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古鎖の監獄船1

 暗く広い船室。

 起床を知らせる鐘が鳴る。

 身体を起こす。足枷の鎖が軋む。

 周りの男たちも次々と起き上がる。この部屋だけで50人。

 薄い布団を畳む。足で壁際に押しやる。

 囚人服のポケットから錆びた釘を取り出す。壁に短い線を刻む。

 今日で32本目。

 扉の閂を外す音。

 扉が開く。

 バカでかいオークの看守が入った来た。

「点呼の時間だ。甲板に出ろ」

 囚人たちがぞろぞろと部屋を出る。

 俺も続く。

 他の部屋からも囚人たちが出てくる。

 約200人の囚人が甲板に出る。

 曇天と潮風。

 点呼が始まった。

「179番!」

 俺の囚人番号。顔を上げる。看守の顔を見る。

 点呼が終わった。

 船が揺れる。

 船内の食堂に向かう。

 硬いパンと温い豆のスープを胃袋に押し込む。

 船が停まった。

 甲板に出る。看守に身体検査を受ける。

 船を降りる。

 造船所の前に整列する。約150人。

 今日の作業内容が伝えられる。

 ひたすら積荷や木材を運ぶ。

 周囲には衛兵の監視の眼。

 午前の作業終了。 

 昼食にパンと干し肉とチーズが配られた。

 造船所の地面に座る。手早く食う。どれも硬くて不味い。

 休憩。午後の作業指示を待つ。

 オークの大男が造船所に入ってきた。

 何度か見たことがある。港の労働組合を仕切っている連中の一人。

 次いで二人の若いドワーフが入ってきた。初めて見る顔。

 書類の束をめくりながら会話する3人。

 俺は周囲を見渡した。

 手持無沙汰な囚人たち。揃いも揃ってヒネた面。

 仏頂面の衛兵たち。隙がない。

 ドワーフの2人が書類の束をめくりながら囚人たちを指差す。

 オークの大男が何度か首を横に振る。何度か縦に振る。

 ドワーフの片方が書類の束をオークに返す。

 オークの大男が囚人たちの中央に進み出る。

「今から番号を呼ばれた囚人は前に出ろ」

 5つの番号が呼ばれた。

 179番も呼ばれた。 

 俺は前に出た。足枷の鎖が軋む。

 オークの大男が5人を見回す。

 番号と名前と罪状をひとりずつ確認していく。

 最後に俺を見下ろすオークの大男。

「179番」

「ああ」

「名前は?」

「ヒース」

「罪状は窃盗か」

「らしいな」

 オークの大男が鼻を鳴らす。背後のドワーフ2人を振り返る。

「どうだ、使えそうか?」

 ドワーフの2人が頷く。

 オークの大男がごきりと首を鳴らす。

「よし、5人は俺たちと来い」

 オークの大男とドワーフ2人が踵を返す。

 俺たち5人も歩き出す。

 造船所の事務所に入る。

 窓際にデスクが2つ。中央に小さな丸テーブルが1つ。その周りに椅子が10脚。

 オークの大男がデスクの隣に立つ。

 ドワーフ2人が椅子に座る。

「座れ」

 オークの指示。

 各々が椅子に座った。

 事務所の扉が開く。

 看守長のリカルドが入ってきた。閉めた扉の前に立つ。腕を組む。

 オークの大男が説明を始める。

「3日後、造船所の拡張工事を始める。そこで囚人の作業班を5つに分ける。お前ら5人はそれぞれのリーダーになってもらう」

 囚人のひとりが手を挙げる。ドワーフに向かって顎をしゃくる。

「そいつらは?」

「施工主だ。工事は彼らの指示に従って進めてもらう」

 ドワーフのひとりが立ち上がる。低い身長。屈強な肉体。まるで岩石の塊。

「スレイだ。こっちはクイン。よろしく頼む」

 誰も返事をしない。

 スレイが顎髭を撫でる。

「今のうちに言っておく。仕事中に舐めた態度はとるなよ」

「へえ、どうなるんだ?」

 囚人のひとりが返す。

 スレイが小さく笑った。

「うちの親方は手加減を知らねえんだよ」

 舌打ちする囚人。

 看守長が組んでいた腕を解く。

「働き次第で刑期の短縮を考えてやらんでもない」

「そいつはありがてえな」

 囚人のひとりが嗤う。

 看守長が扉を開ける。

「明日からはお前たちも打ち合わせに参加してもらう。作業に戻れ」

 囚人たちが立ち上がる。事務所を出ていく。

 俺もあとに続く。足枷の鎖が軋む。

 看守長がついてくる。

 作業所に戻った。

 看守長が衛兵に一声かける。造船所を出ていく。

「ヒース」

 顔見知りの囚人――ニコラが近づいてきた。

「何だったんだ?」

「造船所の拡張工事をするらしい」

「それで?」

「作業班を5つに分けるらしい」

「へえ、それで5人……ってことは、お前もリーダーをやるのか?」

 無言で肩をすくめる。

 ニコラが俺の肩を叩く。

「楽な作業班に振り分けてくれよ」

「俺が決めることじゃない」

「さっきのドワーフか?」

「ああ」

 ニコラが頭を掻く。

「看守どもの小遣い稼ぎかよ。やってらんねえな」

 ニコラが離れる。

 俺は事務所のほうに眼を向けた。

 窓の向こうにオークの大男とドワーフ2人の顔が見える。囚人たちの作業を観察している。

 施工主のドワーフたちは、まともな連中だ。

 もっと言うなら、いい奴らだ。

 都合がいい。

 まともな連中は利用しやすい。

 いい奴らには隙がある。

 脱獄のチャンスだ。


次回『古鎖の監獄船2』


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