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第78話 怒れる天才魔法師!

「っ!? 鈴音ちゃんっ!!」

「えっ……?」


 ブシャッ……!!


 それは突然のことだった。

 Bランクモンスター【アイアンスケイル・グレータースネーク】討伐を喜ぶ暇もない。


 一件落着したので、鈴音が瑠奈の方へ駆け寄ろうとしたら、いきなり瑠奈に飛びつかれた。


「きゃっ……!?」


 瑠奈に抱き締められた――そんな嬉しさに胸を高鳴らせる余裕はない。


 押し倒され、傾く視界。

 力強い抱擁。

 ふわっと香るのは、若干汗ばんで湿った甘い匂い。


 そして、頭の中を真っ白にしながら鈴音が見たのは、瑠奈の背から飛び散る鮮血。


 ドサッ……!!

 鈴音は背から地面に倒れ仰向けになり、瑠奈がその上から覆い被さる。


「痛ったたぁ……鈴音ちゃん、大丈夫?」

「わ、私は大丈夫ですけど瑠奈先輩が……!!」


 突然の奇襲。

 いつ追撃が掛かってくるかもわからないため、瑠奈と鈴音はすぐに立ち上がって体勢を立て直す。


「あはは、これくらいなんとも――」

「瑠奈先輩っ!」


 ぐらっ、と瑠奈の身体がよろめいた。

 大鎌の柄を杖代わりにし、その場に膝をつく。


「あ、あれ……? おかしいな……身体が言うこと聞かないや。視界も回って……」


 四肢が千切れても腹に穴が開いてもピンピンしている姿を想像出来る瑠奈が、背に切り傷を負った程度で戦闘不能になるとは思えない。


 となると、傷が直接的な原因というよりは――――


「瑠奈先輩、毒です! 治癒ポーションを飲んでしばらく安静にしていてください!」


 鈴音がそう言って瑠奈を傍の木の幹にもたれ掛けさせる。


「で、でも鈴音ちゃん……」

「大丈夫です」


 鈴音は瑠奈の心配そうな声を遮った。


 そして、すぐに立ち上がり視線を向ける先は、奇襲を仕掛けてきた相手。


 一言で表せばトカゲのバケモノ。

 どこかワニに似た顔を持ち、大きく開く口には鋭利な牙がズラリと並ぶ。発達した二本の後ろ脚で立ち、手のように進化した前脚には長く湾曲した爪が生えている。


 Bランクモンスター【アサシンズ・ラプトル】だ。


「瑠奈先輩は、そこで見ていてください」


 鈴音はそう言って、長杖を片手に前に出る。

 そして、言葉は通じないと理解していながらも口を開いた。


「なるほど、そういうことですか」


 奇襲までの流れを振り返り、鈴音は事の真相に辿り着く。


「最初に見付けた鹿型モンスター。アレはてっきり大蛇が追い掛けてきた獲物かと思いましたが、よく考えれば見付けたときには既に傷だらけでした。もし大蛇が鹿を襲っていたなら、傷なんてつける間もなく丸呑みするはずです」


 つまり――と鈴音の視線が鋭くなる。


「貴方()だったんですね」


 鈴音の指摘に答えるかのように、見詰めていた【アサシンズ・ラプトル】の傍に三体、物陰から更に【アサシンズ・ラプトル】が姿を見せる。


 計四体。


「海老で鯛を釣るように、貴方達は傷を負わせた鹿を放し、血の匂いに引き寄せられたより大きなモンスターを集団で奇襲して狩るつもりだった。そこに私達が居合わせたため作戦変更し、大蛇と私達で戦って勝った方を襲った」


 返事はない。

 あるのは【アサシンズ・ラプトル】の低い唸り声のみ。


「まぁ、本来毒を持ちえない貴方達がどうして瑠奈先輩に毒を与えることが出来たのかは……どうせこのダンジョンに自生している有毒植物の成分を爪にでも擦りつけたんでしょうが……」


 推理はここまで、という風に鈴音がカンッ、と長杖の柄頭を地面に打ち付ける。


 その瞬間、鈴音の背後に殺気。

 何かが草陰から飛び出してきた。

 五体目の【アサシンズ・ラプトル】だ。


 全部で四体と思わせておいて、まだあと一体潜んでいたのだ。


 しかし――――


 ズシャッ!!


 今まさに鈴音に飛び掛かろうとした【アサシンズ・ラプトル】は、前に伸び出たその顎を、地面から突き出した氷柱に刺された。


 下顎から上顎まで貫通しており、その場に縫い留められた【アサシンズ・ラプトル】はじたばたする。


「タダで済むと思うなよっ……!?」


 ズシャ!

 ズザザザザザッ!!


 鈴音が一瞥もくれることなく、背後に縫い付けていた【アサシンズ・ラプトル】を更に氷柱によって串刺しにし、息の根を刈り取った。


 ぐしゃぐしゃになった死体は瞬く間に黒い塵と化し、一応この試験の必要素材である魔石をあとに残す。


 しかし、今の鈴音の興味はそこにはないらしく、スッと細められた紺色の瞳に冷徹な光が宿る。


「ほら、まとめて掛かって来い。ここが貴方達の死地だ」

「「「「ギシャァアアアアアッ!!」」」」


 四体の【アサシンズ・ラプトル】が一斉に駆け出した。

 正面に一体、左右にそれぞれ一体。

 残りの一体はその少し後ろから迫り、戦況に応じて動くつもりか。


 だが、この状況誰が見ても鈴音のピンチ。


 スキル主体で戦う【魔法師】がどうしても避けたい厄介なことがある。

 それは、距離を詰められることと、多勢に無勢。


 ゆえに、魔法師は必ずパーティーで行動し、最低でも前衛を二人か三人は用意したいのだ。


 だが、今ここではその悪条件が揃ってしまっているうえに、瑠奈は毒で動けない。


 前衛のいない【魔法師】が、近接戦を好む複数のモンスターと単騎で渡り合う。


 不可能だ。

 そう、普通の【魔法師】であれば――――


「出番ですよ、私の守護天使――《クリスタル・ヴァルキリーズ》ッ!!」


 鈴音が頭上で器用に長杖を二、三度回転させたから思い切り柄頭を地面に叩きつけた。


 刹那、周囲に光が迸り、辺り一帯の地面を霜が覆う。

 とてつもない冷気が鈴音の前に二ヶ所集まり、瞬く間に氷の彫像を作り上げていく。


 ふわっとした質感のミディアムの髪。

 楚々と整った愛嬌に満ちた顔。

 纏うはドレス。


 手に構えるものがそれぞれ長剣とナイフで得物こそ異なるが、召喚された――いや、創り出されたその氷の彫像はまさしく、


「あ、あれ……? なんかワタシに似てない……?」

「気のせいですよ?」

「そ、そうかな? でも顔も身体つきもこのドレスだって……」

「ふふっ、気のせいですっ!」


 鈴音は、あくまで瑠奈ではないと言い張った。

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