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第42話 ダンジョン探索モデル配信者!?

 一ヶ月後の十一月上旬。

 とある探索者ファッション雑誌が注目を浴びた。


 表紙を飾るのはもちろん、ダンジョン・フロートの有名探索者モデルである一色アリサ……だけではなかった。

 そんな彼女と背中を預けるような構図でもう一人少女が映っていた。


 そう。話題沸騰中のダンジョン探索配信者ルーナこと、早乙女瑠奈である。


 チャンネル登録者数十万人目前。

 Sランク探索者【剣翼】の記録を更新した歴代最速のBランク探索者昇格試験合格者。


 そんな瑠奈がアリサと共に表紙を飾っていれば、話題になるのは当然のことであった。


 瑠奈の『アリサちゃんと一緒に写真撮ったよ』というSNSの投稿には数多くの驚きのコメントが寄せられた。



○コメント○

『マジか!?』

『ルーナとアリサの夢のコラボ!?』

『世界観が崩壊する……!』

『えっ、ルーナちゃんが雑誌に載ってる!?』

『モデルデビューか!』

『すげぇwww』

『もちろん買ったよルーナたぁあああん!!』

 …………



 また、ダンジョン探索配信者として自身の戦いぶりを周知させたために恐れられていた瑠奈だったが、モデルデビューを切っ掛けに学校での扱われ方も変わった。


「瑠奈ちゃん瑠奈ちゃん! これ見たよ~!」

「私も思わず買っちゃったよ~!」

「ねっ! まさかあの一色アリサと映ってるなんて!」

「瑠奈ちゃん超可愛い~」


「もぅ、本人の前で見ないでよ恥ずかしい~」


 休み時間。

 瑠奈の机に瑠奈がモデルとして映っている雑誌が広げられ、その周囲にクラスメイト達が集まっていた。


 瑠奈としては久し振りの光景だ。

 転生してから小・中・高校と愛想を振りまいてチヤホヤされまくっていたのに、配信内容の何がいけなかったのか、しばらくぎこちない人間関係が続いていた。


 しかし、やはり印象は新たな印象によって上書きできるということなのだろう。


(あぁ~、コレだよコレ! ワタシの承認欲求が満たされるっ!)


 瑠奈は表面上褒められて照れている様を演じながら、実のところ甘美なひと時に胸一杯になっていた。


「ねね、また瑠奈ちゃんの写真出たりするの?」

「あ、うん。プロデューサーさんと、もう次の撮影の話してるよ」


 瑠奈がそう答えると、集まっている生徒達が「すご!」「プロだぁ……」と口許を押さえたり目を見開いたりと、各々の反応を見せる。


 そんなとき、瑠奈は机の横に掛けてあるカバンの中でスマホが着信のバイブレーションをしたのに気付いた。


(あっ……鈴音ちゃんだ)


 瑠奈は皆に「ゴメンちょっと外すね」と断って、スマホを片手に教室を出る。


 別に誰かに見られたらいけない話題をするつもりもないのだが、出来ることなら静かなところが良い。


 そう考えて瑠奈は教室を後にすると、本校舎と特別棟を繋ぐ二階の渡り廊下に出た。


 壁に背を預けてスマホの画面を開き、鈴音から送られてきていたメッセージを確認する。


『瑠奈先輩、雑誌買いました!』

『まさかあの有名モデル一色アリサさんと表紙を飾るなんて』

『凄いですね!』

『チャイナドレス装備もとても似合ってましたし』

『……ちょっと素肌成分が多すぎる気もしましたが』


(わぁ、鈴音ちゃん本当に雑誌買ってくれたんだ……)


 瑠奈はメッセージが映し出された画面を見てクスッと微笑みながら、返信すべくキーボードを開いた。


『ありがとう鈴音ちゃん!』

『生で見るアリサちゃん、めっちゃ美人でびっくりしたよw』

『あとチャイナドレスね、伸縮性に富んだ素材で作られてて意外と動きやすかったよ』


 そう返信すると、ものの数秒で既読が付いた。

 授業間の休みはそう長くないが、恐らくすぐにまた鈴音からメッセージが返ってくるだろうと思って瑠奈はスマホを眺めて待つことにした。


 すると、案の定鈴音から再度メッセージ。


『し、伸縮性。確かに大切ですが……』

『流石は瑠奈先輩、といった感じですね』


(ど、どういう意味だろう……?)


 瑠奈は疑問の意味を持つ可愛らしいスタンプを送ってみるが、鈴音はグッとサムズアップのスタンプを返してくるのみ。


 含みのあるメッセージではあるが、鈴音に限って嫌味などでは決してないとわかっているので、また直接会ったときにでも聞いてみようと瑠奈は決めた。


 鈴音とのやり取りを終え、瑠奈は教室に戻ろうとする。

 渡り廊下への出入り口であるスライド式の扉を開けて、そのまま教室へ――――


「――うっわ、可愛すぎ」

「なっ? なっ? 言っただろ!?」


 ――と思ったが、ふと妙に気になる男子生徒らの会話が聞こえてきた。本校舎端にあるあまり利用者の多くない階段。その一階と二階の間の踊り場からだ。


 瑠奈は不自然に思われない程度に足音と気配を消して、二階から見下ろせる位置に立つ。


 もちろん不用意にガン見したりしない。

 何気なく廊下の壁にもたれて立っているようにして、意識を踊場へ向けるだけ。


「あぁ~、俺も一組だったら平日は毎日瑠奈ちゃんと同じ空気吸えてたのに~!」

「ばっか。そのためにこの雑誌があるんだろうが。これは、誰でも毎日瑠奈ちゃんを見ることが出来るようになる救済措置だよ!」


 やはり瑠奈が乗っている探索者ファッション雑誌についての話題だったようで、三人の他クラス男子がどこか興奮気味に語っている。


「ってか、もっと見せろ!」

「お前も買えば良いだろ?」

「もちろん買うけど、折角今お前のがあるんだから読ませろよ」

「しゃあねぇなぁ~」


 ペラペラとページを捲る音が聞こえる。


「つぁ~、このアングル最高過ぎるだろ……」

「……エロいよな」

「最高にエロい」

「チャイナドレスのスリットから太腿まで見えてるのに飽き足らず、それをローアングルで……」

「でも見えない!」

「それが良い!」


 やはりどこの世界でも男子は男子ということだ。

 瑠奈はフムフムと三人の会話を聞き続ける。


「俺、今日放課後すぐ買いに行くわ」

「あっ、俺も!」

「二冊買っとけよ?」

「「ん、何で?」」

「ばか……どうせ今晩一冊はすぐに汚れるだろうが……」

「「っ、お前……天才か……!?」」


 そんなこんなで三人の放課後及び今晩の予定は決まったらしく、予鈴が鳴ると共に階段を上がってくる。


「でもまぁ、惜しいよな~」

「何が?」

「いや、胸がさぁ~」

「あっはは! それ禁句だって」

「いやいや、俺的にはちょいと胸の大きさが足りんのよぉ」

「まぁ、気持ちはわかる!」

「ははっ、本人に聞かれたら確殺だな」

「あの大鎌で一刀両断」

「ベッドの上では俺の妖刀ムラマサで瑠奈ちゃんを一刀両断だけどな」

「ベッドの上じゃなくて妄想の中での間違いだろ」


 瑠奈が立っているのは二階。

 踊り場から無警戒にそんな話をしながら上がってくる男子三人。


 こうなるのは至極当然のことで――――


「「「あっ…………」」」

「…………」


 階段を上がって曲がった先で出逢う一人と三人。

 三人は喉から絞り出すような驚愕の声を漏らし、一人はそんな三人を感情の読めない無表情で見詰める。


 徐々に顔から血の気が引いていく三人。

 そんな様子を、やはり無機質な顔で見詰める一人。


 三人の誰も「聞いてた?」などとは聞かない。聞けない。

 なぜなら、聞いているに決まっているから。


 三人のしでかしたことに罰を与えるかのような沈黙が、どんどん残り僅かな休み時間を削っていく。


 冷汗か脂汗かそのどちらもか。

 もう恐怖のあまり何が何だかよくわからない汁が男子三人をぐっしょり濡らしていく。


 瑠奈は、そんな三人の方へ無表情のまま無言のまま一歩踏み出した。すると、足がすくんで後退りに失敗した三人がその場に尻餅をつく。


 下目で見下ろす瑠奈と、座り込んで見上げる三人。


 瑠奈は二歩、三歩と足を進め、固まる三人を通り越した位置で止まった。


 三人が振り向けずにいると、瑠奈は彼らの背中側でスカートを折り畳んでしゃがみ込み、囁くように言った。


「そう言う話を学校でするときは、細心の注意を払わなきゃ……ね?」

「「「は、はい……すみません……!」」」


 瑠奈は立ち上がり、その場を去ろうと身を翻す。

 しかし、「あっ」と何かを思い出したように声を漏らすと、振り返らずに言った。


「そうだ。二冊買うのも良いけどソレ、電子版も出てるよ。電子版って、拡大できるし汚れないし……便利だよね」

「「「……っ!?」」」


 思わず振り返る三人。

 瑠奈は既に教室へ向かって歩き出していた。


 最初に沈黙で恐怖を与えたのは、貧乳呼ばわりしたことへの罰。

 しかし、瑠奈は別に雑誌についての思春期男子トークを咎めはしなかった。


 なぜなら…………


(まぁ、男心は熟知してるからねぇ……ワタシ……)


 経験者は、そう胸の内で語るのだった――――

瑠奈

「男の人っていつもそうですよね……! ワタシのこと何だと思ってるんですか!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 着物とかみたく乙ぺぇが大きいと着こなせない服はありますが、ぺぇが小さくて着こなせない服のが(自分のイメージでは)少なめですからね……つまり瑠奈ちゃんはモデルをやる為に…
[一言] 貧乳は地雷発言
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