第94話 スパルタレベリング配信!?①
○コメント○
『ルーナちゃんおめでとう!!』
『おめでとう!』
『おめ~!』
『Aランク昇格おめでとうございます!』
『流石ルーナたん!』
『遂にAランクかぁ~!!』
『早すぎて草』
『Aランクおめでとうっ!!』
…………
「あはは、みんなお祝いありがとう~!」
Aランク探索者昇格試験翌日。
今期のAランク探索者昇格試験合格者は既にギルドから発表されており、そうでなくとも探索者同士の情報のやり取りによって、試験終了直後には大半の探索者にその結果が知れ渡っている。
それでも、瑠奈はやはり自分の口からなるべく早くファンに結果を報告したいと思い、一日休暇すら取ることもせず早速LIVE配信を始めていた。
場所は、深々と舞い落ちる雪が一帯を白銀に染め上げる林がどこまでも広がるAランクダンジョン。
そんな雪化粧の中、瑠奈は一輪の彼岸花が咲いているかのように赤を基調としたドレスを風になびかせて佇んでいる。
○コメント○
『今日はレベリング配信?』
『相変わらず高ランクダンジョンをソロでw』
『命惜しくないんかwww』
『でも何でレベリング?』
『Aランクになったばかりでレベリングするん?』
『Aランク記念配信じゃなくて?』
『もう充分じゃないんですか?』
…………
「あぁ~、えっとぉ……」
LIVE配信のコメント欄に流れる指摘に、瑠奈は曖昧な笑みを浮かべた。
(一ヶ月後に受けるSランク探索者認定試験に向けて……とは流石に言えないよねぇ……)
瑠奈がギルドに要注意人物として取り上げられ、今後監視対象下に置かれないためにSランク探索者として認められる必要がある――というのは、機密のため口が裂けても配信で言えるような内容ではない。
瑠奈は一考したのち、明るく笑って答えた。
「ま、Aランクになったからって私の最強の可愛いへの道が終わるわけじゃないからねっ!」
それに――、と瑠奈はEADの特殊空間へと手を伸ばす。
「実は良いもの手に入れてさ~」
瑠奈が取り出したのは、片手に収まる大きさの金属球。
スイッチのような突起が一つついている。
「じゃ~ん。集敵手榴弾ぉ~!」
恐らくこの世界では通用しない、前世における日本の国民的アニメに登場する某未来のタヌキ――ではなく猫型ロボットの物真似をしながら、撮影用ドローンに向けて右手に握った金属球を突き出す。
「実は少し前にモデルの撮影があったときにアリサちゃんから貰ってね~?」
瑠奈はそのときのことを思い出しながら語った――――
………………。
…………。
……。
「お疲れ様、瑠奈ちゃん」
「アリサちゃん! お疲れ~!」
Cランクダンジョン内でモンスターとの戦闘の様子を撮影し終えたあと、一息吐いていた瑠奈のもとにウェーブの掛かった金色の長髪を揺らすアリサがやって来た。
手頃な岩の上に腰を下ろしていた瑠奈の隣に座る。
「今日は順調に撮影が進んだわ。やっぱりダンジョン内での撮影は瑠奈ちゃんがいると安心ね~」
ここはCランクダンジョン。
Cランク探索者でもあるアリサだけでは戦力不足なので、他に二名のCランク探索者と一名のBランク探索者が護衛として同行している。
とはいえ、実際に危機的状況から直接助け出された経験に加え、去年のクリスマスには一緒にダンジョン探索をしたこともあり、瑠奈の実力に対する信頼は絶対的に厚い。
「あはっ、もしイレギュラーなモンスターが出てきても任せてよ! というかむしろ出てきてよっ!」
「そ、それは御免ですわ……」
一度イレギュラーでBランクモンスターに襲われたアリサとしては、冗談でも――瑠奈に冗談を言ったつもりがあるかどうかは不明だが――そんな状況には出くわしたくなかった。
「あ、でもさ――」
瑠奈はふと疑問を思い浮かべた。
「今日は運良く手頃なモンスターが沢山出てきたけどさ、日によっては全然出逢わないこともあるじゃん?」
ダンジョンで撮影をする際、やはり目的はモンスターとの戦闘――正確には、戦闘している自分を魅せることが重要だ。
そのためには一体の強力なモンスターよりも、ある程度余裕をもって戦闘出来る複数のモンスターが必要になってくる。
しかし、撮影日に必ずしもそんな都合の良い状況が訪れるとは限らないし、撮影時間は無限ではなく、最高のシチュエーションに巡り合うまでダンジョン内を延々と探索し続けることは出来ない。
だからこそ、瑠奈の疑問は当然のモノだった。
「そういうときの撮影ってどうするの?」
「あぁ~」
「別日に変更する、とか?」
「確かにその場合もあるわ。でも――」
アリサはEADの特殊空間から見慣れない金属球を取り出して、瑠奈に見せた。
「――これを使えば解決よ」
「それは……えっと、爆弾?」
「爆弾は爆弾でも、これはパパの会社で試作中の集敵手榴弾よ」
アリサの説明によると、集敵手榴弾は中にモンスターを興奮させる薬剤粉末が封入されており、それを爆風に乗せて周囲一帯に散布する仕組みらしい。
「ほえぇ……それを使えば、モンスターの方から寄ってくる……」
瑠奈が呆然とアリサの手にある金属球を見詰める。
「…………」
「…………」
「瑠奈、ちゃん……?」
「…………」
「えっと……」
「…………」
「いくつか、譲ろうか……?」
「えっ、ホント!?」
興味深そうにキラキラ輝く金色の瞳に応えたアリサの言葉に、瑠奈はパァッと表情を赤くるした。
「あ、でも結構な集敵能力があるから、くれぐれも高ランクダンジョンでは使わないでね?」
アリサの忠告に、瑠奈は終始ニコニコしていた――――




