第95話 スパルタレベリング配信!?②
「――と、いうワケで! 早速この集敵手榴弾の性能を試していこうと思いまぁ~すっ!!」
○コメント○
『いや高ランクダンジョンで使うなと言う警告は?』
『警告ガン無視してて草』
『即落ち二コマかよwww』
『もう自殺志願者としか思えんw』
『いつも通りです』
『平常運転なんだよなぁ』
『アタオカは仕様です』
…………
雪化粧された林の中で、右手に持った雪玉――ではなくソフトボール大の金属球である集敵手榴弾を頭上に高々と掲げる瑠奈に、コメント欄はツッコミの嵐。
しかし、瑠奈は気にした様子もなく、金色の瞳を好奇心の光にキラキラと輝かせて金属球のスイッチと思しき突起を見詰める。
そして、迷うことなく――――
「えいっ!」
カチッ……!
スイッチを押すと、金属球に赤い光が点灯する。
同時に電子音が一定間隔で加速しながら鳴り始める。
ピッ……ピッ……ピッ、ピッ、ピッ、ピピピピピピピィ――――
「いっけぇえええええ!!」
瑠奈は見事なオーバースローで金属球を投擲。
大きな角度をつけ高い放物線を描いて飛んでいった金属球がその最高点に到達。
推定地上二十メートル。
音もなく降り注ぐ粉雪の中、鉛直方向の運動量がゼロとなり自由落下に入る寸前の完全制止した金属球がダンジョン内の陽光をキラリと反射し――――
バァン――!!
炸裂。
金属球は弾け、中から微細な赤い粒子が煙となって噴き出した。
現在ダンジョン内はほぼ無風。
モンスターを挑発、興奮させる薬剤は特定の方向に飛ぶことはなく、辺り一帯に満遍なく散布される。
爆発から十秒、二十秒――三十秒をカウントする前に、瑠奈を取り巻く空気感が変わった。
静けさの中にも自然の雑音があったダンジョン。
それが完全な静寂と変貌し、ただならぬ緊張感と殺気に満ち溢れる。
「……あはっ。良いね良いねぇ……この肌を焦がすような空気感……!」
EADの特殊空間からスルッ、と取り出した深紅の大鎌をゆったりと構えながら、どうしようもなく沸き上がる高揚感に口角を吊り上げる瑠奈。
ドキッ、ドキッ、ドキッ――と、高鳴る鼓動。
心臓が全身に送り出すのは血液と激情。
金色の瞳に宿るのは生気と殺気の燈火。
タタッ、タタッ、タタッ!!
背後から駆け寄る軽快な足音。
迫り寄る殺気。
「ガルルルゥ!!」
Cランクモンスター【フリージング・ウルフ】――全身を雪景色に同化させるような白い体毛で覆った狼が、獰猛な咢を開け広げ、鋭利な爪を煌めかせる。
そして、次の瞬間には鮮やかな赤が純白の世界に花を咲かせた。
ブシャァアアアッ!!
配信画面いっぱいに広がる鮮血。
その中に映るのは――――
「あっははっ!!」
振り返りざまに大鎌を振り払った瑠奈と、胴体から真っ二つに両断された狼の末路。
咲き誇る血花を開戦の狼煙とでもするように、辺りの林の物陰に潜んでいた他の【フリージング・ウルフ】らも青白い瞳を爛々と輝かせて飛び掛かってくる。
左手から来る二体を横薙ぎ一閃。
横目に血飛沫を映しながら、頭上に飛び上がっていた狼の爪を体捌きで躱すと後ろ手に回した大鎌でノールックカット。
次に正面から迫る三体。
最初に飛びついてきた狼を大鎌で縦割りにすると、地面に切っ先が刺さった大鎌の柄を軸にして回り込み、後続の狼の頭蓋を蹴りで粉砕。
三体目を引き抜いた大鎌で斬り殺す。
「あはっ、あはっ、あっはははははッ!!」
○コメント○
『次から次へと……』
『えっぐ……』
『いや怖すぎる!!』
『セルフモンスタートレインw』
『ガチガチのパーティー組んでてもこの大群は無理』
『何で笑ってられるんだルーナ』
『ヤバすぎwww』
『どっちがモンスターかわからねぇw』
『モンスターがモンスターを斬り殺してる……』
…………
驚愕と戦慄とドン引きのコメントが押し寄せているが、目の前の戦いに没頭している瑠奈には届かない。
前後左右から絶え間なく襲い掛かる狼の群れ。
その中心で踊るドレスと縦横無尽に迸る大鎌の斬撃。
鳴り響くのは狂気に満ちた笑い声と断末魔。
斬って。斬って。斬って。
斬って、斬って、斬って。
斬って斬って斬って斬って――――
「「グウゥゥウウウウウッ!!」」
もう何十体の【フリージング・ウルフ】を黒い塵へと帰したかわからなくなった頃、残りの狼の群れを蹴散らして突進してくる新手の何か。
ずっしりと重量感のある巨体。
雪煙をふんだんに巻き上げて猛進するのは、Bランクモンスター【グレイシア・グリズリー】――直立すれば三メートルを超える凶暴な熊型モンスターだ。
それが、二体。
「あはっ、悪くないっ……!!」
瑠奈は自身を中心とした同心円状に大鎌の斬撃を走らせ、周囲の狼をまとめて薙ぎ払ってから、腰を低く構える。
「グゥウウウアアアアアッ!!」
先に瑠奈の眼前に迫った【グレイシア・グリズリー】。
突進の勢いを殺さずに一度後ろ二本足で立ち上がると、右腕を大きく振り上げる。
身体の至る所から氷柱が生えており、手の先端に煌めく爪も岩石すらも余裕で砕く鋭い氷で出来ているようだ。
瑠奈は大きく見開いた瞳でその振り上げられた腕と爪を見据え――――
「はあぁっ!!」
振り下ろされる寸前で、大熊の右腕を斬り飛ばした。
ブシャッ!! と吹き出す血液。
その赤い雨が瑠奈の身体を濡らすより先に、連続で繰り出された二連撃が胴体に交差する二本の切り傷を刻み込んだ。
「グゥッ……!?」
「いやぁ、肉厚だねぇ~」
この一連で身体を斬り飛ばせるかと思ったが、流石の巨体と筋肉の塊で殺し切ることは出来なかった。
その隙に側面へ回り込んでいたもう一体の大熊が突進を仕掛けてくるので、瑠奈は大鎌を両手に携えたまま、軽やかなバク宙で回避する。
一定の間合いが確保出来たところで、大鎌の柄尻から魔力で練り上げられた鎖を引き出し、視界に納めた二体の大熊の巨体を束ねるようにして縛り上げる。
「手間は掛けない。長くは苦しませない。それが狩猟者の粋ってもんだよねぇ~!!」
大鎌を身体に引き付けるようにして構えた瑠奈。
シュバッ!! と深紅の焔が湾曲した刀身に宿るその熱量で、足元に積もった雪が瞬く間に蒸発する。
「《バーニング・オブ・リコリス》ッ!!」
勢いよく地面を蹴り出し、辺りの雪を消し飛ばしながら一ヶ所にまとめた二体の大熊に肉薄する。
「あははっ!!」
ズシャッ!!
シュバァァアアアアアンッ!!
深紅の斬撃が水平に迸る。
刹那、爆炎が二つの巨体を丸々飲み込み、巻き上がる大量の水蒸気の中で跡形もなく消し去った。
「まだまだこんなもんじゃないよねぇ!? Aランクダンジョンはさぁ~!!」




