5話 忘れたいこと、残る辛いこと
暗い顔をしてしまった、魈斗は早退した。暗い顔は相手に見せない方が、相手は幸せになる。青春は幸せでいい、知り合いも、友達も、幼なじみも、先生も、幸せでいい
過去のことなんて聞くな
聞かないでくれ
魈斗はいつの間にか眠っていた
~過去~
あれは海音と出会う前、保育園の頃だろうか。一番仲良かった子が居た、いや、仲良くしてくれた子が居た。その子は優しくて、いつも遊んでくれて、話しかけてくれて、お絵描きもずっとしてた
最初に出会った時は、俺が一人ぼっちで遊んでいる時だった
「ねーねー、いっしょにあそぼ~」
「ぼく?いっしょにあそんでもつまらないよ?」
「おもしろいよ!わたし、魈斗くんとあそびたい!」
「うん!あそぼう!えっと………なまえは?」
「未恋っていうの!」
「未恋………さん………」
と言った瞬間、未恋はずっこけた。この子は中々の芸人センスがあるなとこの時思った魈斗、魈斗はこの時からずっと名前はさん付け、話しかけられないコミュ障だった
お父さんやお母さんも学生の頃はコミュ障と話していたが、多分お父さんとお母さんの遺伝だろう。中々話しかけられず、魈斗は一人ぼっちで遊んでいた。その時に出会ったのが、未恋、九波未恋であった
「みれんでいいよ!あそぼ!魈斗くん!」
「うん!あそぼ!」
これが彼女との出会いだった
それからずっと遊び、いつの間にか友達へと昇格していた。それが嬉しかった、唯一友達で居てくれる、本当の友達。嬉しかったんだ、嬉しかったんだよ、友達というのが
嬉しかったんだ、でもある日・・・
ボールで遊んでた、未恋と魈斗は
「それーーっ!」
「たかっ!たかいよ、未恋ちゃん!」
なんとかボールを取り、次は魈斗が蹴った
だがそのボールは運悪く、道路に飛び出てしまった。ボールが道路に行き、それを追いかける未恋
そして横から来るトラック
魈斗は大声で呼んだ
「未恋!!」
ここで初めて、呼び捨てで呼んだ
魈斗は未恋を助けるため、走る。魈斗には走る体力もない、助ける力もない
未恋はトラックに轢かれた
~過去回想終了~
「はっ!はぁ………夢は俺に、なんてもん見せんだよ………」
夢を見ていた魈斗はバッと起き上がった
「忘れなきゃ、忘れなきゃダメなんだ………薬、薬飲まなきゃ……」
一部の記憶を消すためだけに作られた薬、あの事件の後、魈斗はおかしくなり、叫んだり、壁に頭をぶつけたり、ずっと泣いていたり、夜中は暴れたりして、病院に連れてかれ、先生に特別に作ってもらった薬である
この薬を飲むと、一部だけの記憶を消すことが出来る。だが効くのは経った一年だけだ、一年後にはまた思い出しておかしくなってしまう。それだけ酷くなっている、だがら魈斗は幸せになって欲しいと願っている
(俺以外はみんな、幸せでいいんだ。俺は不幸のままでいい)
薬を飲んだ
記憶が消される
「うし、顔洗って学校行くとするかね」
立ち上がると
「うっと、なんだ?」
一瞬ふらっとしたが気にせず
顔を洗い、学校へ向かった
いつも通り授業をしていたのだが、今日は妙におかしいと感じていた。ずっと空間が歪んでいた
(なんだぁ………?ずっとみんなが揺れて………)
授業終わりの昼休み
いつも通りグッタリとしようとするのだが、これもまた妙におかしい、上手くグッタリと出来ない
「魈斗?大丈夫?ずっとボーーっとしてるけど」
(なんだぁ………?彩奈が歪んでて、声もおかしいなぁ………)
「魈斗?おーーい、魈斗~?」
「どうしたの?魈斗君、昨日より凄いグッタリしてるね」
「弥乃さん、分からないよ、ずっとボーーーっとしてる」
ずっとボーーーっとしていて、何も話を聞いていない魈斗は彩奈と海音に心配される。あの夢を見てから、薬を飲んでから、だいぶ様子が変な魈斗であった
そして教室に梨美がやってきた、梨美もこちらにやってくる。そして何も話を聞かず、ずっとボーーーっとしている魈斗はずっと、海音達を見ている。海音達は歪んでいる、頭がずっとフラフラする、朝からずっとフラフラしている
そして魈斗はいきなり立ち上がる
「あ、復活した?」
「先輩?魈斗せーんぱーーい」
そのまま、梨美の方へ倒れる。
「せ、先輩!?」
おでこを触る海音
「凄い熱、保険室に連れて行くよ」
「うん、魈斗、顔真っ赤」
魈斗の視界は暗くなって行って意識を失った、朝から様子はおかしかった、疲れ、とかでは無い、精神、辛さ、寂しさ、後悔、これがごちゃ混ぜになった
あの夢を見てから魈斗は頭がおかしくなりそうだった、忘れれば終わる、そう思ってた、だが現実は甘くない、忘れたい記憶は忘れられない、だから薬を飲んだ、だから飲んで忘れた
でも一つ忘れられないことがあった、ある子の名前
未恋
それだけ、唯一忘れていない
そして目を覚ます
「あ、魈斗先輩!起きました、起きましたよ!」
「良かったぁ………急に倒れるからびっくりしたよ」
「たお………れる………?」
「魈斗は真名城さんの方に倒れたんだよ、今日のお昼休み」
「すまん………な………迷惑かけ………た」
「いえいえ!迷惑なんてとんでもないです!迷惑かけてるのは寧ろ私の方ですから!今日は魈斗先輩のお助けになります!」
優しい後輩であった、恵まれているなと思った。お返しなんてしなくて良かったのに、と思っていたが、これは優しさだろう。今まで頑張ったかいがあったのかもしれない、ここまでずっと頑張ったから、幸が少しある
海音は心配そうに覗いていた、急に倒れるなんて初めてであった。それくらい、精神が限界値に達していたのだろう。たった1つの記憶、未恋という名前にずっと苦しめられていた、分からないのにずっと苦しめられていた
今だって苦しんでいる
この先が怖い、幸と不幸、怖い
手を握ってくれる海音
「大丈夫だよ、魈斗君。今は私達が居るから大丈夫」
「私達、魈斗先輩に助けられてばかりですから、今度は私達が助ける番です、魈斗先輩に何があって苦しんでいるのは分かりません、でもこうやって寄り添うことは出来ますから」
「僕も居るから大丈夫、安心して寝ていいよ」
「ありがとう………」
親が向かいに来るまで、手を握りながら魈斗は眠った。目の前に3人が居るって思うと安心して眠れる、助けらればっかだった海音、梨美、彩奈は魈斗の手を握って安心させていた
そのお陰か、苦しまず、リラックスして寝ることが出来た。魈斗はあの夢を見なかった、海音と梨美と彩奈のお陰かもしれない、魈斗がリラックスして寝れたのはこれが初めてであった。夜、ずっと苦しめられていた、ずっと苦しんでいた。
そんな魈斗は安心して寝ていた
海音side
魈斗が眠ってから一時間が経った
「魈斗先輩がこんなに苦しんでいた理由、海音先輩は知らないんですか?」
「私は何も知らないよ、何も聞かされてない。小学校からの幼馴染なんだけどね、魈斗が暗い顔してるの見た事ない」
「もしかしたら、小学校じゃなくて、保育園や幼稚園の頃かもね」
「そんな前から…………」
すると会話している声がする、魈斗のお母さんが来たのだろうか。お母さんは仕事のため、来れる時間は遅い、帰る時間も遅い、帰る時間が遅いお母さんは中々顔を合わせられない、帰る時間は子供達が寝ている時間だからだ
一緒に飯を食っているのは姉の冴橋雫と妹の冴橋美香であった、この3人でいつも飯を食べている。ご飯に関しては問題無かった、姉がいつも作ってくれたからだ。だがお母さんは理事長だ、理事長は色々と忙しい、妹か姉が来たのだろう
カーテンが開く
「あれ?割とウチの弟はモテモテなのぬ」
「あ、雫さん……!お久しぶりですっ!」
「久しぶりね、海音」
魈斗の姉である、冴橋雫が迎えに来た