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第90話 双槍の騎士との遭遇

 瑠奈、第二試合――――


 相手は両手にナイフを携えた壮年の男性探索者。

 険しい表情を浮かべて瑠奈を鋭く睨んでいる。


「俺はさっきの男みたいに油断はしない。早乙女瑠奈、貴様の武勇は充分に理解しているからな」


 だが――と、腰を低く落とし、身体の前で両手のナイフを交差させた。


「勝つのは俺だ。貴様は俺の双牙に掛かって――死ねッ!」


 ザシュゥゥウウウッ!!


「……あははっ!」


 さも血糊を払うかのように、男性の背後で大鎌をヒュッと一振りした瑠奈。


「私も負けられないから、ゴメンねっ!」

「んなはっ……!?」


 肩口から対角の腰までバッサリ斬られた男性が、その場に膝をついた。



 瑠奈、第三試合――――


 ――シュパァン!! パァン!

パァンッ!!  ――ヒュゥン!!

    パパァンッ――!!

 ヒュパァン!  パァアアアンッ――!!


 空気を嬲るように小気味よく響くのは、放たれしなる鞭の音。


「フフッ、上手く大鎌が触れないようね? お嬢ちゃん?」


 遠間から卓越した鞭捌きを見せる妙齢の女性。


 大人の色香でも言うべきか、纏う装束はボディーラインを露わにするもので、その豊満な胸や締まったウエスト、そこから更に描かれる腰の曲線も存分に映えている。


 飛んでくる鞭の先端に防戦一方になっている瑠奈に向けられる微笑みまで、どこか蠱惑的。


「貴女、どうもお転婆なようだから、私が躾けてあげるわ~」


 うねって襲い掛かってくる鞭を、瑠奈は大鎌を振るって弾こうとするが、鞭は大鎌を起点にして回り込んでくる。


 まさに、柔よく剛を制す――何でも切り裂き、打ち砕く瑠奈の大鎌も、女性が振るう鞭に翻弄されてしまっている。


 しかし、瑠奈はジッと油断のない視線を女性に真っ直ぐ向けたまま、冷静に鞭を捌いていく。


「あらあら、だんまりかしら?」

「…………」

「フフッ、それも良いわ。じゃ、そろそろ終わりにするわね?」


 女性がグニャンッ! と大きく鞭をうねらせて、軌道の予測出来ない動きで瑠奈の大鎌に鞭を固く巻き付けた。


「はい、無力化完了――」

「――あはっ、これを待ってた!」

「えっ?」


 瑠奈は鞭の巻き付いてもう振るうことの出来ない大鎌の刃を、ズサッ! と足元に深々と突き刺した。


 そして、呆気なく手を離す。


「武器が使えなくなったのは、お互い様だねっ!」

「う、そ……!?」


 戦闘中に武器を手放すなんていう奇想天外な手段を取った瑠奈に、女性が目を剥く。


「あはっ!!」


 その隙に、瑠奈は武器を手放していつも以上に身軽になった身体で疾走する。


「ちょ、まっ――!?」


 女性はグングン迫ってくる瑠奈に驚愕しながらも、咄嗟に仕えなくなった鞭を放り捨て、手を後ろ腰に回してサブウェポンである短剣を抜き取った。


 動揺しながらも最前の対処が出来るのは、流石Aランク昇格試験の最後まで残った探索者。


 短剣の扱いにも、それ専門の探索者とまではいかないまでもそれなりに精通しているようで、身体を半身にして構えるが――――


 ヒュン!!


 振るった短剣は瑠奈の残像を切り裂く。

 その実像は今女性の頭上を飛んでいた。


 この模擬専用フィールド上では死ぬことはない。

 だからこそ、勝つために人を殺す手段が厭わず取れる。


 スッ、と空中で瑠奈の双腕が伸ばされる。

 細くて白い手が、女性の顎先と頭頂部に触れた。


 そして――――


「はい、終わりね」


 ゴキャッ……!!


 女性の視界はグルンと反時計回りに九十度ほど回転してからブラックアウトした――――



◇◆◇



 瑠奈は二、三度厳しい戦いを強いられながらも、六勝〇敗の好成績で最後の第七試合目を迎えた。


 相手は瑠奈より少し年上かと思われる青年。

 長身痩躯で、サラリと流れる涼し気な髪。

 瑠奈を見詰めて爽やかな笑みを浮かべるそのイケメンは、瑠奈と同じくここまで全勝で辿り着いた実力者。


 戦績的にもうAランク探索者昇格が確定している精鋭だ。


 両手にそれぞれ携えるのは、長槍。

 右手に赤い槍、左手に青い槍だ。


「ルーナ様」

「え、ルーナ様……?」


 フィールドに向かい合った状態で、突然話し掛けられた。

 それ自体は別に構わないのだが、謎の敬称に流石の瑠奈も戸惑う。


「不肖ながらこの二宮(にのみや)颯天(はやて)。ルーナ様がこの下界に降り立たれなさった頃より、ファンもとい一番の騎士になれるよう励んで参りました」

「え……え……?」


 困惑する瑠奈に構わず、イケメン青年――颯天はいちいち自分に酔ったような、それでいて無性に涼し気で気品のある所作で語る。


「初めてお目に掛ったとき、胸を打たれました……本来であれば騎士として真っ先に馳せ参じるべきところ、その頃まだまだ(わたくし)自身未熟者であったがゆえ、ルーナ様に相応しい騎士になるまでお待たせすることになり、申し訳ございませんでした……!」


 クッ……、とそれはもう本当に苦しそうに、身に纏う鎧の胸当ての上でギュッと拳を握り込んだ。


「ですがっ、今こうして貴女様の御前に! あぁっ……何と言う幸福! 何と言う運命のお導き!」

「い、いや……えっと、総当たり戦だから、そりゃね……?」


 どうやら瑠奈の正論など聞こえていないらしく、颯天は自分の世界観で語っている。


「私、これまで励んで参りました。すべてはルーナ様の一番の騎士としてお傍に仕えさせていただきたく思うがゆえ!」

「ま、マジですか……」

「そこで一つ、畏れ多くもこの場にてルーナ様にお願いしたき儀がございます!」


 颯天の頭の中はともかくとして、どうやら自分のファンであることは間違いないらしい。


 ファンを大切にする瑠奈は、一応「な、何かな……?」と動揺を隠せないながらも、願い事を聞いてみることにした。


 すると、颯天はその場にサッ、と片膝をついて首を垂れた。


「はっ! この機会に是非ルーナ様ご自身の目を持って私の実力を確かめていただき、もし私がこの試合に勝利することが出来たなら、今後貴女様のお傍に仕えさせていただくことをお許し願いたく!」


 何か凄いこと言い出してる奴がいるぞ、と既に試合が終わった受験者達の注目も集まり、外野が騒めき出す。


「って、あの人……」

「ホントだ! Aランク予備軍とも呼ばれてた……」

「【イケメンの無駄遣い】んじゃなくて【双槍(そうそう)】の颯天じゃん!」


 多くの視線が集まる中、瑠奈は戸惑いがちに確認する。


「えっと、つまり付き合ってってこと?」

「いえっ、滅相もない! 私はルーナ様の従順な臣下。従僕にございますゆえ」


 余計ヤバい奴だな、と瑠奈は微苦笑を浮かべながら、困ったように頬を指で掻く。


 だが、見ればわかる。

 瑠奈の瞳には、しっかりと颯天が本当に()()()()であることが映っていた。


(この人……本当にBランク? Aランクモンスターでも相手に出来そうだけど……)


 颯天の全身から放たれる覇気は、瑠奈の肌をチリチリと焦がす。


 瑠奈の胸の奥がざわついている。

 これは、ある意味トキメキとも呼べるかもしれない。


 強者と相対したときの、興奮。

 良き好敵手との遭遇(であい)


 自然と、瑠奈の口角は持ち上がっていた。


「一つ、聞いても良い?」

「はっ、何なりと」

「君は……ワタシに勝てるの?」

「…………」


 颯天が膝をついたまま顔を持ち上げた。

 切れ長で涼し気な……それでいて何かしらの信念を感じさせる光を灯した瞳で真っ直ぐ瑠奈を見詰める。


 そして、ほんの数秒ののち――――


「……お望みとあらば」

「…………」


 スイィ……と瑠奈の笑みが深まる。

 金色の瞳に獰猛で鋭利な眼光が宿った。


「あはっ……!」

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