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第63話 Aランクモンスターの威容

 赤竜五体の群れを討伐した瑠奈は、その後もAランクダンジョンを進み続けていた。


 これまで経験してきたBランクダンジョンとは比較にならないハイペースで次から次へと襲い掛かってくるモンスターらを退けながら山道を登っていく。


 何度か洞窟を経由しながらも、着実に瑠奈は連なる山脈の形をしたダンジョンを登り進み、やがて――――


「あ、見て見てみんなぁ~! 探索者レベルが上がったよ~!」



――――――――――――――――――――


◇ステータス情報◇


【早乙女瑠奈】Lv.58(↑Lv.1)


・探索者ランク:B


・保有経験値 :0

(レベルアップまであと、5800)


・魔力容量  :815(↑5)


《スキル》

○《バーニング・オブ・リコリス》(固有)

・消費魔力量:250

・威力   :準二級

・対単数攻撃用スキル。攻撃時に深紅の焔を伴い、攻撃箇所を起点として炎が迸り爆発。噴き上がる炎の様子は彼岸花に似ている。


○《狂花爛漫》(固有)

・消費魔力量:毎秒10

・威力   :二級

・自己強化スキル。発動時全身に赤いオーラを纏い、身体能力・肉体強度・動体視力などの本来持ちうる能力を大幅に強化する。強化量探索者レベル+10相当。


――――――――――――――――――――



 山頂が見えてきたかというところで現れたトカゲ型のCランクモンスターを倒したタイミングで、保有経験値量が上限に達して探索者レベルが上昇した。


 その嬉しさから瑠奈は、自身のステータスを同接数五万人に達した視聴者らに見せるが、得られた反応はと言うと――――



○コメント○

『違う……何もかもが違う……』

『あれ、レベルアップって普通は嬉しいはずなのに何でだろう』

『素直に喜べねぇ……w』

『Lv.58……いや、凄く頑張ってると思うけどさ?』

『普通そのレベル帯って、Bランク探索者の中堅って感じだよなw』

『改めて、このレベルの探索者がAランクダンジョンをソロで攻略しようとしていることの恐ろしさに気付いた』

 …………



 瑠奈の喜びとは裏腹に、視聴者らの反応は微妙だった。


 それもそのはずで、まずBランク探索者がAランクダンジョンをソロ探索というのが異常。


 何のためにギルドによって探索者とダンジョンの難易度にランクが付けられてるかと言えば、両方のランクを見比べることによって自分に適したダンジョン探索を可能にするためだ。


 瑠奈のチャンネルの視聴者はもはや瑠奈の価値観に慣れ過ぎていて麻痺しているが、常識で考えれば、本来探索はBランク探索者がパーティーを組んでBランクダンジョンに行くというものだ。


 それがAランクダンジョンともなれば、もちろんパーティーはAランク探索者らで構成されたもの。


 人数が多ければパーティーの中に少数名Bランク探索者が加わることもあるが、Aランク探索者ですらパーティーを組むAランクダンジョンを、Bランク探索者がたった一人で探索するというのは自殺行為にも等しい。


 ゆえに、視聴者らは本来喜べるはずのレベルアップにもかかわらず、微々たるレベルアップの恩恵だとしても、ほんの僅かにでも瑠奈のステータスが上昇して生存確率がコンマ数パーセント上がったことに安堵するしか出来ないのだ。


 だが、瑠奈はそんな視聴者達の不安や心配など汲み取ることもせず、イキイキとした表情で山道の先を見詰める。


「よしっ、順調順調! 山頂はもう見えてるし、この調子で行っちゃおう!」


 大鎌を肩に担ぎ、気楽な足取りで歩いていく。


 その頂までの距離が、百メートル……五十メートル……二十五メートル、十メートルとみるみる縮まっていく。


 やがて――――


「わぁぁ……!!」


 瑠奈は感嘆の音を溢した。


 眼下に広がる巨大なクレーター。

 そう、山頂は半球状に抉れており、一種のフィールドとなっていたのだ。


 クレーターの傾斜は大きく、一度下に降りてしまえば再び上がって来るのに少し苦労を要するだろう。


 だが、それも外部から妨害が入らない状況でだ。

 少なくとも、クレーターの中央に圧倒的存在感を放って鎮座しているモンスターを相手にしながら、途中で逃げるというのは不可能。


「……あはっ……あっはは……! あれが、Aランクモンスターなんだね……!」


 これ以上ないというくらいに見開かれる瑠奈の金色の瞳。

 身体の奥底から溢れ出てくる感動は、口許の緩みを我慢させない。


 Aランクモンスター【ヴォルカニック・フレイムドラゴン】。


 その名の通り噴火した火山を体現するかのようなドラゴン。

 体長は優にそこらのビルを超す巨体で、雄々しく噴き上がる溶岩と炎を描き出すような色の鱗を纏っている。


 後ろ脚はその巨躯でも短時間の直立なら可能にしそうなほどしっかりしており、腕とも表現出来そうな前脚には、鉄など紙同然に斬り裂くだろう鋭い爪。背からは決して飾りでとどまらない立派な翼が一対生えている。



○コメント○

『本気で止めとけ』

『流石に冗談じゃない!』

『ルーナちゃんでも無理!』

『ここで引き返すべき!』

『荒海に飛び込む方が生存率高そう……』

『アレは駄目。マジで駄目』

『レイド組んで討伐するようなモンスターだって!』

『今まで奇跡を起こしてきたルーナちゃんでも、流石に無謀!』

『ルーナちゃん好きだから死んでほしくない!』

『死にに行くのだけは勘弁して!!』

 …………



 コメント欄に撤退を促す意見が続々と流れる。

 冗談でも『行ってみろ』などと背中を押すような声はなく、これ以上は立ち入らないでと警告する切実な願いで埋め尽くされていた。


 そんな視聴者の言葉の川の流れを見詰め、瑠奈はしばらく立ち止まる。


 その様子に、流石に引き返してくれるかとどこかで期待する視聴者も出てくる。


 瑠奈は見た、眺めた、ひたすら読んだ。

 流れてくる制止のコメントの全てに目を通した。


 そして、長い沈黙を経てからフッと柔らかい笑みを溢して頷いた。


「みんな、ありがとうね。こんなに心配されるなんて、愛されてる証拠だよね~」


 瑠奈があまりにも緊張感を感じさせない笑顔を見せるものだから、視聴者らは『その通り!』『愛してるから無謀なことはやめて!』『引き返してくれるよね!』とあと一押しで説得出来ると思い、ここぞとばかりに制止を促す。


 だが、瑠奈は――――


「でもゴメンねっ! ワタシは引かない。ここで逃げたら、ワタシ自身がワタシの可愛さは最強じゃないと証明することになる」


 可愛いは正義。

 可愛いは最強。

 神聖不可侵にして、至高の概念。


 ここでAランクモンスターを前にして逃げ帰れば、それが間違っていると公言するようなものだ。


 可愛いという概念の使徒である瑠奈に、そんなことは出来ない。


「相手が自分より強いからとか、戦ったら負けるからとか死ぬからとか……残念だけどそれは、ワタシが逃げる理由にはなり得ないよ」


 瑠奈は肩に担いでいた大鎌を右手に持ち、シュッと前方に――クレーターの中央に居座るAランクモンスターへと向ける。


「生存本能が逃げろと鳴いている。でも……魂が、意志が、身体が戦えと叫んでいる……」


 ニッ、と瑠奈の口角が持ち上がった。


「みんなに聞くよ。ワタシとあのドラゴン……どっちが可愛い?」



○コメント○

『……嘘は吐けねぇ。ルーナ』

『ルーナちゃん……』

『ルーナ!!』

『そりゃ、ルーナちゃんだけど……!』

『ドラゴンって言えば、引き返してくれるのか……?』

『↑聞くまでもないよ……』

『↑嘘言ってもわかるもんな……』

『くっ……ルーナたんっ!!』

『ルゥウウウナァアアア!!』

『ルーナちゃんが最高に可愛い!』

『ルーナちゃんより可愛いものはない!』

 …………



「あはっ、でしょでしょ? じゃあ安心だよね!」


 ビュゴォ……! と吹き抜ける突風が、瑠奈のドレスをはためかせ、薄桃色の髪をなびかせた。


「可愛いは正義で、最強で、神聖不可侵にして至高な存在! だからっ、アイツより可愛いワタシは負けないよっ!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 勝って可愛さを証明するか、負けて不細工を証明するかかな?
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