表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/107

第92話 大鎌と双槍の決着!

「参りますッ!!」

「あははっ、行くよッ!!」


 フィールドを蹴り出したのは同時。

 両者共に床反発から得られる推進力をグンと背に受けて、フィールドの中央で衝突する。


「あはっ!!」

「はぁっ!!」


 ガイィイイイイインッ!!


 縦一閃に振り下ろされた瑠奈の大鎌と、前方で交差するように突き出された赤と青の二本の長槍が甲高い金属音と激しい火花を散らす。


「はぁぁあああああッ!!」


 叫ぶのは颯天。

 残された僅かな時間で体力の出し惜しみはしないとばかりに、渾身の力で槍を振り払い、瑠奈の大鎌を弾き返す。


「おっと……!?」


 金色の目を大きく開き、弾かれた大鎌に連れられて上体を逸らせる瑠奈。


 決して大きく体勢を崩したわけではない。

 しかし、颯天の切れ長の瞳はその一瞬の隙を好機と見て、キラリと輝いた。


「これが忠義の炎――燃えよッ!!」


 ボッ……!!


 颯天の右手に携えられている赤い長槍が火を纏う。

 赤く燃える切っ先は瑠奈の身体へ真っ直ぐ向けられており――――


「はぁあああああッ!!」

「――ッ!?」


 本能的な判断で咄嗟に大鎌を身体の前に持ってくる瑠奈。

 半瞬後には、颯天の赤い槍から高速の乱れ突きが繰り出されていた。


 ズガガガガガッ――とまるでマシンガンの乱射を喰らっているかのような激しい衝突音を響かせながら、瑠奈は大鎌を盾にしていなす。


 しかし、その燃える切っ先は防御姿勢の間隙を縫って、瑠奈の腕や肩口、横腹、太腿などに決定打にならないまでも確実な切り傷を刻んだ。


 乱れ突きが止む。

 大雨が通り過ぎたかのようなその一瞬。


 瑠奈は反撃に転じようと腰を低く構えるが――――


(いやっ、まだ……!!)


「轟け敬愛の雷鳴――《ブリューナク》ッ!!」

「くっ……!?」


 バチィ!! と左手に握られた青い長槍が、青白い電光を迸らせる。


 刹那、目にも留まらぬ速度と鋭さで突き出される一撃。

 それはまさしく大雨に伴う一筋の稲光。


 先程の乱れ突きとは違う。

 この一突きの重さはBランクモンスターをも一撃で穿ち貫くもの。


 瑠奈はまたもや大鎌を身体の前に構えて防御姿勢を取るが、大鎌から腕を通して身体へ伝わる衝撃は凄まじく、その小柄で華奢な身体は地を少し浮いて大きく後ろへ吹っ飛んだ。


 半瞬遅れて、スガァアアアンッ!! という雷鳴が轟く。


 瑠奈はそんな轟音を聞きながら、宙で身を捻って大鎌の切っ先をフィールドに突き立てる。


 ザザザァ――と数メートル程フィールドを刻みながらも、身体に加わった運動量にブレーキをかけて着地する。


「はぁ、はぁ、はぁ……!!」

「お疲れのご様子ですね、ルーナ様。では――」


 バッ、と肩で呼吸をしていた瑠奈のすぐ目の前に、颯天が駆けてきていた。


 吹っ飛ばしてもすぐに距離を詰め、攻撃と攻撃の間を最小限にして休む暇を与えない――自分に残された時間内で確実に瑠奈を仕留めるための最善の戦略だ。


「――恐れながらこの私が寝かしつけて差し上げましょう!」


 身体の前に交差させるようにして双槍を構える颯天。


 距離を詰めるための疾走をも助走として勢いに変換し、赤い火が灯る右手の長槍と青白い電光が弾ける左手の長槍を――――


「フッ!!」


 ビュンッ! と空気を切り裂く音。

 前方に繰り出されるはXの字の斬撃。


 瑠奈の身体は――そのエーテル体は四分割にされて、その場に崩れ落ちる。


 と、颯天はもちろん、試験官から観戦する他受験者ら皆々がそう思った。


 しかし…………


「……あっはは!」

「……っ、これは……!?」


 シュボァァアアアッ!!


 瑠奈の背中から噴き上がった黒炎から二翼一対の黒翼――《エンジェルフォール・ザ・ウィング》が姿を現し、振るわれようとしていた颯天の双槍を受け止めていた。


「私、一人じゃないと熟睡できないんだよねぇ。だからさ――」


 そんな瑠奈の言葉と共に、全身からブワァアアアッ!! と赤いオーラが吹き荒れた。


 爆発的に昇華される身体能力。

 黒翼を大きくはためかせ、受け止めていた双槍を弾き返す。


 驚愕に目を見開く颯天の胴体に繰り出すのは、その場で小回りを利かせた後ろ回し蹴り。


「――寝るのは取り敢えず君を消してからにするね、あはっ!」


 ズガッ! と強化された瑠奈の後ろ回し蹴りが颯天の腹部を穿つ。


「がはっ……!!」


 ビュゥン、と大きく後ろに吹っ飛ぶ颯天。


 瑠奈はギラッ、と金色の瞳を得物を狩る猛禽類の如く、獰猛かつ鋭利に輝かせて、黒翼で宙を蹴り出す。


 フィールドの上に赤い軌跡を描きながら、真っ直ぐ颯天目掛けて飛んでいく。


「流石は、ルーナ様っ……!!」


 パキパキッ……とエーテル体に更に深く亀裂が入りながらも、靴底をフィールドに滑らせながら着地して体制を立て直した颯天。


 エーテル体が完全に砕け散るまで、あと十秒もないかもしれない。


 それでも、迫り来る瑠奈を真っ直ぐ視界に捉え、カウンターを狙って双槍を構えた。


「あはっ! 《バーニング・オブ・――」


 瑠奈は超速で飛んできているとはいえ直線的な動き。

 速度最優先の最短距離を辿った軌道。


 カウンターは、難しくない。


 火を灯す右手の長槍を左から右へ横薙ぎ一閃。

 瑠奈はその斬撃の軌道から僅かに身体をふわりと浮かせるようにして回避。


 だが、一撃目が躱されるのは颯天も想定済み。

 双槍の二段構えをもって、青い電撃迸る左手の長槍を浮き上がった瑠奈に鋭く突き出す。


「ふおぁぁあああああああああああッ!!」

「――リコリス》」


 それはまるで戦闘機の木の葉落とし。

 一度浮き上がった身体の浮力を抜き去るようにしてひらりと落ちながら、颯天の二段目の突きを躱した。


 背後へ回り込み様に、湾曲した大鎌の刃を逆さまに颯天の背中に突き刺し、その切っ先を胸のド真ん中から貫通させる。


 刹那、シュバッ!! と迸った深紅の焔が、大鎌の刃を通して颯天の全身を駆け巡り、轟音と共に爆炎を巻き起こす。


 颯天のエーテル体は跡形もなく爆散。


 そのタイミングで、愕然として口を半開きにしていた試験官が我に返り、手を掲げる。


「そ、そこまでっ! 勝者、早乙女瑠奈探索者です!!」


 この数秒間、呼吸すら忘れて観戦していた他受験者らがどよめいた。


 瑠奈は「ふぅ……」と激戦を終えて一息吐いてから、大鎌を持っていない方の左手をギュッと握り締めて視線を落とした。


(よしっ、これで手に入れたよ……最強(Sランク)への切符をっ!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 想定を遥かに超えて強かったですなぁ颯天さん。ちょっと性格というか気質がアレなのに目を瞑れば…今後の探索時に頭数が必要な際に、安心して召集かけられる人ですね実力的に。 それでは今…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ