第73話 難関!第二の試練!
Aランク探索者昇格試験の第一次試験から三日。
その合否結果が、ギルドから各受験者に送られていた。
放課後、瑠奈は鈴音と共に最寄りのファミレスに立ち寄り、店内一角のソファー席で自分達の合否を確かめるためにスマホを取り出す。
ギルドから届いたメール。
開封すると“合否結果は下記サイトからご確認ください”という文章と共にURLが貼られていた。
二人はテーブル越しに視線を交わし、一度頷き合ってからメールのリンクをタップ。
カラン……と、テーブルの上に置いたドリンクバーの炭酸飲料が入ったグラスに浮かぶ氷が転がる音と共に、瑠奈の瞳に映った結果は――――
「あっ……あぁ…………!!」
へにょり、とテーブルに力なく突っ伏す瑠奈。
その反応に、正面で見ていた鈴音は戸惑いながら尋ねる。
「る、瑠奈先輩っ!? その反応は……ど、どっちですか……?」
「……よ…………」
「よ……?」
「良かったよぉ……!」
「紛らわしいっ!!」
瑠奈のスマホに映し出された画面には“第一次試験通過”の文字。
鈴音につきっきりで面倒を見てもらったお陰で、一定水準のダンジョンの知識を身に付けた瑠奈だが、正直なところ確実に一次試験を突破出来るという確信が得られるほど問題を解き切ることは出来なかった。
自己採点では、七割は解けてるんじゃないかという感じだったのだ。
だから、こうして第一次試験を突破することが出来て、喜びよりも安堵が大きく勝ったのだ。
「いやぁ……本当に良かった良かった。で、鈴音ちゃんはどうだったっ!?」
「もちろん、通過しました!」
ふふん、と鈴音が可愛らしく胸を張りながら、自身の第一次試験通過を知らせるメールが映し出されたスマホの画面を見せてきた。
瑠奈も鈴音も共に第一次試験通過。
テーブル越しにハイタッチを交わして笑い合う。
合否結果のメールには受験者数五十三名中、通過者二十七名と書かれているので、第一次試験の段階でほぼ半数に絞られたことになる。
その結果に、瑠奈は改めてAランク探索者昇格試験の厳しさを実感した。
(一次の段階で受験者が半分か……あと二回の試験で、一体どれだけの人が残れるんだろう……?)
「瑠奈先輩、どうしました?」
「いやぁ~、あはは……流石はAランク探索者昇格試験。なかなかハードだなぁ~って思ってね」
瑠奈が曖昧に笑ってそう言うと、鈴音は一度キョトンとしてからどこか試すように微笑んだ。
「怖じ気づきましたか?」
そんな問いに、今度は瑠奈が目を丸くした。
そして、すぐに口の両端を吊り上げる。
「あはっ、まっさか~! 試練は困難であればあるほど燃えるってもんだよっ!」
「ですよね。瑠奈先輩ならそう言うと思いました」
そうと決まれば次の二次試験についてです、と鈴音が話題を先へ進める。
「この一次通過者に送られてきたメールによると、やはり二次試験は高度なダンジョン探索能力が求められるようです」
やはり恒例なのか、試験一ヶ月前に鈴音が説明していた通りの試験内容だった。
「具体的には……第二次試験当日にギルドが指定するAランクダンジョンで、指定された素材を探し出して制限時間内に持ち帰る、というものだそうです」
その説明を聞いて、瑠奈はBランク探索者昇格試験を思い出した。
今回もギルド側がダンジョン内に配置したフラッグのようなものを取ってくることになるのだろうか、と想像していると――――
「制限時間は四十八時間、だそうです」
「えっ、日跨ぐの!?」
「それだけじゃありません。Bランク探索者昇格試験と違って、ギルド側で受験者のパーティー分けがされるわけではないようです」
ん? と瑠奈がよくわからなそうに首を傾げると、鈴音が簡単に説明する。
「つまり、第二次試験は究極的には個人競技だということです。確かに受験者同士でパーティーを結成することも出来ます。何なら、受験者全員でレイドを組んで試験を攻略することも、ルール上は可能です」
ですが――と鈴音が続ける。
「パーティーを組んだとしても、パーティー単位での二次試験突破のルールはありませんから、仮に四人パーティーを組んだとすれば四人各人がそれぞれ指定されたものを持ち帰らないといけません」
なるほどね、と瑠奈が何かに気付いたようにニヤリと笑う。
「じゃあ、考えようによっては、一旦パーティーを組んでおいて自分一人必要なものを集められれば、あとは仲間を見捨てて帰還して、先に二次試験を突破することも出来るワケだ」
「そういうことになります」
第二次試験の内容自体は至ってシンプルだ。
当日にギルドが指定するものをダンジョン内で探し出して、四十八時間以内に持ち帰れば良い。
ただ、ギルド側で受験者にパーティーを組むことを強要しないという一点が、自由という何とも響きの良い語感だと思わせると同時に、厄介なまでに試験の攻略方法の幅を増やしている。
何を探すにしても、広大かつ高難易度のAランクダンジョンで動き回るには人手が欲しい。
当然受験者同士でパーティーを組む発想が生まれるが、第二次試験の合否はパーティー単位ではなく、あくまで個々人。
仮に素材A、B、Cという三つのものを探し出して持ち帰るのが合格条件ならば、鈴音の説明通り四人パーティーを組んで全員で合格を狙う場合、人数分の素材Aを四つ、Bを四つ、Cを四つ確保しなくてはならない。
それを嫌ってソロで探索すれば、確かに必要な素材はA、B、Cどれも一つずつで済むが、大きな危険と探索効率の悪さが足を引っ張ることになるだろう。
ゆえに、瑠奈が危惧する通り最効率の試験突破方法は、パーティーの力を借りて自分の必要な素材を集め終えたあと抜け駆けするという作戦になるのだが、少し頭の回る者ならばそのことに気付く。
そうなれば疑心暗鬼になり、安易に見知らぬ者とパーティーが組めなくなり……しかし、Aランクダンジョンを探索するためには人手が欲しく……と、受験者は葛藤に悩まされることになるだろう。
そんな第二次試験に思いを馳せて、瑠奈は口角を吊り上げた。
「あはっ、そうこなくっちゃ……!」




