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第64話 苦戦必至の対Aランクモンスター戦!

 万単位の視聴者が、まるで自身が当事者であるかのような緊張感を抱いて固唾を飲みながら見守るLIVE配信の画面の先。


 巨大なクレーターとなっているAランクダンジョンの山脈の頂に佇む瑠奈の姿。


 ビュウビュウと吹き付ける強風が赤いドレスをはためかせる中、瑠奈は何も言わず、動かず、ただ静かにある一点を見詰めている。


 その視線の先は、クレーターの中央で身を丸くして座り込んでいるAランクモンスター【ヴォルカニック・フレイムドラゴン】。


 しばらくドラゴンは眠っているかのように微動だにしなかったが、やがて瑠奈の視線に、気配に気が付いたのか、その巨体をゆっくりと持ち上げた。


 交錯する両者の視線。

 言葉はなくとも、意図は通じ合う。


 ニヤリと瑠奈の口角が持ち上がり、それを見たドラゴンの瞳孔が縦に鋭くなる。


「……行くよ」


 瑠奈が身体を前傾させるように、一歩踏み出した。


 球面を描くようなクレーターに靴底を滑らせ、ズザザァ! と岩の斜面を徐々に加速しながら下っていく。


 ドラゴンは――Aランクモンスターは馬鹿じゃない。

 このダンジョンの頂まで辿り着いた瑠奈を、ノコノコやって来た得物だなどとは捉えていない。


 全力で相対すべき挑戦者。


 ドラゴンはバサッ! と背中の大きな両翼を広げると――――


「グオオォオオオオオッ!!」


 大気を震撼させる咆哮を轟かせた。


 それは開幕の方向であり、鼓舞する咆哮であり、挑戦者を歓迎する咆哮。


 斜面を滑り降りていた瑠奈はそんなドラゴンの覇気を全身にビリビリと感じ、口許の笑みを深くし、金色の瞳の輝きを増した。


 そして、充分な加速が得られたと判断したクレーターの斜面の中腹を過ぎた辺りで、スキージャンプの要領で跳躍。


 グゥン! という推進力に背を押されながら、瑠奈が宙を駆ける。


 それを迎え撃たんと、後ろ脚で直立したドラゴンが一歩踏み込みながら右翼を振り払ってくる。


 翼の関節部分には物騒な爪があり、そこらの岩など木っ端微塵に出来るだろう。


 しかし――――


「あはっ、当たらないよっ!」


 ドラゴンの右翼の爪は的確に瑠奈の跳躍の軌道を捉えたが、瑠奈は直撃する寸前で大鎌を振って爪に当て、その反作用で僅かに身体を浮き上がらせた。


 前転跳躍しながら回避した瑠奈。

 未だ振り払われ続けている右翼を足場にして着地し、その上を疾走する。


 人間にとって――その中でも小柄な方である瑠奈にとって、ビルのような巨体を誇るドラゴンは、間近で見れば大地も同然だった。


「じゃ、このまま一撃目――」


 翼の上を駆けながら、瑠奈が大鎌から鎖を飛ばす。

 鎖は狙い違わずドラゴンの首の後ろのいくつかある突起部分の一つに巻き付いた。


「――もらおうかなっ!!」


 瑠奈はすぐさま鎖を収縮させ、自分の身体をドラゴンの後ろ首に誘導する。


 ドラゴンも瑠奈の狙いを理解して振り解こうと身体を大きく揺らすが、既に鎖はしっかり固定されていて外れない。


「《バーニング・オブ・リコリス》ッ!!」


 シュバッ! と深紅の焔が大鎌の刃に纏う。

 宙に赤い軌跡を引きながら、瑠奈は大鎌を引き絞り、後ろ首に肉薄した瞬間に――――


 ズバァアアアンッ!!


 右斜め上から振り下ろして一閃。

 斬り掛かった箇所を中心に炎が放射状に迸り、彼岸花のような紋様を描き出して爆発。


 しかし…………


「あ、あっはは……! これがAランクモンスターかぁ……!」


 瑠奈は斬撃痕の浅さに思わず苦笑を溢した。


 決して軽い一撃ではなかった。

 大鎌の切れ味も、存分にヒヒイロカネの切断性を発揮している。

 スキルも、そこらのBランクモンスターであれば一撃で葬り去れる威力を誇る。


 それでも、浅い。


 ドラゴンの巨体に対して、あまりにも浅い。


 確かにスキルの爆発によって、多少ドラゴンの身体を揺することは出来たが、致命傷には程遠い結果となった。


 本当であればもう一撃喰らわせたいところではあったが、流石にそう何度も同じ攻撃を許してくれる相手ではない。


 瑠奈は一度地面に降りて仕切り直すことにした。


 距離を取れば、身体が大きなドラゴンの間合いのため不利になる。

 動きを止めても巨体で圧し潰されかねない。


 それらを踏まえて、瑠奈はドラゴンの周りを回るように走り続け、次の一撃を入れるタイミングを見定める。


 それを見たドラゴンは直立を止めて前脚を地面につけると、駆け回る瑠奈を捉えようと巨体を動かす。


 瑠奈は頭上から踏み潰そうと降ってくる後ろ脚を前方に転がるようにして躱し、続けて地面の岩肌ごと削りながら迫る前腕の爪を、大きく跳躍して回避。


 飛び上がったところを、ドラゴンがグワッと開け広げた咢で突っ込んでくるので、透かさず鎖を飛ばして手頃な岩に結び付け、ワイヤーアクション染みた軌道で逃げる。


 そんな瑠奈の戦いっぷりに、コメント欄も熱を帯びる――――



○コメント○

『戦えてる……!!』

『ドラゴンの動きしっかり見えてる!』

『流石ルーナたん!』

『ちゃんと躱せてるの凄すぎる……』

『正直ルーナの攻撃あんま効いてないけど、ルーナもドラゴンの攻撃躱せてるし……ワンチャン、あるか……?』

 …………



 瑠奈への応援の声が続々とコメント欄を埋め尽くしていく。


 イヤホンのAR機能で視界の端に映し出されるそんな声援の内容を一つ一つ読んでいる余裕は今の瑠奈にはないが、それでも想いは確実に届いていた。


 確かに瑠奈はソロだ。

 しかし、孤独ではない。

 配信を見て、応援をしてくれる人々が大勢いる。


「期待には応えなくっちゃねっ!」


 そう言って瑠奈はニッと笑うと、ドラゴンの側面を取って急停止。

 大鎌の柄を両手で強く握り締め、腰を低く落として構えた。


「《狂花爛漫》……!!」


 ブワァアアア! と瑠奈の全身から可視化された赤いオーラが噴き出した。

 肉体強度やあらゆる身体能力が昇華され、先程の一撃より更に重たい斬撃を脳裏に描いて準備する。


 が、そのとき――――


「っ、つぁ……!?」


 バシュッ、と瑠奈の身体を纏っていたオーラが霧散する。

 白目を向いて身体を仰け反らせる瑠奈。


 半瞬遅れて、ダァアアアアアアアンッ!! と大気が爆発するような轟音が鳴り響いた。


 瑠奈を含め、視聴者の誰もがこの一瞬にして唖然とした。

 一体何が起きたのだ、と。

 

 瑠奈が視認したのはドラゴンの長い尻尾。

 それがこちらに向かって勢い良くうねったのは見えていた。


 恐らく尻尾による打撃攻撃だろうと思っていたが、攻撃が到達する前に動き出せる予定だったので無視していた。


 その上、尻尾の先端は瑠奈の前方の離れたところでビュンとしなって空を切り、結局攻撃そのものが瑠奈の場所まで届かなかった。


 ――と、いう認識が根本から間違っていたのだ。


 最初からドラゴンの狙いは、尻尾で直接瑠奈を叩くことではなかった。


 まさしくムチ。

 巨大で長い尻尾をしならせて振るったその先端は音の壁を突き破り、ソニックブームを生じさせた。


 それは不可視の衝撃波。

 攻撃のための構えを取っていた瑠奈に直撃し、身体の内部から組織を破壊するような一撃となった。


 幸い《狂花爛漫》で肉体強度を昇華させていたため、身体が肉片となって四散するという事態には至らなかったが、それでも瑠奈の脳を激しく揺さぶり、意識を一瞬飛ばすには充分すぎる威力だった。


「あ、あは……やばっ……」


 半ば気合と根性で意識だけはすぐに取り戻した瑠奈だったが、脳震盪の影響は収まらない。


 平衡感覚を失い、四肢を動かす神経が充分に働かず、大鎌を杖にして立っていることすら出来ずに、その場で膝をつく。


 そして、ドラゴンはそんな状態の瑠奈をみすみす見逃してやるわけもなく…………


 チッ、チッ……と舌打ちの音を響かせる。


 その嫌な音はこの場所に辿り着く前にワイバーンとの戦いで聞いた――ブレスを放射する予備動作のものだ。


 ただ、ブレスと一括りにしてもその威力は桁違いだろう。


 Bランクモンスターのブレスはドレスの優秀な耐火性能のお陰で、軽い火傷を負う程度で済んだ。


 しかし、流石にAランクモンスターである【ヴォルカニック・フレイムドラゴン】のブレスともなれば、火傷などで済まされるとは思えない。


 一撃で消し炭になっても、誰も不思議に思わないだろう。


(さ、流石に直撃はヤバい……! どうする……!?)


 瑠奈は揺れる脳を必死に回転させて打開策を思案するが、ドラゴンのタンギングの音が最期の時を告げるカウントダウンを刻むようにチッ、チッ……と響く。


 そして――――


 シュバッ……ボアオォォオオオオオオオオオオオウッ!!!!

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