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第69話 Sランク会談②

「やれやれ。相も変わらず血気盛んなガキじゃのぉ~。少しは落ち着け~」


 どう見ても小学生なスタイルの幼女が、その外見に似つかわしくない老人のような口調で【雷霆】を諫める。


 しかし、【雷霆】はそんな幼女の態度が気に食わなかったのか、眉間にシワを寄せて舌打ち混じりに言い返す。


「テメェはのんびりしすぎなんだよ【武神】! 呑気に菓子なんか食ってんじゃねぇ!」

「コレはワシの菓子ではない。【剣翼】のじゃ」


 あくまで自分に罪はないと訴える【武神】は、そう言ってチラリと自分の左側へ視線を向ける。


 すると、それに応えた【剣翼】が、


「ん、私は悪くない。元々このお菓子は、【魔王】の……」

「ははは……茶菓子を盗まれた被害者であるはずの僕に責任が回って来るとはね」


 二度の責任転嫁の末に向けられた矛先に、【魔王】は肩を竦める。


 そんな様子を見ながらこめかみに青筋をピキピキと立てていた【雷霆】が、ダァン! と強くロングテーブルを叩いた。


「舐めてんのか! そこ三人だよ三人全員ッ! こぉんの重要な会議を【魔王】を筆頭に【剣翼】【武神】と揃って呑気にティータイム化してんじゃねぇぞこらぁ!?」

「あぁ~もう、やかましいったらありゃせんわ。ちと黙っとれ【雷霆】」


 怒声を耳障りに思う【武神】が両手で自身の両耳を塞ぐ。


「黙るのはテメェだ! この合法ロリが!」

「あぁあああ! こやつ言っちゃいけんこと言ったぁ! ワシのこの見目麗しい外見が一部の野蛮人共に需要があるからと言って何させるつもりじゃ! ナニさせるつもりか!?」

「うっせ黙れ! 被害妄想も甚だしいわッ!」

「ん……【武神】は一応女子高生で未成年……ナニするにしても普通に違法……」

「どやっかましいわぁあああああッ!!」


 わざとらしく自分の小さな身体を両腕で抱いてみせる【武神】と無自覚コントを繰り広げる【剣翼】を相手にし、【雷霆】は呼吸を荒くする。


「はぁ、はぁ……ったく。話になんねぇ……」

「まぁまぁ、そう苛立つな【雷霆】」


 いつものことではないか、と冷静な態度で口を開いたのは、【雷霆】の左隣で【武神】の対面に腰掛けている女性。


 歳の頃は十代後半から二十代前半。

 ボブカットにされた銀髪。

 凛とした光を灯す翡翠の瞳。

 聖画に描かれる神の遣いのような白を基調とした布の装備を纏い、傍らに弓を置いている。


「……そういや、テメェの意見をまだ聞いてなかったな【天使】。S()()()()()()()()()()()()()()()お前の意見を」

「…………」


 隣から向けられる【雷霆】の視線を受け、【天使】はしばらく考え込むように無言を貫く。


 そして、数秒の沈黙ののちに口を開いた。


「まぁ、私からすれば、飛行スキルを持つだけでこの少女を危険視するのは可哀想だなとは思う。なんせ同じ立場だからな、私も」


 瑠奈と同じく貴重な飛行スキルを有する者の貴重な意見に、この場の皆が耳を傾ける。


「しかし……この少女の危険性は飛行スキルではなく、狂気性だ。もし仮に彼女が犯罪者化したなら、飛行スキルは非常に厄介になる。なんせ、対抗手段が非常に限られるからな」


 私情を挟まず、あくまで今持ちうる情報から論理的かつ客観的に導き出される意見を提示する。


「取り敢えず、彼女がどんな探索者なのかをしっかりと見極める必要はあると思うが……お前はどう思う、【要塞】? ずっと黙っているが」


 そう話を振られたのは、【雷霆】の右隣で【魔王】の対面に座る者。


 全身を重厚なフルプレートアーマーでがっちり固め、その素顔すらどうなっているのかわからない年齢不詳、性別不明のSランク探索者。


 それを得物と言って良いのかは謎だが、自身のすぐ隣にはこれまた分厚く重厚感に溢れた大盾が立て掛けられてあった。


 皆の視線が向けられる先で、【要塞】は堂々と腕を組んだまま返事をした。


「……異議なし。人間性を見極め、監視対象に置くかどうかを決めるのはそれからだろう」


 声がアーマーの中で反響してくぐもっているため、やはり年齢も性別もよくわからない。


 その正体を知るのは、神と、探索者の個人情報を管理しているギルドのみということだろう。


 しかし、これでSランク全員の意見――といっても、案を提示したのは【雷霆】と【天使】と【要塞】だけだが――が出たことになる。


「っしゃぁ! そうと決まればやっぱこの俺が直々に確かめてきてやるよ! この早乙女瑠奈っつうバケモンの正体をなぁ!」


 ニヤリと得意気な笑みを湛えた【雷霆】が右手に槍をもって席を立ち、ギルド長室を後にすべく扉の方へズカズカと足を進めていく。


 が――――


「……どういうつもりだぁ、【剣翼】」


 先程まで座席について茶菓子を頬張っていたはず。

 その凪沙が、いつの間にか音もなく背後に立ち、右手に持った白刃の切っ先三寸を【雷霆】の首元に添えていた。


「それは、こっちの台詞……瑠奈を、どうするつもり……?」


 口調は相変わらずゆっくりで、何を考えているかよくわからない。

 しかし、普段閉じられているその目蓋は両目共に開いており、光を映さぬその銀色の瞳で真っ直ぐ【雷霆】を見据えていた。


「どうするつもりだぁ? 決まってんだろ。そいつがどんな奴か確かめるにゃ――」


 刹那、バチィッ!! と【雷霆】の全身から電撃が迸った。


 首元に添えられていた凪沙の白刃が弾かれ、凪沙自身も咄嗟に間合いを取るように飛び下がった。


「――こうするのが手っ取り早いだろうがよぉ!」


 全身に電撃を纏った【雷霆】が、獲物の長槍を構え、真っ直ぐ凪沙に突進。


 二つ名に相応しい雷の如き速度と勢いで駆け、長槍を突き出してくる【雷霆】を、凪沙は右手の白刃で迎え撃つ。


 ガキィイイイン!!


 長槍の刃と白刃が激しくぶつかり合い、火花を散らす。


 その一瞬の拮抗を隙と見て、凪沙は遠慮なく空いている左手で右腰に納めてあった黒曜の刃を抜き放つ。


 抜刀一閃。


 しかし、その刃は空を切り、【雷霆】は俊敏な動きで凪沙の周囲を駆け回る。


「ハッ、俺の動きは見切れねぇだろ!」

「……見切る必要すら、ない」


 凪沙が右手の白刃をクルリと回して逆手に持ち替えた。

 そして――――


「凍てつけ――《霜薙》」


 ズサッ! と足元に白刃を突き立てた瞬間、圧倒的な冷気が一帯に広がった。


「……っつぁ!?」


 押し寄せた圧倒的な冷気に、空間中を駆け巡っていた雷が凍てつく。

 動きは完全に停止し、【雷霆】の両足が床に貼り付けにされていた。


「……貴方じゃ、まだ、私には勝てない……」

「だ、ま……れぇえええええッ!!」


 雄叫びと共に、【雷霆】が自分の身を纏う電撃の勢いを高め、半ば力づくで氷に封じられた両足を引き抜いた。


 バリィイイイン! と砕け散る氷。


「うおぉおおおおおッ!!」

「ふっ――!」


 身体の捻りをを存分に発揮して突き出される長槍。

 あらゆる無駄を削ぎ落し必要最低限に極まった動作で鋭利に振るわれる白刃。


 両者の刃が再び交錯しようとした、そのとき――――


「やめんか、ガキども――」


 フッ、とまるで瞬間移動でもしてきたかのように、気が付けば両者の刃がぶつかり合う中間地点に立った【武神】。


 その姿を捉えた瞬間、両者の刃の動きがピタリと完全に停止した。


 もちろん【雷霆】も【剣翼】も互いにある程度加減はしていた。

 しかし、走行している車の前に死角から子供が飛び出してきてもすぐに停車出来ないように、二人の刃は勢いに乗ってそのままぶつかり合うはずだった。


 それでもこうして止まったのは、()()()()()からだ。


 両者のちょうど真ん中に現れた【武神】は、その小さな右手の指で凪沙の白刃を摘まみ、背中越しに回された左手の指で【雷霆】の長槍の切っ先を摘まんでいた。


 そんな超絶技巧を、文字通りの神業を誇る素振りすら見せず、ただただ不敵に口角を持ち上げて言った。


「――ワシも混ざりたくなるじゃろうが」

「「――ッ!?」」


 びくりと身体を震わせた凪沙と【雷霆】が飛び退き、刃を納めた。


 そんな一連の様子を見終え、この部屋の最奥の席に座っていた初老の男――ギルド長がため息混じりに口を開く。


「はぁ……危うくこのギルド本部が壊滅するところでしたよ。指定の場所以外での探索者同士の決闘は禁止。それを全探索者の模範であるべきSランクの貴方達が破ってどうするんですか……」


 やれやれ、と呆れたように首を横に振るギルド長。


「ですがまぁ、皆さんの意見はわかりました。では、それを踏まえてこうしましょう――」


 ここに、議題である瑠奈の処遇について、ギルド長の決定が下された――――

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 あくまで触りくらいの実力しか見せてないですが、受けた印象的には瑠奈ちゃんが戦った時に相性悪そうなのは【天使】と【武神】ですかね? 天使は飛行を使った空中戦が向こうに一…
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