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第85話 理不尽な怒りは木の精に……?

「さんっざん期待させておいて……!」

(瑠奈先輩が勝手に期待してただけじゃ……)

「長い道のりを歩いてきたのに……!」

(【ドライアド】には関係ないけど……)

「絶対に許さないからっ……!!」

(何を……!?)


 キッ、と金色の瞳を細めて、対峙する【ドライアド】を睨みつける瑠奈と、その隣で流石に理不尽だと【ドライアド】に同情せずにはいられない鈴音。


「行くよ、鈴音ちゃんっ!!」

「あ、はいっ……!!」


 瑠奈の呼び掛けに、鈴音は意識を完全に目の前の戦闘へと向ける。


 確かに瑠奈の怒りは理不尽極まりないが、理由は何であれ、ドライアドの住処に保存されている木の実の中から『トレイポロニアの実』を持ち帰らなくてはいけない以上、ここを押し通る他ない。


 鈴音は覚悟を決めて、長杖を器用にその場でクルクルと回転させると、柄の先端をカンッ、と足元に突いた。


「出番ですよ、守護天使――《クリスタル・ヴァルキリーズ》!!」


 魔力の光が迸り、周囲の地面を霜が覆う。

 ビュゥウウウ、とただならぬ冷気が鈴音の左右に集い、瞬く間に()()()()()()によく似た氷の彫像を形成していった。


 鈴音の右手に、長剣を携えたヴァルキリー。

 反対の左手に、ナイフを両手に構えたヴァルキリー。


 それぞれに決して少なくない量の魔力を配分しており、単騎でBランクモンスター相当の戦闘能力を保有している。


「準備完了です、瑠奈先輩。私のことは構わず、思いっ切り暴れちゃってくださいっ!!」


 自分のことは二体のヴァルキリーが守ってくれる。

 前衛としての負担を減らせば、瑠奈はより自由に戦える――と判断した鈴音が、握り拳を作って言う。


 しかし、瑠奈は…………


「あはは、暴れるなんて物騒なこと言わないでよぉ~」

「……え?」

「ん?」


 何とも言い難い沈黙が、両者の間を通り抜ける。

 二体のヴァルキリーが、よくわからなそうに顔を見合わせて首を傾げていた。


「……あ、えぇっと! とにかく、パパッと倒して早くこの試験を突破しましょうってことですっ!」


 鈴音は曖昧な笑みを浮かべながら、咄嗟に別の言葉に言い換えた。


「ああ、そういうこと。うんっ、一緒に突破しようねっ!」


 瑠奈は鈴音に笑顔を返してから、正面を向く。


 硬質の蔓が寄り集まって出来たような二メートル強の人型は、神秘的でいながらもどこか不気味で、ただならぬ雰囲気を纏っていた。


「相手にとって文句はあるけど不足はナシ! はあっ!!」


 グッ、と腰を落とした瑠奈が、地面を強く蹴り出して勢いよく飛び出した。


「キュルルルルゥ!!」


 それを見た【ドライアド】が、怪しげな鳴き声を上げながら、向かってくる瑠奈に手をかざす。


 すると、足元の地面から先端の尖った蔓が無数に突き出してきて、それらが一斉に瑠奈に襲い掛かる。


「あっははっ!!」


 大鎌を振り上げる瑠奈。

 シュバッ、と深紅の焔が刃に灯る。


「《バーニング・オブ・リコリス》ッ!!」


 迫ってくる蔓を、正面から一閃。

 岩程度なら容易に砕くであろう硬い蔓を、ものともしない。


 加えて、切り口から噴き上がった炎が、瞬く間に蔓を伝って迸った。


「キュルゥッ……!?」


 危険を察知した【ドライアド】がその場から大きく飛び下がった刹那、蔓を辿ってきた炎が先程まで【ドライアド】が立っていた場所を爆散させる。


「逃がしませんっ!! 《アイシクル・レイン》ッ!!」


 攻撃の機会を窺っていた鈴音は【ドライアド】が飛び上がった隙を見逃さなかった。


 幾本もの鋭利な氷柱が、正確無比に【ドライアド】へ射出される。


 空中では対処できないかに思われた【ドライアド】だったが、両手の形状を鉤爪のように変形させ、向かってくる氷柱を斬り裂いていく。


 とはいえ、数が数だ。

 ほとんどの氷柱を弾いたのは、流石Aランクモンスターと呼ぶに相応しい技術だが、防ぎ切れなかった氷柱が身体の端々を裂いた。


「キュルゥゥ……!!」


 着地した【ドライアド】が目と思しき顔面に灯った二つの黄色い光で鈴音を睨む。


 すると、先程と同様に地面から蔓を伸ばして鈴音を強襲するが、傍に控えていた二体のヴァルキリーが蔓を断ち切り、鈴音を守った。


「あはっ、ワタシのこと忘れてない?」


 その隙に【ドライアド】の隣に肉薄していた瑠奈。


 振り絞った大鎌を横一文字に薙ぎ払おうと試みる、が――――


「キュルゥゥウウウウウッ!!」

「なっ……!?」


 声高らかに【ドライアド】が叫んだ瞬間、瑠奈の足元の地面が盛り上がり、そこから大量の蔓が湧き出てきた。


 蔓は寄り集まり、編まれるように巨大な人の手のような形を作り出し、瑠奈の身体を握り込んだ。


「ぐうぅっ……!?」

「キュルゥ……」


 必死に抜け出そうとするも、巨大な蔓の手は瑠奈の身体を万力のように締め付けていき、瑠奈の表情が歪む。


「瑠奈先輩っ!!」


 鈴音の悲鳴に呼応するかのように、ヴァルキリーが助けに入ろうと駆け出すが、そうはさせまいと【ドライアド】が行く手に硬い蔓を生み出して阻む。


 メキィ……と瑠奈は自分の身体が軋んでいるのを感じる。

 肋骨が折れるまでもう間もないだろう。

 そのあとは四肢の骨が砕かれる。


(っ、仕方ない……!!)


 ブワァアアア!! と瑠奈の全身から【狂花爛漫】の鮮烈な赤色のオーラが噴出し、身体能力と肉体強度が飛躍的に向上した。


 その上で――――


「爆ぜろっ……!!」


 大鎌に深紅の焔を灯して、自分を握り潰さんとする巨大な手に突き立てる。


 迸った炎は瑠奈もろともを包み込み、そのまま爆発した。


 巨大な手が砕け散る。

 焼け焦げた蔓の欠片が、周囲に散らばる。


 そんな残骸の一つとなって、瑠奈も宙に放物線を描いて飛ばされるが、地面に落ちる寸前で猫のように身を捻ってしっかりと足から着地した。


 腕や脚には無数の切り傷と火傷。

 額からは血が伝い、煤なんて至る所についている。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 瑠奈は目に垂れてきそうだった血を、腕で拭う。


 そして、笑った。


「……あはっ、あははっ……!!」


 口許は狂気的な弧を描き、金色の瞳には爛々と殺意の眼光が灯っていた。


「こうでなくっちゃ、面白くないよねぇ~!?」


 そう叫ぶ瑠奈の様子を見て、鈴音は心配しているのと同じくらいの割合で、「コレはスイッチ入ったな……」ともう手の付けられない現実を嘆いていた――――

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