表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/107

第89話 第三次試験での快進撃②

「だって、可愛いの化身であるこのワタシに直々に斬り飛ばされるなんて貴重な経験、見逃しちゃったら大変でしょ? あはっ!」


 そんな瑠奈の言葉に、男性は愉快そうに口角を持ち上げた。


「はっ、面白い! ではお手並み拝見と行こうか!」

「あっはは!」


 正方形フィールドの両端に立って対峙する二人。

 両者の準備が出来たことを確認した試験官のギルド職員が、右手を頭上に掲げる。


「それでは、これより第一試合を始めます。両者構えて――」


 瑠奈が腰を低く落とし、大鎌を両手に持つ。

 男性はガン、と両腕のナックルを叩き合わせてから、半身に構えた。


 そして――――


「――始めっ!!」


 試験官がバッ! と勢いよく手を振り下ろすと同時、男性が吠えた。


「おぉぉおおお!! スキル《爆裂拳》ッ!!」


 ジュバッ!! と猛々しい炎が男性の両腕を包む。

 熱量の塊である赤い光が、男性の顔を下から不気味に照らし出した。


「この試験は連戦! 悪いが最小限の労力で、早々に終わらせてもらう!!」


 ダッ、と両手に炎を燃やして突進してくる男性。


「Bランクモンスターを三連撃で沈める俺の《爆裂拳》の味を疾くと味わうがいいッ!!」


 男性が更に加速し、残りの瑠奈との彼我の距離を一気に縮めてきた。


 ジリジリと肌に感じる熱。

 轟々と唸る炎の雄叫び。

 そして、気迫に満ちた男性の突進。


 それらを前に、瑠奈は――――


「三連撃ねぇ~」


 フッ――と瑠奈の姿が霞んで消えた。

 いや、身体の輪郭が捉えられない超速で跳んだのだ。


 気付けば瑠奈は、今にも拳を突き出そうとしていた男性の頭上から逆さまに見下ろしており――――


「ワタシは一撃だけど」

「なあっ……!?」


 いつの間にっ、と目を剥く男性に、瑠奈はニヤリと笑い獰猛な眼光を灯した金色の瞳を向ける。


 シュバッ!! と大鎌の湾曲した刃に深紅の焔が宿る。


 それはまさしく死神の鎌。

 命を取り合わないこの模擬戦においても、紛れもなく戦いに終止符を刻む刃。


「《バーニング・オブ・リコリス》」


 ビュンッ!!

 縦一閃に振り下ろされた大鎌。


 男性の頭の先から真っ直ぐに深紅の斬撃の軌跡が描かれ、瑠奈がその場から飛び退いた瞬間に、彼岸花を彷彿とさせる爆炎が迸った。


「ぐあぁぁあああああッ!?」


 男性の身体に置き換わっていたエーテル体は爆散し、元の肉体へと戻される。


 模擬戦でなければ確実に命を刈り取られていた一撃だった。


「そこまでっ!! 勝者、早乙女瑠奈探索者!!」


 バッ、とキレ良く手を挙げた試験官が模擬戦の決着を宣言する。


 瑠奈は大鎌をEADの特殊空間にスッと仕舞いながら、ピンと人差し指を立てて微笑んだ。


「よしっ、まずは一勝!」


 そんな瑠奈の勝負を見ていた他の受験者達が騒めく。


「お、おい決着早すぎだろ……!?」

「見たか? 一撃だったぞ……」

「うっそだろ!?」

「違うグループで良かったぁ……」

「実物初めて見たけど、マジでヤベェな……!」


 そんな戦慄と驚嘆の視線を全身に浴びながら、瑠奈は一旦フィールドから離れていく。


 残す試合は四回。

 目指すは全勝。

 いや、目指すのではなく全勝以外にあり得ない。


 瑠奈にとってこのAランク昇格試験の合格は前提条件に過ぎない。


 理不尽ながらも自分がギルドの監視下に置かれないようにするには、この試験を突破したうえでSランク探索者認定試験なるものに挑まなければならないのだから。


 ここで敗北を喫してしまうようであれば、到底Sランク探索者になどなれるはずもない。


(……でも、大丈夫。ちゃんと戦えてる。やっぱ凪沙さんに稽古つけてもらったお陰かな!)


 瑠奈の脳裏で、第二次試験から今日までの五日間の記憶が思い返されていた――――



 あるときは――――


『瑠奈。次の試験は対人戦……そのうえ、連戦しないといけない。だから、省エネな戦い方をしないといけない』


 向坂家の敷地内にある修練場。

 袴姿の凪沙が、同じく道着を着込んだ瑠奈に相対している。


『瑠奈のポテンシャルは高い……でも、非効率。勝利に必要な分の力を正しく見極めて……()()()()()必要がある』


 そう語った凪沙は「さぁ」と言って、竹刀の切っ先をピッと瑠奈に向けた。


『EADは使えないけど、戦い方は生身で充分学べる……瑠奈、遠慮なく、掛かってきて』



 また、あるときは――――


『はぁっ!! やぁあああ!!』


 ビュンッ!! ブゥン!!

 瑠奈が必死に竹刀を振るうが、凪沙はそれを身体捌きでいなしていく。


『力任せ。動きが大きい』


 パシッ、パシィン――と、凪沙は指摘しながら洗練された無駄のない太刀筋で、瑠奈の身体に二度軽く竹刀を当てる。


『うぅ……難しいですよぉ、凪沙さん……』

『難しいから、やるんだよ……ウチも、そうして強くなった』


 ほら、と凪沙が竹刀を振り上げた。


 相変わらず感情の起伏と表情の変化が乏しくてイマイチ何を考えているのか読めないが、どこか楽しげなのは気のせいだろうか。


『打ってこないなら、ウチからいくよ……』

『ちょ、ちょちょタンマ……!?』

『それが瑠奈が発した最期の言葉であった……』


 パシィンッ!!



 ――といった具合で、五日間。


 瑠奈は凪沙に鍛えられたお陰で、持ちうるポテンシャルとセンスだけにモノを言わせた戦い方を少しずつ制御出来るようになっていったのだ。


 相手はモンスターじゃない。

 知恵の回る人間。


 単純な戦闘能力はともかく、戦術や駆け引き、積み上げてきた経験などを含めた厄介さで言えば、それこそAランクモンスターにも勝るだろう。


 瑠奈が本能のままに暴れまわる戦闘スタイルを取れば、それはまさしくダンジョンにおけるモンスターと遜色なくなり、探索者にこの試験で狩られるのは瑠奈の方になってしまいかねない。


 しかし、持て余すポテンシャルを制御できるようになれば、それこそ敵なし。


 まさしくSランクの道を歩む旅人の資格を手に入れるだろう――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 まさに血の滲むような鍛練を5日間みっちりやらされたんですね(笑) でも苦労のぶん結果はついて来てるみたいですから…成果はかなり期待出来そう? それでは今日はこの辺りで失礼致しま…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ