第68話 Sランク会談①
◇ステータス情報◇
【早乙女瑠奈】Lv.65(↑Lv.7)
・探索者ランク:B
・保有経験値 :0
(レベルアップまであと、6500)
・魔力容量 :850(↑35)
《スキル》
○《バーニング・オブ・リコリス》(固有)
・消費魔力量:250
・威力 :準二級
・対単数攻撃用スキル。攻撃時に深紅の焔を伴い、攻撃箇所を起点として炎が迸り爆発。噴き上がる炎の様子は彼岸花に似ている。
○《狂花爛漫》(固有)
・消費魔力量:毎秒10
・威力 :二級
・自己強化スキル。発動時全身に赤いオーラを纏い、身体能力・肉体強度・動体視力などの本来持ちうる能力を大幅に強化する。強化量探索者レベル+10相当。
○《エンジェルフォール・ザ・ウィング》(固有)
・消費魔力量:毎秒10
・威力 :特級
・自己強化スキル。発動時背中に二翼一対の黒翼を展開し、飛行を可能にする。
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ダンジョン・フロート中央にシンボルの如く聳えるギルド本部の近未来的超高層ビル。その最上階、ギルド長室にて――――
「――んでぇ、一体どうすんだよこりゃ」
長方形のロングテーブルを囲うように並べられた六つの椅子。
そのうち一つに片膝を立てるようにして行儀悪く座っていた男が、そう口を開く。
歳は二十代前半で、背が高く、袖のない装備で露出した両腕の筋肉のつき方から、しっかりと身体が鍛え上げられているのがわかる。
また、肌は健康的に日焼けしており、オールバックにされた金髪と相まって、強面な印象が強い。
そんな男の傍らには、相棒とも呼べる自身の得物である長槍が立て掛けられていた。
強者の雰囲気を纏うその男が――否。この場にいる全員が視線を向ける先は、部屋に設置された大型モニター。
そこに映し出されていたのは、巷を騒がせているとあるダンジョン探索配信者の最新LIVE配信映像だった。
Bランク探索者であるその人物が、単騎でAランクダンジョンを探索し、終いにはAランクモンスターである【ヴォルカニック・フレイムドラゴン】をソロ討伐してしまう。
そんな、衝撃映像がループ再生されていた。
「普通にヤベェだろ、こりゃ。危険すぎるなんてもんじゃねぇぞ」
「……危険すぎるとは、一体何のことを指して言ってるんだい? 【雷霆】?」
強面の男――【雷霆】に質問を投げかけたのは、その対面に腰を下ろして優雅に紅茶を嗜んでいた男性。
同じく二十代前半だが、【雷霆】とは反対に常に表情に笑みを湛えており、穏やかな雰囲気を纏っている。
白を基調とした装飾豊かな法衣を身に付けており、傍に立ててある長杖から【魔術師】であることが一目瞭然だった。
「Bランク探索者が一人でAランクダンジョンへ足を踏み入れたことかい? ソロでAランクモンスターに挑んだことかい? それとも――」
「――このBランク探索者自身に決まってんだろ。わかりきったクソ質問してんじゃねぇぞ、【魔王】」
穏やかな印象とは裏腹に物騒極まりない二つ名で呼ばれた男は、【雷霆】の舌打ちを受けて肩を竦め、再び紅茶を口に含んだ。
「Bランク探索者がAランクモンスターをソロ討伐だ? ちげぇよ。バケモンがバケモンを殺したんだろうが」
「……心外。バケモン、じゃない……瑠奈は可愛い……」
そう口を挟んだのは、左隣に座る【魔王】の茶菓子へせっせと手を伸ばしては、悪びれもなく口へ運んで黙々と咀嚼していた凪沙――【剣翼】だ。
「ただ、ちょっと……狂気的なだけ……」
「はぁ~!? このバケモンが可愛いだぁ? テメェの目は節穴か?」
「節穴……まぁ、確かに目は見えないけど……」
「おっ……つ、ツッコミづれぇ返ししてんじゃねぇよ……」
調子を狂わされた【雷霆】は頭をガシガシと掻いてから咳払い一つ。
「と、ともかく! こんなの放っておくワケにはいかねぇだろうがよ。ま、だからこうしてSランクがこんな場所に集められたんだろうがなぁ?」
――そう、ギルド側は決めあぐねている。
突如現れては驚異的な勢いで強くなっていき、歴代最速でBランク探索者になった挙句、Aランクモンスターをソロ討伐してしまった早乙女瑠奈という存在の是非を。
まして、貴重極まる飛行系スキルを会得したともなれば、大騒ぎだ。
ダンジョン・フロートにおいて、探索者による犯罪は珍しくない。
初めは真面目に探索稼業をしていた探索者が、ふとしたきっかけで犯罪に手を染めるようになるなんてこともありふれた話だ。
探索者に対抗できるのは探索者だけ。
当然、犯罪者化した探索者を捕縛するのは一定の実力を認められたBランク以上の探索者になるわけだが、それでも必ず対抗出来るとは限らない。
特に、高ランクの探索者が犯罪者化した場合は。
具体的な前例を上げるなら、Sランク探索者だった【剛腕】のジャスカーが犯罪者化したときは、捕縛に向かった数多くの探索者が返り討ちに遭った。
最終的には同じSランクの凪沙が事態を収拾したが、いつでもSランク探索者の手が空いているわけではない。
ゆえに、危険因子たり得る探索者が実際に犯罪者化する前に、あらかじめ何かしらの手を打っておくというのは自然に考え至る方法ではある。
時にそれが非人道的な方法であっても、一人でも犯罪者化する探索者の数を減らし、ダンジョン・フロートの秩序と平和を守るためという絶対的な大義名分の前では、仕方ないという結論に至るのだ。
「どうするよ。この俺が直々にそのバケモンとこまで出向いて、犯罪者化する危険があるかどうか確かめてきてやっても良いぜ?」
そう言って【雷霆】が不敵に口角を吊り上げると、立て掛けてあった長槍を右手に掴んでカァン! と柄尻で床を叩いた。
そんなとき、ギルド長室に張り詰めたピリつく空気さえ馬鹿らしいと言わんばかりに、場違いに幼い少女の声が響いた。
「やれやれ。相も変わらず血気盛んなガキじゃのぉ~。少しは落ち着け~」
声の元は、凪沙の右隣。
小学生と見紛うほどに幼い外見で、【魔王】から盗んだ茶菓子を頬張る【剣翼】から更にお菓子を分けてもらって食べている。
まさに美少女――いや、美幼女。
天女が纏っていそうな薄い生地を幾重にも折り重ねたような羽衣に身を包んでおり、どこか神秘的な雰囲気を放っている。
見た目は幼女。
中身はJK。
その名は――【武神】。
瑠奈の行く末を巡ったSランク探索者らによる会談は、続く――――




