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アルチザン  作者: ウヌマ
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傭兵組合2

「何の用だ?」

 カウンターに片肘を乗せたブライアンが僕を見下ろす。

 僕は真っ直ぐにブライアンの顔を見上げた。

「あの、衛兵の人がドレイクさんのお墓を作ってくれたので、それを知らせようと思って……」

「墓だあ? お前、そんなことのためにわざわざ来たのか?」

 僕が頷くと、ブライアンは舌打ちした。頭をばりばりと掻き、ハエでも追い払うように手を振る。

「帰れ」

「で、でも……」

 僕は食い下がった。

「ドレイクさんのお墓に、何か……お供え物をあげたほうがいいんじゃないかと……」

「必要ねえよ」

「でも、ドレイクさんは仲間だったんじゃないですか……?」

 ブライアンが心底面倒くさそうに溜め息を漏らした。

「奴は死んだ。もう仲間じゃねえ」

「でも、それじゃかわいそうだと思うんですけど……」

「奴は俺の言葉に従わなかった。同情する気も起きねえよ」

「じゃあ、どうしてアレクシアさんに突っかかったんですか……?」

 アレクシアさんの名前を出した瞬間、ブライアンの眼つきが変わった。まずい。地雷を踏んだかもしれない。

 いきなり胸倉を掴まれた。

「ごちゃごちゃうるせえな」

 ものすごい力で身体ごと持ち上げられた。首が締まる。息が苦しい。僕は堪らず足をばたつかせた。

「ブライアン」

 受付のおばさんの声。

「ガキ相手にムキになってんじゃないよ」 

 ブライアンの舌打ち。

 床に下ろされ、どんと突き放された。

「二度と来るんじゃねえぞ」

 ブライアンがそう吐き捨てて二階へ戻っていった。

 失敗だ。完全に怒らせてしまった。これ以上ブライアンから話を聞き出すことはできそうにない。

 僕は咳き込みながら、助けてくれたおばさんに頭を下げた。

「ありがとうございます……」

「バカだね、あんたも」

 まあ、頭がいいとは言えないと思う。

「ドレイクのことなんざ、あんたにゃ関係ないだろ」

「で、でも、うちのお店で亡くなったから……このままだと何だか寝覚めが悪くて……せめてお墓にお供え物をして弔ってあげたほうがいいんじゃないかと思って……」

 おばさんが短く息を吐く。

「供え物は何でもいいのかい?」

 あ、流れが変わったかも。このおばさんには話が通じる。

「できればドレイクさんの私物とかあると……」

「ったく、しょうがないねえ」

 おばさんが傭兵たちを見回した。

「ミランダ、ちょっと来な」

 すぐ近くのテーブルにいたリザードボーンのお姉さんが立ち上がり、のしのしとこちらに歩いてきた。

「なに?」

「話は聞こえてたろ。こいつを裏の倉庫に連れってやんな」

「なんでアタシが?」

「確かお前、ドレイクと同郷だったろ」

「同郷なだけだよ。別に親しかったわけじゃない」

「誼ってもんがあんだろ。四の五の言うんじゃないよ」

「はいはい、分かったよ……」

 ミランダが僕を見下ろした。

「ついてきな」

「はい」

 僕は受付のおばさんに深く頭を下げ、ミランダを追った。


 傭兵組合を出て建物をぐるりと回る。

 前を歩くミランダの尻尾がぶらぶらと左右に揺れている。

「あの……」

 僕は恐る恐るミランダの背中に声をかけた。

「ドレイクさんってどんなヒトだったんですか?」

「ああ? 陰気臭くて、つまんない奴だったよ」

 陰気臭い? 『夜の黄昏亭』で見たドレイクは何ていうかイキり散らかしてるカンジだったけど……

「でも、ドレイクさん、騎士に喧嘩売ってましたよ……?」

「ガラにもないことをするからくたばるんだ」

 裏手の路地に入る。

 飾り気のない石造りの建物の前でミランダが立ち止まった。

「そこで待ってな」

 扉の鍵を開けたミランダが建物の中に入っていった。

 僕は建物の壁にもたれかかった。背中がひんやりと冷たい。

 しばらく待っていると、木箱を小脇に抱えたミランダが出てきた。

「ほら、ドレイクの私物だ。これ持ってとっとと帰んな」

 僕は差し出された木箱を両手で受け取った。大きさは縦横高さ30センチくらい。そんなに重くない。蓋がしてあるから中身は分からない。軽く揺するとガタガタと音がした。

「これ、全部もらっていいんですか……?」

「どうせ次の倉庫整理で捨てられるだけだ。引き取り手もいないしな」

「ありがとうございます」

 僕は頭をぺこりと下げた。

 今すぐ木箱の中身を確認したい。でもここで木箱を開けるのは不自然な気がする。自分の部屋に戻るまで我慢したほうがいい。だから早くここから――

「おい」

 踵を返して数歩歩いたところで、ミランダに呼び止められた。

 僕はゆっくりと振り返った。

 少しの沈黙。

「ドレイクの墓はどこだ?」

「……西区の集団墓地です」

「そうか」

 ミランダが小さく息を吐いた。

 僕はもう一度頭を下げ、その場をあとにした。

 傭兵組合の建物から離れる。広い通りに出る。自然と駆け足になる。両腕の中には木箱。

 やった。ドレイクの私物を手に入れた。十分な収穫だ。勇気を出して傭兵組合まで出向いた甲斐があった。

 いや、喜ぶのはまだ早いかもしれない。だけど期待せずにはいられない。ドレイクは本当に転生者だったのか。その手掛かりがこの木箱の中にあることを願わずにはいられない。

 僕は抱えた木箱をガタガタ揺らしながら走った。


 『夜の黄昏亭』に帰ってきた。

 裏庭へ回り、ベンチに木箱を置いた。額の汗を拭う。荷物を抱えて走るのはちょっと疲れた。腕を振れないからフォームも何もあったもんじゃない。

 ひとまず木箱の隣に座って息を整える。

 にゃあ。

 どこからか現れたクロコが木箱に飛び乗った。爪でガリガリと蓋を引っ掻く。

「クロコ、ダメだよ」

 僕はクロコを抱え上げ、木箱の上からどかした。膝に乗せる。

 にゃあん。

 不満そうな泣き声。

 クロコの背中を優しく撫でた。

 機嫌を直してくれたのか、膝の上で丸くなるクロコ。

 僕は汗が引くまでクロコの頭や顎を撫で続けた。

「よし……」

 もう汗も引いたし、息も整った。クロコを膝の上から地面に下ろす。

 ベンチから腰を上げ、勝手口のドアをそっと開ける。耳を澄ますと、店長とエマさんの声が聞こえた。たぶんお店のキッチンで仕込みをしている。僕は木箱を持ち上げ、バックヤードに入った。クロコも一緒に入ってきた。ドアをそっと閉めた。

 二階へ上がる。自分の部屋に入る。クロコも入ってきた。ドアを閉める。

 床に腰を下ろし、木箱を置いた。クロコが木箱を爪で引っ掻こうとする。

「ダメだって」

 クロコを脇へどける。

 僕は木箱の蓋に手をかけ、一瞬手を止めた。

 この中に何が入ってたらいい? 例えば手帳とか? そこに日記でも書かれていれば言うことなしだ。でも、そんなに都合よくいくだろうか。ドレイクが日記をつけるようなヒトに見えた? 控えめに言って見えなかった。だけどヒトは見かけによらない。僕はあのヒトのことを何も知らない。だからもしかしたら……

 僕はゆっくりと木箱の蓋を開けた。


次回『黒桟の港1』


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