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本の蟲となんの蟲? 4

 

 

 なんだ、この、なんだ。

 旨い肉のような、咀嚼したい話なのに。神聖な物を邪魔された時のなんとも言えない無力感のような物は。


「繰り返すけど、まだ、出来るかもしれない、ってところよ? 打診はあっちからだったんだけど、貴方抜きで進めるのはおかしいでしょう? 時間はたっぷりあるわ。詰めましょう? 細部まで貴方の後ろの本棚のようにぴっちりとね」


 この、この、呑気に、赤髪を指でくるくるしやがって。

………ん? 


「ちょっと待て、時間って……何時だ」


 言ってて思ったバカっぽい。まぁ良いや。

アニスの輪郭が溶け出したのかと錯覚してしまう程に、この暗闇は月の光が在っても色濃い。


「体内時計で良い? ……多分ここに来て3時間は超えてるわ。ざっと8時30分。……ハァ、それにしても夜でももう、暑いわね。貴方も椅子に座ったらどう?」


 アニスはそう言ってテーブルの縁から左の空き椅子に座り、俺も肘を落ち着けたかったので同じテーブルの右の空き椅子に座った。


「これで腰を据えて話すことができるな」


 そうじゃねーよ。ふざけんな。


「そうね。それにしても鏡合わせってなんか、呪われそうで嫌ね。こんな夜だと。……ちょっと失礼」


 何かが2回弾けた。聴くチャンス、そして封印はまだ4回残っている。

それを想って思った。俺が話を切り上げ、寮に帰るチャンスはどれだけあったのだろうと。


「ハッックショヨン! 失礼……誰かが噂をしているのかしら? ……冗談よ。埃っぽいだけね。それともボタンを外したから? 難儀な物よね。人間って」


 学校の消灯時間はとっくの昔に過ぎている。無論門限も、それすなわち━━━


「寮長に殺される!」


「優しい人よ? あの人」


 不味いよ、不味いよ。だからだよ。本、当にまずい。

あれだけ、


『総大将になったんだって? すごいじゃないか。お前ならアニスちゃんにも勝てるって、私は信じてたよ。これからも頑張んな。また泣かしたら承知しないからね』

って言って貰ってたのに。


 おのれ、部屋に帰ったら覚えてろ。とっとと結論から入れば良い物を、誘惑して惹きつけ、俺の信頼を底冷えさせるなど。これはもう骨が冷えるまで話すっきゃない! けど、その前に一応確認。


「マジな話。門限のあーだこーだは何とかしてくれてるんだろ? もしかして、クロム達が?」


「そうね。貴方の友達の口のうまさと、ファナの気の強さを合わせれば皆んな話を聞いてくれるわ」


 納得はできるが、外泊届けの申請は当日却下、前日OKだった筈だ。それに対抗戦の影響もあって許可が下りるのはかなり厳しくなっている筈。

………俺達みたいなのを増やさないために。

てか、そもそも事件に巻き込まれるのを防ぐために、申請すんのは本人じゃないとダメだったろ。どうすんだろ、本当に。


「……大丈夫よ。ファナ達の力だけならともかく、貴方の名前があるもの。だって上のお気に入りでしょ」


「その話はやめないか? これから話すのは合同稽古の話だろ」


「ふぅん。アレは良くて、ソレはダメなのね。なら、ちゃんとコレの話をしましょうか。お望みのとおり」


 いつものお決まりの表情。それを見て、ムカつくのではなく安心する。俺のアニスが帰ってきたと。


 これはきっと、多分、徹夜コース。絶対に面倒くさくなる。アニスを何度、ギャフンと言わせられるか楽しみだ。


「まず、説明ね。稽古内容は総当たり。これは向こうからの強い要望だったわ。貴方の対戦相手の指定までしてきたんだから。……ま、当然ね。ムカつくけどウチで一番強い剣士様だものね。教本にするには、貴方が一番……とにかく、黒塗りで修正されないことを祈ってるわ」


 え、あ、え、?


「どうしたのその顔。常在戦場。それがビクトリア流(死んだらそれまで)よ? せっかくの機会、全力でやらなきゃ意味がない。貴方も、騎士を目指すなら理解している筈よね?

……本当に大丈夫? なんか覇気がない。悩みでもあるの? ………今回の稽古にそこまで影響はないけど、その、先鋒は決まったの? 決まったのなら、━━━━」


ギャフンフン。もう勘弁してください。


「呆れた。昨日話し合った時も、早く決めろって言ったじゃない。それだけよ? それだけを決めれば、後の諸々はなんとかなる。なんとかなるのよ? 士気も情報戦も、その他、全部。それを決めたら当日まで一直線で走るだけ。貴方と私がいるんだから」


 前が見えねェ。アニスの口振り的に、まだ固まってない物だと思っていたが、違ったようだ。今も俺の手元にあるプロフィール表も、取り引きの一つ。M2ーCに差し出す物らしい。……何やってんだ。俺は本当に。


「……貴方の目標は、対抗戦を制してオルフェリアさんに告るってこただ良いのよね。そんな体たらくで本当に大丈夫なのかしら?」



ありがとうございました。

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