生の**松本和美さん(当時21歳)と浜田あゆみさん(当時21歳)**の2人が遺体で発見されました。2人はアルバイト仲間でした。
【経緯と遺体の状況】
事件当日、2人は午前10時頃に風山へ登山に出かけましたが、夜になっても帰宅せず、家族が警察に捜索願を提出しました。翌日、普段人が立ち入ることのない山奥の雑木林で2人の遺体が発見されました。
遺体にはどちらも激しい暴行の痕がありました。
松本さんの遺体は目をつぶされ、胸に深く包丁が突き立てられていました。
一方、浜田さんの遺体は下着を脱がされた状態で発見され、性的暴行を受けたとされています。
【不可解な点と謎】
・「タスケテクダサイ」のメモ: 遺体の近くから、ボールペンで震えたような文字で書かれた「タスケテクダサイ」というメモが発見されました。このメモの筆跡は浜田さんのものと酷似していた。
・ 事件現場の山中は民家も近く、人の出入りがあってもおかしくない場所でしたが、事件当日の有力な目撃証言は得られていない。
・ 遺体の状況やメモの内容から、複数の犯人が関与した可能性が指摘されているが、これを裏付ける決定的な証拠は見つかっていない。
【容疑者】
事件現場付近では、日頃から不審な人物が目撃されていた。
・1人目の不審者: 昼間に登山中の女性に頻繁に声をかけていた人物がいました。ある日、家族で来ていた主婦が「今日はいい天気ですね」と声をかけられ振り向くと、男の手に包丁が握られていたという証言があります。主婦は夫と子供の元へ逃げ、無事でした。この男は決まって月曜日と水曜日に目撃されており、複数の女性に声をかけていた人物と包丁を握っていた人物は同一人物と特定されましたが、その後の調査で発見には至っていない。
・地元の不良グループ2人: 地元の不良グループの2人が事件当日、風山の出入り口付近で目撃されたという情報がありました。しかし、この2人は事件発生時刻には会社にいたという目撃証言が得られ、容疑者から除外された。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『徳』西巌寺で、あまりにも現実離れした真実を聞かされた翌朝――。
清真と真尋は、山あいの町、兵庫県甲辺市へと足を運んでいた。
秋の気配が色濃い山道を散策し、事前に調べた事件現場の地形を慎重に確かめる。今なお多くの謎を残し日本3大未解決事件の1つとされる【甲辺風山殺人事件】の舞台、風山。
二人の表情には、真剣な覚悟が宿っていた。
「須見さん、この事件の犯人が同一人物の可能性が高いって…」
清真が問いかけると、真尋は深く頷いた。
「うん 清真くんが殺されそうになったてい状況と、清真くんが言う犯人の特徴を聞いて私には確信できたわ!」
真尋は言葉に力を込めながら、一歩前にでた。その表情には、揺るがぬ自信と覚悟が宿っている。
「あの男の残忍さは、初犯のそれじゃない!だから、あの時の犯人が、1995年の『甲辺風山殺人事件』の犯人と同一人物だと考えたの」
真尋は、清真が語った犯人の特徴を反芻した。空手の心得があるらしい動き、相手の目を潰す残虐性、突き立てられた刃物、そして一般には公開されていない、口を大きく開けて「ガチッ、ガチッ、ガチ」と歯を鳴らす奇妙な癖。これら全てが、彼女が過去に取材した「甲辺風山殺人事件」の犯人像と酷似していた。
「同一犯であるならば、1995年の事件を解決すれば、2010年の柴田玲子さん誘拐事件は起こらないはずよ」
真尋の言葉に、清真の目は揺るぎない決意に満ちた。
「そうですね 今度こそ、俺たちの手で未来を変えるんだ」
そして真尋には、一つ気づいていることがあった。過去に戻る際、そして未来に戻ってくる際に、物を持ち込むことができたという事実だ。
それは、彼女がこれまでのタイムリープで偶然得た知識だった。それを生かし、今回は護身用にスタンガンを所持することにした。
万が一の事態に備えて、小さく握りしめ、上着のポケットに忍ばせる。
現場の地形、作戦、タイムリープをする準備を整えてた2人。だが、それ以上に大切なのは覚悟だった。
清真と真尋は向かい合い、静かに手を取り合った。互いの体温が、これから挑む現実の重みを確かに伝えていた。
「決して、単独で突っ走らないこと」
真尋の声は静かだが、意志の芯は鋼のように固かった。
「私たちは、二人で一人。どんな危険も、一緒に越える」
清真は深くうなずいた。
言葉ではなく、その目で答えていた。
二人は、交わした約束を胸に、1995年10月23日へとタイムリープした。
当日の午前9時にタイムリープした二人は、風山登山口のあたりで、周囲に怪しまれないよう、人の流れに溶け込んでいた。
まだ早朝だというのに、紅葉狩り目当ての観光客がちらほらと見え始める。二人は、自然な振る舞いを心がけながら、ターゲットとなる人物の出現をじっと見張る。
午前10時20分頃、二人の目の前に、被害者であった松本さんと浜田さんが現れた。
二人は軽快な足取りで入山していく。
「行こう!」真尋の言葉に清真も頷き、二人は一歩を踏み出した。
清真と真尋は、少し距離をとりながら、その尾行する。
しばらく山道を歩き続けると、前方で松本さんと浜田さんが立ち止まるのが見えた。
真尋と清真の目の先には、不審な男が一人。男は松本さんと浜田さんに声をかけているようだった。
距離がある為、男の正確な特徴は掴めない。清真が目を凝らす。
その瞬間…
真尋の足元が不意に滑った。斜面に生えた枯葉が、彼女の体をずるりと滑らせる。
「うわっ!」
真尋の体が傾ぐ。清真が咄嗟に真尋の手を掴み、その体を強く引き上げた。
「大丈夫 須見さん!」
「うん、なんとか…ありがとう、清真くん」
事なきを得た二人が、再び目を前方に向けた時には、すでに男と松本さん、浜田さんの姿はどこにもなかった。焦りが二人の胸をよぎる。
「ごめん私のせいで見失った…」真尋が唇を噛み締める。
「須見さんのせいじゃないよ 行こう!」
清真が促し、二人は足早に、彼女らがいた方向へと駆け出した。辺りを見回すが、しかし誰もいない。
真尋が、ふと斜面下の細い道に目をやった。そこには、不良グループと思われる男が二人、たむろしているのが見えた。真尋は目を凝らし、「あれって…」と言いかけた、その瞬間だった。
「キャァァァァァ」
微かに、女性の悲鳴のようなものが、そことは別の方向から聞こえてきた。
清真がハッと真尋を見る。
「今、声聞こえなかったか?!」
真尋も、同じ声を確かに聞いていた。
「うん…急ごう!」
二人は、迷うことなく声のした方へと走り出した。
事前に調べた犯行現場の方向から、やはり、女性の悲鳴が聞こえてくる。それは、確かな緊迫感を帯びて、二人の耳に届いた。
息を切らし、現場に辿り着いた二人の目に飛び込んできたのは、倒れている松本さんの姿と、男に襲われそうになっている浜田さんの姿だった。
「キャァァやめてやめて」
浜田さんの顔は恐怖に歪み、男の凶悪な形相が間近に迫っている。
「やっぱり…あいつだ…」
清真の声が、微かに震えている。彼の目の前には、あの悪夢が、再び現実に立ち上がっていた。
真尋は、清真の震えに気づき、彼の腕を強く掴んだ。
「大丈夫、清真!!二人で救おう!私たちならできる!」
真尋の力強い言葉が、清真の恐怖を打ち消していく。
二人は、固い決意の眼差しで男を見据えた。
「やめろッ!!」
「やめなさい!!」
二人の声が、山間に響き渡る。悪夢のような過去と、立ち向かうべき正義と悪が再び交錯する。