第88話 第三次試験での快進撃①
五日という時間は瞬く間に過ぎ去り、Aランク探索者昇格試験第二次試験を突破した十三名の探索者は今、最後の関門――第三次試験を目前にしていた。
集められたのは、ダンジョン・フロート中央に高く聳えるギルド本部の四階――正方形の小規模決闘フィールドがいくつも設置されたフロア。
並ぶ十三名の受験者達の前に、ギルド職員らが立つ。
その内の一人が皆に聞こえるように張った声で言った。
「これより、Aランク探索者昇格試験第三次試験の説明を始めます――」
受験者達は静かに耳を傾けていた。
第三次試験は受験者同士の模擬戦闘。
受験者十三名を前衛職八名、後衛職五名の二つのグループに分けて総当たり戦を行い、それぞれのグループでの戦績上位三名が合格となる。
なお、同率戦績が存在する場合、その受験者同士で追加模擬戦闘を行い各順位を確定させるため、最終的な合格者が各グループにおいて三名であることに変わりはない。
例)A、B、C、D、E五人グループでの総当たり戦。
【戦績】
A:三勝一敗(一位)
B:二勝二敗(二位)
C:二勝二敗(二位)
D:二勝二敗(二位)
E:一勝三敗(三位)
上記の場合、Aは戦績一位で合格確定。
Eは不合格確定。
B~Cで追加模擬戦闘を行い、二位と三位の合格者を決定する。
「――さて、説明は以上となります」
何かご不明な点はございますでしょうか? とギルド職員が見渡すが、受験者は全員ルールを理解したようで、これと言って声は上がらない。
それを確認したギルド職員が頷いた。
「では、これよりAランク探索者昇格試験第三次試験を開始します。発表されたグループ分けに従って集まってください」
職員の指示の通りに、受験者達がザッと動き始める。
その一角で、並んで立っていた瑠奈と鈴音が顔を見合わせた。
「私は後衛職のグループですから向こうです。瑠奈先輩も、頑張ってください!」
鈴音が瑠奈の手を両手で包むようにして持って言う。
瑠奈はそれに応えるように、もう一方の手を更に上からポンと乗せた。
「もちろん! 鈴音ちゃんも勝ってね!」
「はい!」
互いに互いの笑みを確認したあと、瑠奈と鈴音は別れ、それぞれの模擬戦闘が行われるフィールドの方へ移動を始めた――――
◇◆◇
瑠奈が振り分けられた前衛職グループは、男性五人と女性三人で、若い容姿の探索者も見受けられるが、瑠奈がグループ内で最年少であることは間違いない。
そんな面々を見渡しながら、瑠奈は頭の中で改めてこの試験のルールを考えていた。
(えぇっと、総当たり戦で上位三位以内に入れば合格なんだよね? ということは最低二勝二敗すれば良いけど……まぁ、取り敢えず全勝すれば確実に合格ってことだよねっ!)
取り敢えず全勝――などと、この中には恐らく何年もAランク探索者昇格試験を受けて、合格が掴み取れずにBランク探索者をやっている者もいるだろう。
そんな中で『取り敢えず全勝』などと口が裂けても到底言えないことを、瑠奈は心の中で平然とのたまっていた。
「それでは、試合を始めます。まずは――」
早乙女瑠奈Bランク探索者、と名前を呼ばれ、瑠奈はニヤリと口角を吊り上げる。
フィールドは縦横三十メートルの正方形。
探索者の身体はエーテル体に変換され、どんな怪我をしても命を落とす心配はない。
フィールドの場所こそ違えど、前にこの決闘用フィールドに足を踏み入れたのは凪沙と模擬戦をしたとき以来。
瑠奈は若干の懐かしさを覚えながら、フィールドの端に立った。
対峙するのは、一人目の相手。
男性で、歳は四十かそれより少し上。
まだまだ衰えを感じさせない鍛え上げられた肉体で、得物は両腕を丸々覆うような鎧の役割も兼ねたナックル。
「【迷宮の悪魔】。ここまで来たということは、やはり有名なだけの探索者というワケではなかったようだなぁ」
ガンッ、と両拳を突き合わせた男性が、瑠奈と反対側のフィールドの端からそう声を掛けてくる。
「だが、悪いがここまでだ。俺はかれこれ五年間この第三次試験まで来ては惜しくも合格を掴み取れずにいたが、それでも積み上げた五年という経験がある。まだまだひよっ子には――」
そんな男性の語り口を遮るように、瑠奈はEADの特殊空間から取り出した大鎌の柄をカンッ! とフィールドの床に突いた。
「はいはい、オジサンお静かに。ちゃんと集中して、よぉく目の前のワタシという相手を見ておいた方が良いよ~?」
怪訝に眉を顰める男性に、瑠奈は巧みに大鎌を回転させて肩に乗せるようにして構えてから言った。
「だって、可愛いの化身であるこのワタシに直々に斬り飛ばされるなんて貴重な経験、見逃しちゃったら大変でしょ? あはっ!」
Aランク探索者昇格試験第三次試験。
瑠奈の快進撃が、始まる――――




