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第71話 試験に向けて!

 日頃の行い……主にダンジョン内での狂乱っぷりと、ランクに見合わない実力が問題視された瑠奈は、危うく即刻ギルドの監視対象にされるところだったが、凪沙の計らいで一旦その話が先送りにされることになった。


 しかし、根本的な問題を解決するためには、瑠奈が自らの力を証明して、それに見合った地位に就く必要がある。


 そのための条件が――――


“Aランク探索者昇格試験合格を前提とした、Sランク探索者認定試験の突破”


 つまりは、その危険極まりない狂気性さえも周囲に納得させられるだけの探索者に――Sランク探索者になれ、ということだ。


 誰が聞いても無茶苦茶。

 無理難題極まる、不可能な試練。


 しかし、これを理不尽だと嘆いていても現状は何も変わらない。


 瑠奈は決めたのだ。

 この程度の理不尽など、斬り殺してやると。


 そして、そんな瑠奈に今必要なのは――――


「対策ですっ!!」


 九月初め。

 夏休み明け初日の昼休みに、高校の食堂の一角で鈴音の声が響く。


「た、対策……?」

「はいっ! 十月のAランク探索者昇格試験まであと一ヶ月しかありませんから。出来ることは全部しておくべきでしょう」


 そう言って鈴音がテーブルの対面からグイッと身を乗り出してくるが、瑠奈はよくわかってなさそうに首を傾げた。


「でも、試験って結局戦って、戦って……それから戦うんでしょ? この期間で出来ることと言えば、少しでも多くレベルを上げることくらいだよね?」

「瑠奈先輩の頭には戦うことしかないんですか……」


 相変わらずの脳筋思考に、鈴音は瞳を半開きにして浮かせていた腰を椅子に戻す。


「いいですか? Aランク探索者昇格試験は一次から三次試験まであります。一次はダンジョンに関する知識、二次は高度なダンジョン探索能力、そして三次は対人戦闘能力の測定……というのが恒例です」


 それを聞いた瑠奈は、ぎこちない笑みを浮かべて尋ねる。


「えっ、そんなにあるの……?」

「まぁ、Aランク探索者を選ぶ試験ですから」

「ち、ちなみに、毎試験合格しないと次に進めない感じ……?」

「当然です。一次を突破しないと二次、それを突破しないと三次には進めません」


 ガンッ、と瑠奈が額をテーブルに打ち付けた。

 そして、項垂れたその体勢のまま視線だけ鈴音にやる。


「ねぇ、一次試験のダンジョンに関する知識って……実技?」

「いえ、ペーパーです」

「…………」


 瑠奈は決して勉強が苦手ではない。

 基本的に要領が良く、前世で一度高校生活を送っていることもあって基礎学力は同世代でも上の方だ。


 しかし、当然それは日々勉強しているから培われた学力。


 その点で言えば、瑠奈はダンジョンに関して特に何かを勉強したことはない。


 実際に探索して、モンスターと対峙して、戦って……そんな経験から学びは得てきたが、知識と言う知識を持ち合わせているわけではないのだ。


「ま、まぁ何とかなるよ! あははっ!」


 瑠奈は前向きに、自分にそう言い聞かせるように笑った。


「確かにワタシは実戦派だけど、経験……っていうのかな? 今までのダンジョン探索を思い出しながらやれば――」

「――問。仮想敵、Bランクモンスター【レッド・ワイバーン】一体。任意の役職の五人パーティーを編成し、撃破手段を述べなさい」

「えっ、えぇっとえぇっと……!」


 鈴音からの突然の出題。

 瑠奈は一瞬困惑しながらも、すぐに頭の中で問題通りの状況をイメージする。


(赤竜一体でしょ? あ、この前Aランクダンジョンで戦ったな……群れだったけど。でも、問題は五人パーティーで役職は自由に出来るから……)


 瑠奈は顎に手を当てたまま数秒考え込み、弾き出した回答を指パッチンと共にドヤ顔で述べる。


「パーティー編成は前衛職一人に支援職四人! 赤竜が攻撃してくる前に、四人がかりで前衛職にバフかけて突貫させる、超ハイパーキャリー戦法っ!」


 どう? と自信満々な笑みで鈴音の採点を期待する瑠奈に、鈴音はジト目で――――


「おめでとうございます、丸です」

「え、ホント!? やっ――」

「――丸は丸でも、点数が丸一つですが。まぁ、0点です」

「ガーン!!」


 非情な――というか至極当然な鈴音の判定に、瑠奈は自前の効果音と共に再び項垂れる。


「なんでだよぉぅ……」

「逆に、何でこんな回答でオッケーだと思ったんですか……」

「だってだって! 強いと思わない? 四人がかりのバフを受けた一人が突っ込むんだよ? うん、最強だよ!」


 ギュッと拳を握ってその戦法を信じて疑わない瑠奈に、鈴音ははぁ、とため息を吐いた。


「確かに火力面だけ見ればそうかもしれませんが……では、もし赤竜が先に攻撃してきたらどうするんですか? ブレスとか怖いですよ?」

「え……避ければ良いじゃん」

「どうやって?」

「そりゃ、お好きにどうぞというか……横に走って射線から逃れたり、バックステップで射程外に行ったり……あっ、ワタシやったんだけど大量に砂巻き上げて相殺するのオススメ!」


 疑似的な頭痛さえ感じてきそうな瑠奈の発現に、鈴音はやれやれと首を横に振る。


「はぁ、どうやら瑠奈先輩は戦術というものの本質を理解してませんね」

「うぅ……」

「いいですか? 瑠奈先輩の言ったものはすべて個々の技量に大きく左右されるんです。パーティーのエースのような存在を更に強化するという考えは悪くないですが、そこだけに焦点を当てると五人と限られたパーティー単位での耐久面が懸念されます」


 鈴音が呆れたように肩を竦めて続ける。


「攻撃は回避すればいいと言っても限度があります。そりゃ、瑠奈先輩みたいな規格外の反射神経と機動力を持ってればブレスが来ても飛んだり跳ねたりして躱せるのかもしれませんが、皆が同じように出来るわけではありません。それが許されるなら、大抵の問題は“お姉ちゃんを連れてくる”で解決しちゃうじゃないですか」


「あっ、その手があったね……!」

「今のはダメな回答の例を挙げたんですっ!」


 まったく……と呟きながら、鈴音は先行きの不安を感じてしまった。


 瑠奈をギルドの監視下に置かれないようにするために、何としてでも突破しなければならない試験。


 しかし、実技系の試験はともかくとして、一番最初に待ち受けるペーパーテストを瑠奈が突破出来る未来が見えなかった。


「もちろん探索者にとって個々の技量は重要です。でも、戦術というのは個人の力量に左右されず、普遍的で汎用的で合理的で効率的なものでなければいけないんです」

「な、なるほど?」


「例えば先程の問題なら、赤竜のブレスを警戒して対特殊攻撃用の防御手段を持った支援職やタンクを入れるべきです。また、飛行系モンスターには射程の長い攻撃手段を持つ探索者を入れるのがセオリーなので、【魔法師】がいれば安心でしょう。あとは前衛職が二人か三人。

 戦い方としては、支援職がブレスを警戒。厄介な羽を【魔法師】が落として赤竜を手の届く場所まで引きずり下ろせれば、前衛職で叩く……といった感じでしょうか」


 まぁ、試験ならもう少し詳細に明記した方が良いかもしれませんが――と付け加えて、鈴音が立ち上がる。


「あと一ヶ月です、瑠奈先輩! この期間で出来る限り今の瑠奈先輩に足りないものを補って、試験に臨みましょう! 私がつきっきりで面倒見ますから!」

「わ、ワタシに足りないもの……」

「ふふっ、一ヶ月みっちりお勉強ですねっ!」

「いやぁぁあああああああ!!」



 瑠奈の試験対策の日々が始まり、一ヶ月は瞬く間に過ぎ去った――――

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 ダメだこの主人公(のマッスル脳ミソ)、早くなんとかしないとwwww 鈴音が居なかったら、120%試験に落ちてたのが確定な未来でしたね…ちゃんと感謝しなよ瑠奈ちゃん(笑) それで…
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