表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/107

第65話 龍と悪魔の頂上決戦!

 シュバッ……ボアオォォオオオオオオオオオオオウッ!!!!


 景色が紅蓮に染まり上がる。

 Aランクモンスターが他のモンスターとの格の違いを知らしめるかのような圧倒的熱量の息吹に、山頂の岩肌は焼け焦げ、一部は溶ける。


 視界を埋め尽くさんばかりの火炎放射を目の当たりにし、視聴者は絶句。


 脳震盪を起こし行動不能に陥った瑠奈が、そのブレスをまともに喰らってどうなってしまったか……そんなもの、想像に難くない。



○コメント○

『うっそだろ……!?』

『待ってホント待って!!』

『うわぁあああああ!!』

『マジで止めてくれ……』

『ルーナたん……嘘だろ!? 嘘だと言ってくれ!!』

『ルーナぁあああ!?!?』

『きっと何かの間違い……』

『最期の配信、かよ……』

 …………



 誰も言葉にはしない。

 死んだとは、言わない。


 だが、そうであることを前提に話す者や、そうであると頭で理解しながらも現実を受け入れられずにいる者ばかり。


 無理もない。

 配信画面に映し出されるは、灼熱の業火にあぶられた深紅の光景。


 瑠奈の小さく華奢な身体など、数秒と経たないうちに跡形もなく燃え尽きてしまう。


 誰もが絶望と共にため息を溢し、目蓋を閉じようかと思った。


 そのとき――――


 ドバァアアアンッ!!


 突然の爆発。

 ドラゴンが放射した火炎の中で、何かが爆発した。


 ブレス自体に起爆性はない。

 地面に起爆材料が存在すれば話は別だが、このダンジョンの岩肌にそんな性質をもつ物質はない。


 では一体どうして――と、視聴者達の疑問符が立ち上がる中、唐突な爆発に伴って火炎の中から宙に何かが飛び出した。


 ――瑠奈だ。


 露出する肌の至る所に深い火傷。

 頭部からの流血は可愛らしい顔の右半分を赤く染めている。


 そんなズタボロの瑠奈が、力なく身体を仰け反らせながら宙を飛び、やがてドサッ! と焦土に投げ出された。


 決して無事ではない。

 まさしく満身創痍で戦闘継続も怪しい状態だ。


 しかし、死んでいない。



○コメント○

『生きてる……!?』

『生きてる!!』

『うっそだろ!?』

『うおぉおおおおお!!』

『何で!?』

『無事、ではないけど良かった……』

 …………



 死んだと確信を抱かせる状況の中で、満身創痍ながらも生き延びた瑠奈の姿に、視聴者らがひとまず安心といった声を上げる。


 そして、同時にあの状況でどう命を守ったのかという疑問符の嵐。


 少しの間、焦土に背を付けたままピクリともしなかった瑠奈が、大鎌を支えにしてゆらゆらと身体を立ち上がらせ、力なく口角を持ち上げる。


「っかはは……咄嗟に《バーニング・オブ・リコリス》を足元にぶっ放して、その爆発で自分の身体を飛ばして回避ってのはもうやりたくないなぁ……」


 そう。

 脳震盪でまともに回避行動を取れなかった瑠奈は、本格的にブレスに焼き焦がされる前に、爆発を起こす自身のスキルを用いて自分の身体を吹っ飛ばすという荒技を行ったのだ。


 瑠奈の頭のネジが外れていることはもう周知の事実。


 しかし、それでも視聴者らはそんな瑠奈の呟きを聞いて、『笑えない人間ロケット』『地雷を踏み台にする美少女』とドン引きの様子だった。


 ともあれ、絶体絶命の状況から生き延びたことに変わりはない。


 加えて、長い尻尾を鞭とした衝撃波による攻撃と、広範囲高火力のブレス攻撃という二つの手の内を知ることが出来た。


 深いクレーターの地形の性質上、Aランクモンスターを前にしてそう簡単に逃げることは出来ないため、戦いの中で得られた情報を吟味して勝利の糸口を見付けるしかない。


「っぷはぁ~! 治癒ポーションは残り二本。慎重にいかなくちゃ……って言いたいところだけど、早々に蹴りつけないとジリ貧だよねぇ~」


 残り三本だった治癒ポーションの一本と、二本残っていた魔力ポーションの一本を合わせて喉に流し込み、ある程度の火傷を回復させて止血し、魔力容量を全快させる。


「さて、どうしようか……」


 スキル一発ではドラゴンの鱗を削るだけで致命傷には程遠かった。


 まともにダメージを与えるには、同じ場所へ幾度となく攻撃を叩き込むか、より強力な攻撃手段を用いるか、弱点となる箇所を発見してそこを狙うしかないが…………


(……ま、取れる手段は一つだよね)


 瑠奈はクルリと大鎌を器用に回すと、腰を落として体勢を低く構える。


「すぅ……はぁぁ…………」


 まだ焼けて赤みの残る岩肌の上。

 瑠奈は細く長く呼吸をして集中力を高めると――――


「しぃ――ッ!!」


 地面を強く蹴り出して疾走。


 ドラゴンと大きく距離が開いてしまったため、すぐに間合いを詰める必要がある。


 身体の輪郭が霞む俊足をもって、一直線に最短距離を駆けて行く。


 それを見たドラゴンはカッ! と両の目を見開き、右翼を持ち上げた。


 そして――――


「グオォアァアアアアアンッ!!」


 鋭利な爪の光る巨大な右翼で前方の地面を薙ぎ払い、大小様々な岩礫を飛ばす。


 正面から飛来する岩礫。

 瑠奈からしてみれば、それら一つ一つが砲弾。

 レーシングカー張りの速度でダンプの群れが自分に向かって突っ込んでくるような感覚。


 たった一つの岩礫にでも当たればどうなるか……語る必要すらない。


 ブゥゥウウウン――――


 シュダァアアアンッ!!  ドォオオオン!!

ダァンッ!! ドガァアアアン――ッ!!

    ドダァアアアアアンッ!!  ガァアアアンッ!!

  ダダァアアアン――ッ!! シュドォンッ!!

ドバァアアアンッ!! ズドォオン――ッ!!


 まさに岩礫の嵐。


 瑠奈は迫る岩礫の軌道を見切り、上下左右へ駆け、跳んで、躱していく。


 外れた岩礫は地面を穿ち、炸裂音を轟かせ、土煙と共に無数のクレーターを生み出していく。


 だが、それだけでは物足りなかったのか、ドラゴンは続けて左翼を振り抜き、更なる岩礫を瑠奈に放ってくる。


「――ッ!!」


 物量が倍増した。

 どうしても躱し切れない岩礫が出てくる。


 瞬時にそう判断した瑠奈は《狂花爛漫》を発動し、赤いオーラを全身に滾らせる。


 金色の瞳を一杯に見開き、スキルによって強化された動体視力で、躱す岩礫と大鎌で斬り裂く岩礫を判別し、消化された身体能力を駆使して飛来する岩礫をも足場にしてドラゴンとの距離を詰める。


 瑠奈の狙いは一つ。


 これまでのどんな攻撃をも凌駕する火力の一撃を叩き込み、仕留める。


 確かに同一箇所に幾度となく攻撃を繰り返せばやがて致命傷を与えられるかもしれないが、相手はAランクモンスター。

 とてもそんな隙を見せてくれる相手ではない。


 では、弱点を見付けて狙う。


 ――無理だ。

 時間があれば可能かもしれないが、治癒ポーションは残り二本、魔力ポーションも一本と長期戦に持ち込む余裕はない。


 それに、ドラゴンは言葉で語る以上に巨体だ。


 多くのファンタジー作品でドラゴンの弱点となる逆鱗を破壊して勝利を掴み取る展開があるが、とても現実的とはいえない。


 高層ビルの中からたった一枚ヒビの入った窓ガラスを一人で探すようなものだ。


 結局どんな手段を選んでも無謀なのだ。

 なぜなら、最初からAランクモンスターをBランク探索者がソロ討伐しようというのが無謀なのだから。


 どうせ無謀なら、一番自分らしい方法で決着をつける方が良い。


 それに――――


「決めるよっ!!」


 ――はなから、負けるつもりはない。


 飛来する石礫を足場に駆け抜け、跳躍を経た瑠奈が、ドラゴンの頭上に躍り出た。


 大鎌を掲げ、ドラゴンを見下ろす瑠奈。

 牙を剥き、瑠奈を見上げるドラゴン。


 龍と悪魔の頂上決戦は、最終局面を迎える――――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ