第43話 美少女クリスマス計画?
「はぁい、撮影お疲れ様~!」
「ありがとうございます。お疲れさまでした~」
「失礼いたしますわ」
十二月中旬。
高校でも冬休みを控えたこの時期には、瑠奈はもうすっかり探索者モデルとしての仕事にも慣れていた。
今日はアリサと共に、同じデザインで色違いの装備を着用しての撮影だったが、それも今終わった。
「それにしても瑠奈ちゃん。最近モデルの方のお仕事も増えているようですけど、配信活動との両立大変じゃありませんの?」
撮影からの帰り道、アリサが少し心配そうに眉を寄せて尋ねてきたので、瑠奈はにこやかに笑って首を横に振った。
「ううん、全然だよ。モデルの仕事も増えたって言ってもアリサちゃんほどじゃないし、動画は単に私が好き勝手ダンジョンで探索してる様子を撮って投稿してるだけだから~」
あぁ、でも……と、瑠奈が一つ困ったことを思い出したかのように手で顎を擦った。
「最近LIVE配信出来てないんだよねぇ~。良いネタがないって言うか……」
別に普段の探索の様子をLIVE配信しても良いのだが、それだと最低三日に一回は投稿している普通の動画と何も変わらなくなってしまう。
もちろん同じ探索の様子でも、LIVE配信をすればリアルタイムで視聴者達が盛り上がることが出来て良いのだが、毎度毎度それをやるのも芸がない。
実際、動画撮影よりもネタを考える方が大変なのである。
瑠奈が悩んでいると、隣を歩くアリサも一緒に考え始める。
そのまましばらく「そうですわねぇ……」と声を漏らしながら腕を組んでいたが、何か思い付いたようにパチン! と指を鳴らした。
「コラボ動画とかどうですの!?」
「あぁ、なるほど。コラボ……良いかも……」
他のダンジョン探索配信者達でもコラボ動画を投稿している人は多くいるので、瑠奈もそろそろ誰かとコラボしても良いのかもしれない。
しかし、そうなると問題があり…………
「でも、ワタシ他の配信者と関わりないから、ちょっと難しい気もするんだよねぇ……」
「何を言っているんですの! コラボ相手なら身近にいますでしょ!」
えっ、と瑠奈は驚き、自分の周囲の人間について考える。
鈴音はコラボ相手というよりも友達だし、凪沙はSランク探索者で注目度も話題性も高いがギルドからの依頼などで忙しいだろう。
その他瑠奈の周りの人間といえば学校の友達などになるが、探索者ではないためダンジョンには入れない。論外だ。
瑠奈がなかなか思い至らないことに焦れったさを募らせたアリサが、ピタッと足を止めた。そして、自分の胸を強く叩いて言う。
「ここにいますでしょ!?」
「ここに……って、えぇえええ!? アリサちゃん!?」
「他に誰がいますの……」
どうして思い付かないんですの、とでも言いたそうに半目を向けてくるアリサに、瑠奈は目を丸くして言う。
「い、いや……でも、アリサちゃんは知らない人はいないってくらい超有名モデルだよ? そんな人とコラボなんて……」
「何を気負っていますの。既に何度か私と一緒にファッション雑誌の表紙を飾った仲ではありませんの」
それに――と、アリサはどこか楽しそうに口許を綻ばせながら続けた。
「前々から瑠奈ちゃんのチャンネルには出てみたいと思っていましたの。ですから、丁度良い機会ですわ」
「えっ、ホントに? ホントに出てくれるの?」
「私に二言はありませんわ!」
おぉ、と瑠奈は金色の瞳を期待に光らせた。
ダンジョン・フロートでその名前を知らない人を探す方が大変な超有名モデルであるアリサがコラボしてくれれば、動画がバズることは間違いなし。
もうすぐ十万人に届きそうなチャンネル登録者数も、それで確実に達成できるだろう。
「ありがとうアリサちゃん!」
「ふふん。この私の名前、存分に使うと良いですわ!」
「あっ、でもどうせなら……!」
瑠奈はとあるアイディアが脳裏に過り、すぐさまスマホを取り出して手早く操作。ある人物に連絡を取り付けた。
「もしも~し。ねね、今から時間ある?」
◇◆◇
「――は、初めまして。私、向坂鈴音です」
「初めましてですわ。一色アリサですの。気軽にアリサと呼んでくださいな」
瑠奈が連絡を取った相手とは、鈴音であった。
手頃なファミレスで合流し、瑠奈の隣に鈴音、その対面にアリサといった風にテーブルを囲っている。
「それにしても……まさか、アリサさんにお会いできる日が来るなんて……」
「ふふん、喜んでいただけたようで何よりですわ」
最初はアリサを前にして鈴音も緊張している様子だったが、他愛ない会話を重ねていくうち、徐々にそれもなくなっていった。
頃合いを見て、瑠奈が話を切り出す。
「それでね、鈴音ちゃんに来てもらったワケなんだけどさ。さっきワタシとアリサちゃんでコラボ配信しようって言う話をしてて、そこで良かったら鈴音ちゃんも出てくれないかな~、って思ったんだ~」
「えぇっ、私がですか!?」
ファミレスに来る途中で瑠奈の考えを聞かされているアリサは優雅にドリンクバーのアイスティーを嗜んでいるが、初耳の鈴音は素っ頓狂な声を上げた。
「ほら、もうすぐクリスマスでしょ? そこで、アリサちゃんの伝手で可愛い衣装を手に入れてもらって、私達でクリスマスダンジョン探索しようと思って」
「か、可愛い衣装を着てダンジョン探索……?」
「そう!」
「えぇっと、それでどうして私が……?」
瑠奈は日頃から可愛いゴシックドレス風の装備と大鎌を持って探索しているし、アリサは語るまでもなくどんな衣装でも似合う。
可愛い衣装を着てダンジョン探索するなら、瑠奈とアリサの二人で充分なはずだ。
しかし、瑠奈は首を横に振った。
そして、真面目な顔で鈴音に語る。
「いい? 鈴音ちゃん」
「は、はい?」
「ワタシもアリサちゃんも美少女なの」
「……自分で言っちゃうところが、やっぱり瑠奈先輩ですよね」
「でも、タイプが違うんだよ」
瑠奈は自分の胸にポンと手を当てて言う。
「ワタシは可愛い系美少女」
次にその手をテーブルを挟んで対面に座る亜理紗に向ける。
「アリサちゃんはお嬢様&セクシー系」
「えっ、私セクシー系でしたの?」
不思議そうに目を瞬かせる亜理紗に構わず、瑠奈は深刻そうな表情を浮かべた。
「でもね、足りないんだよ。この二人だけじゃ、足りないものがある!」
「そ、それが私……?」
「その通り! 正統派美少女が足りない!」
「……っ!?」
カァ、と顔を真っ赤に染め上げる鈴音。
「ワタシとアリサちゃんだけじゃ、ちょっと属性に偏りがあるって言うか何と言うか……こってりこてこて豚骨ラーメンみたいな?」
「すみません。ちょっと何言ってるのか……」
「美味しいけど、胸焼けするって感じ!」
「な、なるほど……?」
「だから、鈴音ちゃんという正統派美少女を入れることによって、場を調和する必要があるんだよ!」
瑠奈の熱弁を受けた鈴音はチラリとアリサの方へ視線を向けてみるが、どうやらアリサも話の半分も理解出来ていないようで、肩を竦めて見せる。
鈴音がどう返答したらよいものか戸惑っていると、それに気付いた瑠奈が少ししょんぼりした表情で言う。
「ま、まぁ、無理にとは言わないよ? 色んな理由はあるけど、結局は、さ……」
瑠奈は照れを隠すようにはにかんだ。
「単にワタシが、鈴音ちゃんもいて欲しいなって思っただけだしさ」
「る、瑠奈先輩……」
青みを帯びた鈴音の黒い眼が揺れる。
そして、クスッと小さな笑みを溢した。
「んもぅ、最初からそう言ってくれたらいいのに」
「え?」
「わかりました、良いですよ。私も出ます」
「な、何で急にオッケーに……?」
「それは、まぁ……」
鈴音は色付く頬を隠せぬままに、呟くように答えた。
「瑠奈先輩が、私を必要としてくれるのが嬉しかったから……ですかね……?」
そんな二人のやり取りを見て、アリサはピカッ! と脳内に何かを閃かせた。
(むむっ、この二人もしかして……私の好物の予感……ですかしら!?)




