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第72話 インテリ系悪魔(?)の実力

 十月初旬。

 遂にAランク探索者昇格試験の日がやって来た。


 一次試験は事前の告知通り、ダンジョンに関する知識を問うペーパーテスト。


 受験者数は五十三名。

 試験会場は、ギルド本部にある会議室に長机を並べた場所で行われる。


 瑠奈は各受験者に設けられた指定席を確認して、その通りに腰を下ろす。


 右斜め前に少し離れた場所には見慣れた後ろ姿。


(あっ、鈴音ちゃんだ……!)


 瑠奈だけではない。

 鈴音もBランク探索者だ。


 姉の凪沙は歴代最速最年少でSランクに至った天才であり、本人も膨大な魔力容量(キャパシティ)に恵まれ【魔法師】の適性を持つ将来有望な探索者。


 Aランク探索者昇格試験を受けるには充分な素質を持っている。


 そんな鈴音がピクリと身体を震わせた。


 どうやら自身に向けられる瑠奈の視線に気付いたらしく、どこにいるのかと周囲をキョロキョロしてから振り返り、視線が合う。


 ハッ、と一瞬笑顔を見せるが、すぐに気を引き締めるかのようにギュッと胸の前で両拳を握るジェスチャーを見せる。


(うんっ、頑張ろうね……!)


 試験特有の、とても声の出せる空気感出ないため、瑠奈は心の中でそう言いながら頷いて反応する。


 そして、試験開始時間まで、この一か月間の鈴音との勉強の日々を思い返した。


 ………………。

 …………。

 ……。


 ある日は――――


「はい、じゃあ次は治癒ポーションについての問題ですね。いきますよ……下記の怪我の程度の場合に選択すべき適切な治癒ポーションを、下級・中級・上級・超級治癒ポーションから選びなさい」


 鈴音が机の上に広げられた探索者用テキストのページを指差しながら続ける。


「問一。モンスターに強く噛み付かれた腕から出血し骨折も伴っている場合」

「ん~、中級ポーションかな?」

「ブブー。正解は上級ポーションです」

「くっ、惜しい……!」

「そこそこ深い傷でも出血だけであれば中級ポーションで充分かもしれませんが、骨折までとなると上級ポーションでないと治癒出来ないんです」


 覚えておいてくださいね、と鈴音の説明に、瑠奈は自分が先輩であるということを忘れて生徒になった気持ちで「は~い!」と元気よく返事。


「では次、問二です。モンスターの鋭利な攻撃により太腿に深い切り傷。流血が酷く歩行も困難な場合」

「なるほど、こういうときに中級だね!」

「えっと……答えは上級です」

「んあぁ~! こういう連続で同じ解答のヤツ嫌い~!」


 いわゆるマークシート形式の問題で立て続けに同じ選択肢を選ぶときに感じる、何とも形容しがたいモヤモヤだ。


「さっき深い傷でも出血だけなら中級で良いって言ったじゃ~ん!」

「いやいや、この問題は深いとかそういうレベルじゃないですよ! 歩行も困難ということは筋肉まで損傷してる可能性がありますし、流血の具合から太い血管も切れてるはずです。そういう組織ごと治癒するときは上級なんです」

「な、なるほど……」


 治癒ポーション選びも意外と難しいんだなと痛感しながら、瑠奈は次の問題に備える。


「次は簡単かもしれません。問三。モンスターの攻撃により腕が切断された場合はどうですか?」


 その問題を聞いて、瑠奈はニヤリと笑った。

 自信あり、という笑みだ。


「上級、だねっ!」

「はい、超級ですね~」

「なんでっ!?」

「部位の欠損は超級じゃないと治せないんです~」

「んあぁあああもう! 怪我したら死ぬ前にモンスター倒しまくってレベルアップして完全回復したらいいじゃんかぁ~!!」


 そんなこと考えるの瑠奈先輩くらいですよ……と、鈴音の呆れたような呟きは、瑠奈の叫びによって掻き消された。



また、ある日は――――


「擬態型モンスターの対処法についてです」

「ああ~、危険だよねぇ~」


 鈴音がテキストのページに乗っている擬態型モンスターを指差しながら言う。


「植物型、保護色系、高ランクのモンスターでは幻影を使うのもいます……」


 当然その中には、まだ瑠奈が遭遇したことのないモンスターの写真もあり、興味深そうに息を漏らしていた。


「さて、こうして多種多様な擬態型モンスターがいるわけですが、いつ何時襲い掛かって来るかわかりません。そこで大切なのが――」


 鈴音の言葉と、瑠奈の意見がハモった。


「――事前知識です!」

「――勘だねっ!」

「…………」

「…………」

「はい?」

「え?」


 両者ともに瞬きを繰り返し、向かい合う。


「えっと……瑠奈先輩、何て?」

「か、勘……じゃないの?」

「勘、ですか……?」


 瑠奈は何を疑問に思われているのかわからず、ぎこちなく「う、うん」と頷く。


「だって、擬態してたり潜伏してたりして視覚は当てにならないでしょ? だから、音とか匂いとか……殺意とかで気配を感じて対処、するんじゃないの?」


 そんな漫画みたいな……と鈴音は一瞬ツッコミを入れそうになったが、今まで何度も一緒に探索してきたからこそわかってしまう。


 そんな漫画みたいなことが、瑠奈には出来るのだと。


 しかし、これはAランク探索者昇格試験の対策。

 一次試験がペーパーテストである以上、感覚は当てにならない。


 それに、これから先、より一層難易度の高い探索を行うときに、感覚だよりの行動は危険極まりない。


 高ランク探索者として、やはりそれ相応の知識は必要だ。


 ――と、鈴音が瑠奈に説明しようとしたとき、


「あぁ~、疑ってるなぁ~? 仕方ない! じゃあ、今から実際に擬態型モンスターに会いに行こう!」

「え、ちょ……瑠奈先輩!?」

「座ってお勉強するだけよりも、実際経験しながら知識を取り入れた方が身に付くよ!」


 ノリノリな瑠奈に手を引かれる鈴音は、行き先に確信を覚えてたまらず叫んだ。


「んもぅ~!! ただダンジョンに行きたいだけじゃないですかぁ~!!」



 ――と、そんな感じの一ヶ月を経て現在、


「……フッ、死角はない」


 瑠奈はどこからともなく取り出した赤いフレームの丸眼鏡(伊達)をカチャッ、とカッコ良さげに着用し、ニヒルに笑う。


(この一ヶ月の成果……見せてあげるよっ……!)


 配布されるペーパーテスト。

 一体いつどこのどんな記憶に根拠を覚えるのかわからない自信たっぷりの笑み。


 瑠奈の戦いが、始まった――――

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