第87話 Aランクへの道、最後の関門
◇ステータス情報◇
【早乙女瑠奈】Lv.70(↑Lv.5)
・探索者ランク:B
・保有経験値 :0
(レベルアップまであと、7000)
・魔力容量 :880(↑30)
《スキル》
○《バーニング・オブ・リコリス》(固有)
・消費魔力量:250
・威力 :準二級
・対単数攻撃用スキル。攻撃時に深紅の焔を伴い、攻撃箇所を起点として炎が迸り爆発。噴き上がる炎の様子は彼岸花に似ている。
○《狂花爛漫》(固有)
・消費魔力量:毎秒10
・威力 :二級
・自己強化スキル。発動時全身に赤いオーラを纏い、身体能力・肉体強度・動体視力などの本来持ちうる能力を大幅に強化する。強化量探索者レベル+10相当。
○《エンジェルフォール・ザ・ウィング》(固有)
・消費魔力量:毎秒10
・威力 :特級
・自己強化スキル。発動時背中に二翼一対の黒翼を展開し、飛行を可能にする。
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Aランク探索者昇格試験、第二次試験。
受験者二十七名。
合格者十三名。
第一次試験に引き続き、第二次試験も受験者のおよそ半数が脱落する結果に終わり、合格者達はAランク探索者昇格試験最後の関門である五日後の第三次試験に向けて準備していた。
第三次試験の内容は、第二次試験が終了したあと合格者に知らされており、例年通り対人戦闘能力の測定――受験者同士による模擬戦闘。
当たり前だが、第三次試験を受験するのは、第一次と第二次試験に篩い落とされることなく突破した強者達。
ダンジョン・フロート全体で見ても、既に上澄みの実力者だろう。
第二次試験に引き続き、第三次試験も厳しい戦いを強いられることは容易に想像出来る。
ある受験者は第三次試験開始までの五日間で装備を新調し、またある受験者は装備のメンテナンス。
他にも対人用に小回りの利くサブウェポンを購入する者や、少しでもレベル上げ――運良く新スキルの発現を願って、ダンジョン探索をする者もいた。
そんな中、第二次試験で本来戦う必要のないAランクモンスター【ドライアド】を討伐した瑠奈と鈴音はというと…………
「鈴音ちゃん、明日はダンジョン行って良い?」
「駄目です」
「じゃ、じゃあ明後日!」
「駄目で~す」
「仕方ない……じゃあ明々後日に――」
「――だからダメだって言ってるじゃないですかぁ~!!」
向坂家、縁側。
並んで座る瑠奈と鈴音が、微かに秋の気配が感じられる立派な日本庭園を眺めながら、温かいお茶と和菓子を堪能していた。
だが、繰り広げられる会話は風情のあるものではなく、やはりと言うべきかどこか血の気が多い内容だった。
「第一、瑠奈先輩の大鎌はお爺ちゃんがメンテ中で、まだ使えないじゃないですか」
鈴音は呆れたように肩をすくませる。
「大鎌を見たお爺ちゃん、呆れを通り越して笑ってましたよ? 『なんて乱暴な使い方してやがるんだ』って。素材がヒヒイロカネでなければとっくに十回は折れてるそうですから」
瑠奈自身自覚はあったのか、ギクリ、と身体を震わせてから、気まずい表情で和菓子を頬張る。
「良いですか、瑠奈先輩? 確かに【ドライアド】を討伐した大量の経験値でレベルアップして身体的なダメージは完全に回復しましたけど、精神的なストレスはそうはいきません。しっかり休息しないと、精神障害になっちゃったりするんですからね?」
探索者が引退する要因は、主に加齢による身体機能の低下や怪我だ。
しかし、それと同じくらい精神障害という要因が挙げられる。
むしろ精神障害は調子よくダンジョン探索し、順調に探索者としての実績を積み上げていっている者に多い。
だから、ダンジョン・フロートでは名の知れた探索者が突如精神障害でダンジョンに足を踏み入れられなくなって引退せざるを得なくなったと言いう話は珍しくないのだ。
「うっ、それは困るね……」
「だから、瑠奈先輩もしっかり休息です」
「はぁい」
ズズッ、と湯呑を口許で傾けてお茶をすする瑠奈。
そんな様子を見て、鈴音は柔らかく微笑んだ。
「でもまぁ……瑠奈先輩も、もちろん私もですが、第三次試験までには身体を動かしておきたいので、助っ人をお願いしています」
「助っ人?」
「はい。第三次試験は慣れない対人戦闘。そこで、お姉ちゃんにちょっと指導してもらえるよう頼んでおいたんです」
おぉ、と瑠奈が瞳を輝かせる。
「明日から時間を取ってくれるらしくて、第三次試験まで四日間の間に対人戦闘について教えてくれるそうです」
「対人戦闘かぁ……」
瑠奈は呆然と縁側から空を見上げた。
思い起こされるのは、やはり瑠奈が高校二年生になってすぐにギルドから依頼された『闇闘技場調査』の一件。
その最後に交戦し、あまりの実力差に敗北を喫した元Sランク探索者【剛腕】のジャスカー。
やはり、対人戦はモンスターを相手取るのとはワケが違った。
「でも、何でAランク探索者昇格試験で対人戦闘能力なんて測るんだろう……?」
瑠奈がそう首を傾げると、鈴音がお茶を口に含んでから答えた。
「それは、Aランク探索者になれば、犯罪者化した探索者を捕縛するギルドの任務に加えられる機会が増えるからですね」
「あぁ、それこそワタシが『闇闘技場』の調査をしたときみたいなやつ?」
ですです、と鈴音が頷く。
「Bランク探索者の瑠奈先輩があんな任務に就いたのは異例ですが、Aランクになればこのダンジョン・フロートに蔓延る闇に触れる機会も増えるはずです」
もちろん事件に大きいも小さいもない。
しかし、規模という点においては、一般人が起こす事件と探索者が起こす事件ではその度合いが桁違いだ。
一般人が建物一つに放火する。
引火して隣接する二、三軒も火事になるかもしれない。
だが、それは消防が対処出来る範囲に収まる。
しかし、探索者――Bランク相当の実力を持っていれば、そこらの一軒家を倒壊させるなんて十秒あれば充分。
もし探索者崩れの犯罪者グループともなれば、住宅街一つを丸々破壊し尽くすのも容易い。
だから、探索者には探索者でしか対抗出来ない。
ダンジョン・フロートの治安を守るために、高ランクの探索者はダンジョンの外においてもその力を発揮する義務があるのだ。
「はぁ、考えるだけで気が沈みますよね。私達がこうしている間にも、この街のどこかではきっと少なくない数の犯罪者化した探索者が蠢いているんですから」
「あははっ、大丈夫だよ。鈴音ちゃん」
瑠奈が「よいしょっ」とその場で身軽に立ち上がった。
「モンスターも犯罪者も関係なく、ワタシの眼前に群がるなら一掃する。そうすれば、多少なりともワタシや鈴音ちゃんが住むこのダンジョン・フロートも綺麗になるでしょ?」
ニッ、と笑う瑠奈。
鈴音はそんな瑠奈の姿を惚けたように見上げて、フッと口許を綻ばせた。
「もう、瑠奈先輩は一体何を目指してるんですか?」
「え? もちろん最強の可愛いだよっ!」
瑠奈が拳を握り込んで言った。
「ほら、悪と戦う美少女戦士や魔法少女ってカッコ可愛いでしょ? つまり……そういうことだよっ!」
「えぇっと……なるほど……?」
鈴音は理解しようとして……やはり理解出来なくて……取り敢えず納得だけしておいた。




