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『残火と想い』

はじめに、この物語はフィクションであり実在の人物や団体などとは関係ありません。ご理解いただいた上でお読みください。


第5章『想い』


熱い想いを胸に持った清真は真尋の職場である『SHIGEDAN』出版社の前に立っていた。


勢いで来てしまった清真はどうしていいか分からず、出版社の前を右往左往していた。


「何をしているんですか?」警備員に声を掛けられる。警備員は明らかに怪しんでいる様子だった。


清真は意を決し「すいません!あの須見真尋さんに会いたいのですが」


警備員は怪しげな目で清真を見つめる。


警備員からの疑惑の眼差しに、焦る清真だったが、会社の入り口からちょうど真尋がでてきた。


「須見さん」清真が助けを求めるかのように真尋を呼ぶ。

真尋は清真に気が付き、驚いた顔をしながら近づいてきた。


「どうしたの清真くん」真尋が清真にいう


「ごめん!俺、須見さんに言いたいことがあって」清真は自分の中にたぎる想いを胸に真尋に言った。


真尋は清真の表情をみて微笑みながら「心配したんだから」真尋の手が清真の頭を軽く叩く。


そして「私もちょうど清真くんに話したい事があったの!」先ほどの笑顔とはうってかわり真剣な表情で真尋が言った。


ーーーーーーーーーー


静かな編集室の一角、真尋は自分のデスクに清真を迎え入れると、周囲に誰もいないことを確認してから声を潜めた。


「私、あれから2005年のお化け屋敷火災事故について調べてみたの」

「そしてこれが調べた結果なんだけど……2005年のあのお化け屋敷火災、亡くなったのは成人2人だった…」

「私はあの事故で生死を彷徨ったわ!ただ調べたら もう一人、当時1歳の男の子が事故に巻き込まれ、生存してたって記録が残ってる」


清真は息を呑む。


「当時1歳の男の子——つまり、ちょうど清真くんの年齢と一致するの」


「えっ!俺にはそんな記憶はないし、親からも聞いたことないよ!」

「俺がこの時の男の子って事?」清真が信じられない表情で真尋に問う。


真尋は、小さくうなずいた。


「可能性は高いと思う。でも、個人情報保護法とか、当時の記録の制限とかあって、それ以上は特定できなかった。しかも、その子はすぐに別の病院に転院したらしくて、新聞にも名前は載ってない」


清真は静かに、そして確かな疑問を胸に刻む。

「タイムリープできる俺が、その火災に巻き込まれてたのなら辻褄があう………」


「うん。私達の力は、そこから始まってるんじゃないかな」


その言葉が、清真の心に刺さる。彼はゆっくりと立ち上がる。

「俺……両親に確かめてみるよ」


「うん でもね清真、もし本当に清真が火災に巻き込まれたのに、今清真自身がその事実を知らないって事は、親御さんは貴方に敢えて隠してるんじゃないかと思うの」「親御さんは貴方の事を何よりも大切に思ってる証でもあると思うわ だから事実を聞き出すこともそんなに簡単じゃないと思う」真尋は複雑な想いを抱きながら清真に伝える。


「うん 分かってる ありがとう須見さん 母さんの気持ちは今なら…大丈夫」清真は自分の気持ちを確かめながら須見に返す。

清真の表情をみて少し安心する真尋。


「そういえば清真くん 私に話したい事って」真尋が清真の言葉を思い出す。


「それはまた今度伝えるよ! 今は両親の気持ちと事実に向き合いたいから!」

そう言い残し、清真は出版社を後にした。向かう先は、自宅。両親。そして、母・真璃。


家に足を踏み入れるなり、リビングから母親の真璃の声が聞こえてくる。


「清真、あんた遅くなるなら連絡くらいしなさい!!心配するでしょ」

いつもは口答えしてくる清真の様子が違うとに気づいた真璃は心配そうに清真の顔を覗き込む。

いつもの小言を言いかける真璃に、清真は意を決して切り出した。


「お母さん…聞いてみたいことがあるんだ。俺が小さい頃のことなんだ」


清真のただならぬ真剣な雰囲気に、真璃は言葉を失う。


「お母さんがいつも『与えられた命を大事にしなさい』って言う理由…あれってお化け屋敷の火事と関係あるの?」


真璃の顔から、さっと血の気が引いた。彼女は清真の問いに、しばらくの間、何も答えることができなかった。その目は揺れ動き、過去の辛い記憶がフラッシュバックしているのが見て取れる。


「……どうして、そんなことを…何の話をしてるの?」


絞り出すような声で、真璃が尋ねた。


「知りたいんだ!!俺!本当の事を!」


「知らないわよ!さっきから何の話をしているのよ!」


「母さん!」「俺、タイムリープしたんだよ!」清真が気持ちが先行し、タイムリープという事実をつい口にだしてしまう。


「タイム…リープ?…いい加減にしなさい!ふざけないで!あなたは!」

真璃が言いかけたその時、清真の背後から足音が響いた。


「……あの時の“男”……まさか……」


振り返ると、父(巧)が立ち尽くしていた。表情に、信じられないものを見るような驚愕が浮かんでいる。


清真と目が合うと、巧は何かを思い出すように、ゆっくりとつぶやいた。


「……そうか…あれは……お前だったんだな」


真璃が父に向き直る。「ちょっとお父さん…何の話……?」


「話そう……清真には、話すべきだ」


真璃は、動揺し、戸惑い、拒絶の色を浮かべた。「ダメよ、まだ……あのことは……」


「…隠しようがない…それに清真を信じよう…」


静かに、しかしはっきりとした父の言葉に、真璃の肩が落ちる。その目は涙をこらえるように揺れていた。


しばらくの沈黙の後、母は重い口を開いた。


「…うん…そうよ…あの日、私とあなたは2人で遊園地にいたわ…私と一緒にお化け屋敷に入って、火事になって、パニックの中で私がはぐれてしまって…あの時、私はあなたを守ってあげれなかった…消防隊員に助け出された時は、もう…息があるかどうかもわからないくらいだった」


真璃の声は震え、瞳に涙がにじむ。


「でも、あんたは助かった…一人の男性があんたを助けてくれたのよ…自分の命と引き換えに…あんたに覆いかぶさるようにして、守ってくれた人がいたの」

「そこには清真と男性、他にも二人の被災者がいたわ…一人は小学生の女の子、もう一人は成人女性…成人女性も小学生の女の子を助けようとして命を落としてる」


真璃は、当時まだ幼かった清真には話さなかった事実を、苦渋の表情で語った。


「その男女は荻野さん(男性)と平井さん(女性)という名前だったと、後で聞いたわ。消防隊員が発見した時は、あんたたち二人を抱きしめるように、亡くなっていたって…あなたは小学生の女の子と同じ病院に運ばれたけど、小さかったからすぐに別の病院に転院したの…」


清真の頭の中で、誰かの命と引き換えに生き延びた存在だという事実に、清真は打ちのめされる。


同時に、母親が「与えられた命を大事にしなさい」と何度も繰り返してきた言葉の重みが、彼の心に再度突き刺さる。それは、母親自身の後悔と、荻野さんへの深い感謝、そして生きてくれている清真への切なる願いだったのだ。


清真は、震える声で尋ねた。

「その人たちはその後どうなったの…?」


真璃は、涙を拭いながら答えた。

「まだ若い男女だったけど2人とも身寄りがなかったと聞いたわ…『徳』本願寺という場所に二人とも納骨されてるわ。」


「ありがとう…父さん、母さん」

そして清真の胸に、新たな決意が宿った。


清真は真尋に連絡した。

2人は自分達が生き延びた意味。そして、タイムリープという力が、何のために自分達に宿ったのか。「徳」本願寺に行けば何か分かるかもしれない。

何より、荻野さんと平井さんの2人にお礼を言いたかった。


次の日、清真と真尋は『徳』本願寺に向かった…






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