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『いきもの。』

野菜が好きで良かったと僕は思う。

小さな頃に苦手だったみょうがも今は薬味としても味噌汁としても美味しく食べられる。

誰もが知る野菜は、おおかた食べることができる。



ただ、僕はにんじんのグラッセはちょっと苦手だ。

ステーキやハンバーグに彩りよく添えてある。

野菜だけれど甘い。

砂糖とにんじん本来の甘さが重なる味。

初めて口に入れたとき子供ごころに驚いた。

僕は少し違和感を覚えたのだ。



食の好みは本当に個人的なものだと思う。

合わないものはどうしても合わず、好きなものは理由を説明できなくても好きだ。

僕にとってにんじんのグラッセは苦手だなという気もちと一緒に噛みしめて呑み込むもので、食べられはするのだけれど消化試合のような気怠さがある。



グラッセのにんじんは僕に食べられるとき、ちょっと哀しいかもなと思うけれどそれはやっぱり僕の空想だ。

食べられるとき違和感を覚えられて、逆に嬉しいにんじんもいるかもしれない。

人間に最期、一泡吹かせてやったぜ。

メインディッシュにはならないが、そう言ってのけるグラッセのにんじんは愛嬌があるような気がする。



ちなみにきんぴらごぼうのにんじんは大好きだ。

冷凍食品でもお惣菜でも手作りでも、あまり当たり外れがない。

きんぴらごぼうのにんじんは僕をどう思って僕に食べられるのだろう。



僕は今日も野菜を食べる。

野菜は好きだ。

僕はそうだけれど野菜たちの本音は僕に食べられることはなるべく遠慮したいのかもしれない。

他の動物に食べられたほうが良いかもしれないし、土にかえることが本来の理なのかもしれない。

それでも彼らは文句ひとつ言わないで僕の生命を明日へ一歩繋げてくれる。



せめて好きなものは好きと感じて残すことなく食べたい。

野菜への礼儀を尽くそうと誰にも知られず誓う、僕。

そうだ明日は。

レストランに行こう。

メニューはステーキかハンバーグ。

にんじんのグラッセが僕をため息をついて待っている。

きみが少し苦手な僕はちゃんと違和感を覚える。

そしてきみは僕の生命になる。

軽く笑えないありがとうを、僕はきみに感じる。




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