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02

 今度は、確かアークトゥルス殿下に近づくヴィーナスちゃんに暴言を吐くのよね。暴言ってよりは嫌味かな。よし! 此処は嫌味ぽく言わなくちゃ。

「平民風情が尊いアークトゥルス殿下に近づくなんて、分を弁えるべきではなくって」

「学園内では身分関係なく平等なはずです」

「平民が可笑しな事を言っているわ。平民は、養育がなっていないのかしら」

 扇子を口元で広げてにやける。私、悪役令嬢に向いているかも。周りから嘲笑う声が聞こえる。

「アーク様も何かあったら頼っていいと言っていました!」

 ん? こんな初頭から愛称で呼んでいたっけ? 後半だった気がするけど。

 アークトゥルス殿下に近づくな、牽制するだけだった。


 実は私、ヒロインよりも悪役令嬢の方が好きだったからヒロインのセリフは覚えていない。覚えていないけど、この段階で愛称で呼んでいない。好感度アップのアイテムを使ったのならもしかしたらあり得るのかもしれない。私は使ったことはないけど、課金したら好感度がアップできた。好感度アップのアイテムまで売っていたの!? お願いだから、そんな物を使わないでよ。ストーリー通りに進まないと私が混乱してしまう。それなら、セリフは――。

「貴女が如きがアークトゥルス殿下を愛称で名を呼ぶのは不敬に当たるのではなくて。恥を知りなさい。お猿さんでもわかることですわよ。貴女の知能は猿以下なんですか? あら、お猿さんにも失礼ですね」

 大勢の前で暴言を吐き、恥をかかせ、ヴィーナスちゃんの頬を平手打ちをした。

「叩くなんて、酷い。アーク様に言いつけますから」

 ん? "アークトゥルス殿下を言いつける"そんなセリフあったっけ? 覚えていないけど、たぶん、あったのね?

「あら? (わたくし)は貴女を助ける為に打ったのよ? ホーネットキラーに刺されましたら……」

 そして、そこにヒーローのアークトゥルス殿下が現れて私を咎める。

「あたしとアーク様は深い仲だからって嫉妬しているですよね。わかっています。あたしは、可愛いからアーク様に愛されているけど、愛されないスピカが可哀想――。あたしからスピカも愛してあげて言ってあげる」

 深い仲!? 上から目線の言い方だったかしら? ヴィーナスちゃんって、こんなキャラクターだったっけ!? このさえどうでもいいわ。早くヒーロー現れて!!

 ……? あれ? 何故かアークトゥルス殿下が現れない。アークトゥルス殿下だけではない。他のヒーローたちも現れる様子がない。


 ちょっと、待て! 悪役令嬢(スピカ)は他に何か言っていったっけ? こんな感じだったはずよ。

「今日のところはいいわ」

 とりあえず、今は引くべきだと思い、私は一人で考えたくて裏庭へ向かった。


「何で? ヒーローが現れなかったのかしら? 私は確かにヒロインに暴言を吐き、恥をかかせた。ストーリーの通りなら、あそこでヒーローのアークトゥルス殿下が現れて、ヴィーナスちゃんを背中にし守り、私を咎める手筈だった。可笑しい。何処で間違えた?」

 私はストーリー通りにいかない歯がゆいに頭を抱える。


 ※


 一方で、アークトゥルス殿下達は――。

 昨日、早めに切り上げた為に今朝は早めに学院へ来ていた。本来なら昨日の時点で見るはずだった映像を、生徒会の一室でスクリーンに映し出す。

 アークトゥルス殿下を含めた側近たちは魔晶石映像記録を聴きながら会議をしていた。


 ――『アハハハ! 悪役令嬢のやつが虐めをしないから捏造しようかと思ったけど、手間が省けたわ。可哀想な女の子を演じて、近づけば、可愛いあたしなら男なんてイチコロよ。ゆくゆくは王妃になってチヤホヤされて、愚民供を膝まかせて見下ろせる日も近いわね』


「結婚するん?」

「バカを言うな。国を滅ぼす気か」

「だよな」

 イザクの問いにアークトゥルス殿下は呆れたような声色で返す。イザクも本気で訊いたわけではない。それは、アークトゥルス殿下も理解はしている。

 魔晶石映像記録からは映像と音声がまだ流れている。


 ――『ふふ、逆ハーもいいわね。イケメンを囲いあたしの為のハーレムを作る。可愛いあたしは、ひとりの男にだけ愛を捧げるには可哀想だもの。あしたの為に争う姿を見るのも素敵だけど。ここはあたしの為に争わないでって言ってあげるの。キァハ』


「キモ。キモすぎる。鳥肌が立っただけど」

 今まで黙って聞いていたローランが体を震わせて苦痛に顔を歪めた。

「何処の世界の生き物。ヤバ。キモ」

「気持ちはわかりますが。ローラン、口が悪いですよ」

 アレンは、伊達メガネを指先で持ち上げながら言う。その眉間には皺が寄っている。アレンも同じ様に値の知らない生物に身震いを感じていた。

「話が通じない事は熟知していましたが、これは……狂気を感じますね」

「アレンに言われちゃ終いだな」

「何か言いましたか、イザク」

 イザクは、思い切り頭と両手を横に振った。

 にっこりと微笑んでいるが、アレンの背後に真っ黒いオーラが見えた気がしたイザクは顔をひきつかせる。この中で一番怒らせたらやばい奴がアレン・オリオンだ。ふたりの事を無視して、アークトゥルス殿下は話を続けた。

「オトメゲームが何かわからない以上、下手に動けない」

「存じています」

「呪術でもない」

「呪術なら僕が直ぐに見分けがつくからね」

 呪術の(たぐ)いならローランが対応できるが、それでもないとすると彼女達の様子を探るしかない。

 "オトメゲーム"が、はたして何を意味するのか、アークトゥルス殿下は頭を抱えた。

「俺らに注意が居ている間は、他の生徒に被害は被らないだろうから、……関わりたくないが俺らには国民を守る義務がある」

「存じています」

「仕方ないけど、餌食になるひとは少ない方がいいもね」

「……え……じき」

 ローランの無邪気な言葉にアークトゥルス殿下は 鸚鵡(おうむ)返しをした。

「言葉に気をつけなさい」

「事実でしょう」


 一旦、話し合いは終わらせて、放課後に持ち越すことにした。


 ※


 教室――。


 もう少し、シュミーデル嬢から話を訊いてみるか。


 ここ最近、スピカの隣の席にはアークトゥルス殿下が居ることが多い為に、ある噂が流れていた。

 身分も人柄も申し訳ないし、スピカ・シュミーデル嬢と婚約しているのではないかと。


(本当にどうしたのかしら。私にこんなにもべったりで、ちゃんとヴィーナスちゃんと愛を育んでいるのかな? 心配だわ)

 心配しなくても良い。育むつもりはない。

 シュミーデル嬢は、何がなんでもラピノヤ嬢を王妃に望んでいるようだ。これも、"オトメゲーム"が関係しているのか。

(それに、ヴィーナスちゃんに暴言を吐いた時、なんで? 助けに来なかったのだろう……? ヒーローなのに、何をしていたの!?)

「シュミーデル嬢」

「……は、っひ!?」

(恥ずかしい! 噛んだ)

「驚かせたようで、すまない」

「私こそ、変に驚いてごめんなさい」

「最近、流行りのゲームとかあるか?」

「ゲームですか?」

(なんで? いきなりゲームの話を?)

「ああ」

 スピカは考える。何か意図があるのではないかと。

(そう言えば、この世界に来てからゲームはやったことがないわね)

 この世界に来てから? それだと、シュミーデル嬢はこの世界の者ではない言い方になる。

「最近は、ゲームはしておりません」

「最近はってことは……前はやっていたのか?」

「ええ、オト……」

「オト……?」

(危うくオトメゲームの話をするところだった! 危なかった。本人の目の前で、殿下達を対象にした恋愛ゲームの話をしてもね。頭が可笑しくなったと思われるだけだわ。なんて言って誤魔化そう……!)

 オトメゲームの意味はわかったが、俺たちを対象にした恋愛ゲームだと!? そんな物が出回っているのか。

「オト……、音を当てるゲームですわ」

(これで誤魔化せたでしょう!)

「なるほど」

 辻褄は合うが、自信満々に言っているあたり、俺が他人(ひと)の心が読めることまでは知らないらしい。

(そう言えば、先生にも攻略対象がいたけど……どうしてか見かけたことがない。今、思い出したけど、このオトメゲーム、R18禁だった! 野外プレイとかもあって、言葉責めとかもヤバかった。言葉にするのも恥ずかしいくらいに。このゲームを考えた人は変態かも――まさか、生徒に手をだしてクビになったとか!? ゲームなら問題なくても、リアルは大問題よね)

 教師が生徒に手を出したりでもしたら大問題だろう。裁判沙汰だぞ。

 ……次は、なんだ?!

(あ、バッドエンドも良かったわ。萌える人には萌える。私もヤンデレ好きだから萌えたけど)

 燃える? ヤンデレ?

 今度はなんの話だ。

(リアルにやったら犯罪だけどね)

 オトメゲームには、燃えたり、犯罪行為もありなのか。恐ろしい。何が燃えるのかはわからないが。

(地下室に監禁とか。他の男を次見たら目玉をくり抜くよ、って脅したり、笑顔で言うあたり怖いけど、そこが良かったりする)

 俺は、あまりにも耐え難くなり横に居るシュミーデル嬢を見る。

(び、……びっくりした! 声に出していないよね、私!?)

 シュミーデル嬢の男の趣味は可笑しいと思う。地下室に監禁するような男はやめておいた方がいい。……目玉をくり抜くなど脅す様な男も論外だ。


 終わった。

 今の俺は、心に疲労が溜まっていた。オトメゲーム、末恐ろしい。

「アークトゥルス殿下、顔色が悪いですが大丈夫ですか?」

(どうしたのかしら? 青白いというよりは真っ白だわ)

 俺を心配そうに覗き込むシュミーデル嬢からは、心の中でも下心もなく心配の声が聞こえた。

「日頃の疲れがでた様だ」

「お休みになられた方が宜しいではありませんか?」

「否、少し休めば治る。気遣いありがとう」

 疲れがきたのはシュミーデル嬢からの心の声が原因だが。シュミーデル嬢はそんな事など露にも知らないだろうな。


 オトメゲームが何を意味するか情報の収集は得られた。

 今、オトメゲームでわかる情報は、恋愛シミュレーションゲーム。俺も含めて、イザク、ローラン、アレンも攻略の対象なんだろう。教師にも居ると言っていたが、問題を起こしてクビになった教師は存在しない。それなら、シュミーデル嬢がまだ出会ったないだけの可能性もある。

 俺は、今回得られた情報を仲間に打ち明ける。


 ※


「アーク様、探しましたよ! もう! ちゃんとゲーム通りに動いてくれないと」

(なんで? 思うように動いてくれないのよ。ゲームのキャラクターなんだからヒロインの為に動いてくれないとダメじゃない。プンプン。怒っちゃうだからね!)

 ローランが言う、鳥肌が立つはことの事だろうな。全身の毛が坂だっている。

「ゲームとはなんだ?」

「こっちの話。アーク様には関係ないですぅ」

「そうか。なら、失礼する」

「もう! どこ行くですか! 今、行くところはこっちでしょう。アーク様は、実は方向音痴?」

 俺の手を取ろうとするラピノヤ嬢を、やんわりと避ける。

「何度も言うが、俺はラピノヤ嬢に名を呼ぶ許可はしていない」

「照れている! アーク様たら可愛い」

 勘弁してくれ。ここまで話が通じない奴に出会ったことがない。幼児でもわかる事を何故、彼女は通じないんだ!

「照れいるわけではない」

「ふふ、わかっているわ。照れているのがバレたくないのね」

 だから! 何故、そうなるんだ!

 俺、人間と話しているよな?


 ※


 アークトゥルス殿下の事を離れた場所から眺めている人物がいた。その人物は、スピカ・シュミーデル。

「場所は違うけど、楽しそうに話し込んでいるわ。さすが! ヒロインちゃん!! 場所は違っていても攻略には問題ないのね!」

 一人思い違いをしていた。


「ね、こうりゃくって何のこと? スピカ・シュミーデル嬢」

「――ひぃぃぃい!?」

「何のこと?」

「ローラン・ミュレルさま」

「うん。で、こうりゃくは何を意味するの?」

「聞き間違いでは、……ないでしょうか?」

「白を切るんだ? ふーん」

 ローランから溢れ出している得体の知らない何かに恐怖を感じて息を呑む。

「げ、……ゲームの、はなし、……です」

「それは知っている」

(ん? 知っている? なんで?)

 スピカは、ここが昔やっていたゲームに酷似(こくじ)していることを話した。

「昔? いつ?」

「私が生まれる前」

「は?」

 スピカは心の中で悲鳴をあげる。

「……前世の、記憶的な?」

「前世の記憶?」

「はい――」

 理由はわからないけど、ローラン様は深いため息を漏らした。

 何がどうやっているの!?

「頭が逝かれているひとを、アークトゥルス殿下の妃にするつもり?」

「――え……。頭が逝かれている!? ヒロインちゃんが!? え」

 どういう事? ヒロインちゃんがバグ?

「シュミーデル嬢と同じように前世の記憶ってやつ、じゃない?」

「あ――」

 理解した。ヴィーナスちゃんの行動があまりにもヒロインと似て非なる存在の様に感じていた。しっくりとくる。

 私と同じように転生者ならゲームのことを知っているし、だとしたら、ストーリー通りになんで進まなかったのだろう……? その方が確率だったと思う。


「逆ハー狙いらしいけど、知っている?」

「ぎゃく、……逆ハー?! そんなストーリーはなかった気がするけど。私が知らないだけかも。複数と恋愛するのはたとえゲームでも嫌だし」

「ちょっと付き合って」

「え――」

 そして、私は、何かの呪いか知らないけど、攻略対象の彼らと関わることになった。

 断罪されて平民になる夢が――!!

 おそらく、私の運命はこの時から狂い始めていた。


 アークトゥルス殿下が他人(ひと)の心が読めるなんて知らなかった。そんな設定、ゲームにはなかった。そのチートな能力狡くない?

 全て初めから読まれていたことを知ったのは、だいぶ後の話。

 全てが終わった後に知っても意味がない。

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