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第60話 Aランクの扉

◇ステータス情報◇


【早乙女瑠奈】Lv.57(↑Lv.2)


・探索者ランク:B


・保有経験値 :1700

(レベルアップまであと、5000)


・魔力容量  :810(↑10)


《スキル》

○《バーニング・オブ・リコリス》(固有)

・消費魔力量:250

・威力   :準二級

・対単数攻撃用スキル。攻撃時に深紅の焔を伴い、攻撃箇所を起点として炎が迸り爆発。噴き上がる炎の様子は彼岸花に似ている。


○《狂花爛漫》(固有)

・消費魔力量:毎秒10

・威力   :二級

・自己強化スキル。発動時全身に赤いオーラを纏い、身体能力・肉体強度・動体視力などの本来持ちうる能力を大幅に強化する。強化量探索者レベル+10相当。


――――――――――――――――――――



 月日は流れた――――


 夏の暑さが厳しくなる中、六月中旬に行われた高校の体育祭で最も盛り上がりを見せたのは。なんと応援合戦。


 探索者としてもモデルとしても活躍しスクールカーストの頂点に君臨する美少女である瑠奈のチアリーダー姿を見て、主に男子生徒から大歓声。


 ちなみに瑠奈は赤組の応援であったが、白組の生徒もお構いなしに歓喜の声を轟かせていた。


 そして、七月上旬の期末テストが終わり、()()()()はすぐにやって来た。


 ――そう。夏休みである。


 大量の夏季休暇課題があるという点を除けば、青春を謳歌する絶好の機会。


 野郎だけで行く海水浴などただただ暑苦しいだけ。

 恐る恐る女子生徒に誘いをかける男子生徒もいれば、それを気恥ずかしくも折角だからと了承する女子生徒もいるだろう。


 しかし、瑠奈の青春はそこにない。


 海派ではないから?

 夏と言えば山と叫ぶ人種だから?


 否。断じて、否だ。


 瑠奈は海派でも山派でもなく――――



 LIVE――――


「やってきました、Aランクダンジョ~ン!!」


 瑠奈はダンジョン派。

 もはや誰も驚いてはくれない周知の事実だった。


「みんなっ、夏休みエンジョイしてるかな~? って、エンジョイしてる人は配信なんて見てないか~。ここに集まった視聴者のみんなは、寂しい夏を過ごす者達だもんね~」


 すでに場所はAランクダンジョン内。


 一切の事前告知なしで開始されたゲリラ配信にもかかわらず、イヤホン型ガジェットのAR機能が瑠奈の視界の端に映す同時接続数は、百、五百、千、二千……とみるみる増えていっていた。



○コメント○

『突然何の配信かと思ったら、ヤバすぎ』

『ハイキング気分でAランクダンジョンに行くなw』

『ってか、開幕早々辛辣で草』

『↑でも否定できない自分が悔しい』

『↑同じくwww』

『切れ味のエグさは大鎌だけじゃないってか』

『誰が上手いこと言えとw』

『いや、ソロでAランクダンジョン潜ってるBランク探索者の配信を見て談笑してられる視聴者の方が怖いわ……』

『↑君もすぐにこっち側の人間になれるよ』

 …………



 そんな具合にコメント欄も盛り上がりを見せている。


「あはは、寂しい者達がたくさん集まってきたねぇ~? でも、安心してよ! このルーナちゃんがみんなを一人にはさせないよ!」


 ポン、と皆の寂しさを払拭するように胸を叩いてみせた瑠奈だが、コメントには『ルーナちゃんはソロだけどねw』『俺達は何千人も仲間がいるけどw』などとツッコミが流れていた。


 同時接続数も増え、コメント欄も温まってきたところで、瑠奈は「さて、と……」と話を切り替えるように視線を後方へとやった。


 足場は強固で岩がゴロゴロ。

 強い風がビュウビュウと吹き付けてくるこの場所は、岩山が連なった山脈といったところ。


 山道の幅は様々で、充分な広さが確保された場所だけでなく、強風に足元をすくわれれば深淵へ真っ逆さまというところもある。


 また、道は無数に枝分かれしており、岩山を掘り進めたかのような洞窟を通らなければならない場合も多い。


 そんな見慣れぬダンジョン風景に、待ち受けているであろうまだ見ぬモンスターに思いを馳せ、瑠奈は笑みを隠し切れずにいた。


「みんな、準備は良いかなっ!? ワタシの初めてのAランクダンジョン探索LIVE配信……スタート!!」



◇◆◇



「――あっは! モンスターの量ヤバいねっ!?」


 比較的モンスターとの遭遇が少ないまま安全に山道を進んでいた瑠奈であったが、岩山を貫いて登っていくような洞窟に足を踏み入れてからは、絶え間なくモンスターに追われることになっていた。


 ついさっき、コウモリ型のCランクモンスターの大群を一掃したばかりだというのに、その戦闘音を聞きつけたのか今度はゴブリンの群れが襲い掛かってきた。


 前衛には防具と研がれた武器を手にする【ゴブリン・ナイト】が軽く十体。後衛には杖を構える【ゴブリン・シャーマン】が五、六体。


 それぞれCランクモンスターで個々の戦闘能力は大したことないが、連携してくるのが厄介。


 とはいえ、今の瑠奈の敵ではなかった――――


「あはっ! あはははははっ!!」


 前から飛び込んできた三体のナイトをまとめて横薙ぎに斬り裂く。


 どす黒く粘性のある血が散華する中、後続のナイトを一体は回し蹴りで壁にめり込ませて始末し、左右から囲い込もうとしてくる四、五体は大鎌を円周に振り抜いて斬り飛ばした。


 そこへ――――


 シュドドドドドォオンッ!!


 後衛に構えていたシャーマンらが一斉に火球を放ってきた。

 緩い放物線を描くようにして飛来したそれらを、瑠奈は連続でバク転。後退して躱す。


「こほっ、こほっ……ねぇ君達さぁ、酸素って知ってるぅ? こんな密閉空間で火起こすとか、お馬鹿なのかなぁ~?」


 グッと体勢を低く構えていた瑠奈が一気に地面を蹴り出し、身体の輪郭を霞ませる。


 狙いは遠距離攻撃が厄介なシャーマン。


 しかし、行く手を阻むように身体を刺し込んできたのは【ゴブリン・ジェネラル】――Bランクモンスターだ。


 瑠奈が初めて見たBランク探索者昇格試験場での【ゴブリン・ジェネラル】の得物は巨大な鉈だったが、この個体は並々ならない質量を持つ大槌を携えている。


 進行方向にそんな相手が構える。


 それを見た瑠奈はニッと笑って――――


「はいはい順番は守ろうねぇ~」


 ダッ、ダッ、ダッ――と洞窟の壁面を足場にして身軽に跳躍するように駆け、大きな体躯の【ゴブリン・ジェネラル】を通り抜けると、そのまま狙い通り【ゴブリン・シャーマン】を鎧袖一触。


 やがて黒い塵となって消えていく屍と血溜まりから視線を外し、振り返る。


「はい、次は君の番ねっ!」

「グエァァアアアアアッ!!」


 重たい足音と雄叫びを響かせながら向かってくる【ゴブリン・ジェネラル】。


 先程自分の口から【ゴブリン・シャーマン】へ言った言葉すら忘れたのか、瑠奈は大鎌の刃にシュバッ! と深紅の焔を灯した。


 燃える大鎌を携えてその場を動かず、襲い掛かってくるジェネラルを迎え撃つ構えを取る。


 そして――――


「グオアァアアアアアッ!!!」

「あはっ!!」


 ダァン! と力強い踏み込みから、ジェネラルが大槌を振り下ろしてくる。


 その大きな体躯と大槌の質量から繰り出される一撃は、直撃すれば瑠奈とて重傷を免れない。


 そんな攻撃に対し、金色の瞳に鋭利な眼光を灯した瑠奈は――――


「《バーニング・オブ――」


 真っ向から大鎌をぶつけた。

 ガキィィィ――と、一瞬威力を相殺し合うかのような金属音が響いた。


 しかし、燃える大鎌の刃はジェネラルの大槌――その分厚い金属の塊に切れ込みを入れ、そのまま刃を滑り込ませていき、次の瞬間にはスパン! と切断してしまった。


 目を見開くジェネラル。

 狙い通りとばかりに口角を吊り上げる瑠奈。


 そして――――


「――リコリス》ッ!!」


 大槌を斬り裂いた勢いを殺さずその場で舞うように一回転した瑠奈が、緋色の刃でジェネラルを一刀両断。


 そのまま滑るように背後へ回り、振り向くこともなく、ただジェネラルが深紅の炎に焦がされる音を聞いた――――



○コメント○

『酸素って知ってる?w』

『酸素草』

『ブーメランも重量級www』

『超特大ブーメランで草』

『さっき自分でシャーマンにお馬鹿とか言ってたのにw』

『燃えてる燃えてるw』

『ブーメランO₂(乙)~』

『↑うっまwww』

『↑座布団一枚w』

『↑天才か?』

 …………

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 >ハイキング寄付金でAランクに まぁ劇中の瑠奈ちゃんの台詞を引用するなら、ダンジョン探索こそが瑠奈ちゃんの青春ですからね…。そこにバトルジャンキー成分をトッピング(?…
[一言] ブーメランO2は天才
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